左隣のアパートが火事を起こしたため、新妻のアユは朝から少しおめかしする習慣がついた。
どういうことだろう?
15年07月22日 13:22
【ウミガメのスープ】【批評OK】
[牛削り]
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「今日は遅くなるかもしれない」
夫のエイジは卸したての革靴に苦戦しながらそう言った。
「無理はしないでね。はい、鞄」
「ありがとう」
軽い抱擁を済ませると、エイジは玄関のドアを開けて外に出た。
そのドアを、アユが中からそっと押さえる。
エイジは長年の癖で、左に向かって歩き出した。
「あなた、そっちは」
アユは半開きのドアから顔を少しだけ覗かせて、エイジの背中に声をかけた。
「ああ、そうだった」
彼らの住んでいるアパートには、左右二つの階段がついており、エイジ・アユ夫妻の部屋から近いのは部屋から見て左側の階段である。
しかし先日、左隣のアパートで火事が起き、近い側の階段が延焼してしまった。
したがって、そちらが修理中の今、住人は右側の階段を使うしかないのである。
エイジは踵を返し、反対側へと歩き始めた。
夫が右へ行くならば、半開きのドアからその後ろ姿を見送ることはできない。
顔だけ覗かせるならパジャマ姿でいいが、全身を出すならそうはいかない。
火事が起きてからは、いつも朝から洋服に着替えるようになったアユ。
アユはドアを開けて外に出た。
「あなた」
エイジは半身だけで振り向いた。
「今晩はあなたの好きなアボカドサラダにするね」
「おお、楽しみ」
親指を立てる仕草をして見せてから、階段を降りて行くエイジ。
アユは彼の姿が消えるまで見守っていた。
寂しいけれど、ちょっと嬉しい朝のひととき。
アユはこの時間が大好きだ。
【要約解説】
火事の延焼により、アユの住むアパートの、部屋から見て左側の階段が使えなくなった。
そのため、アユの夫は通勤の際、右側の階段を使うようになった。
アユはいつも、外開きのドアを半分だけ開けて、顔だけを覗かせて夫を見送っていたのだが、上記によりそれができなくなった。
全身を部屋の外に出さざるを得なくなったため、パジャマ姿ではなく朝から洋服に着替えるようになったのである。
【解説の解説】
日本の玄関のドアは多くが外開きである。
内側から左側を押して開くドアの場合、部屋の外の左側を見る際にはドアを少し開けるだけでいいが、右側を見たければ全身を外に出すしかないのである。
総合点:1票 納得感:1票
納得感部門ツォン【
投票一覧】
「火事の前後の変化に着目した、素晴らしい問題です。」
2015年12月15日21時