【世界田中奇行】田中ご自慢のヘッドバット（問題ページ）

どんよりと濁った空の下。
二人の出会ったビルの前に進むには多くの人を掻き分ける必要があった。

KEEP　OUT

人混みを潜り抜けた先には、これ以上の侵入を阻む黄色のテープ。
そのテープの先にはチョークで描かれた白い人型。

「ゲシュ子・・・」
田中は声にならない声で、チョークで描かれた人物の名前を呟いた。

・・・

二人同時に飛び降り自殺を思いとどまった日。
その日から二人の恋人としての時間がゆっくりと動き出した。

しかし二人の関係は長くは続かなかった。

二人とも気持ちが冷めた訳ではない。
ゲシュ子の為に親が用意したレールは思いの外頑強であった。

二人が力を合わせてもそのレールを壊すことは叶わず、ゲシュ子は親が決めた男の元に嫁ぐことになった。

そしてゲシュ子はふりだしに戻る。
満月の夜。
二人が始めて会ったビルの屋上。
反対側の屋上に田中はいない。
ゲシュ子はゆっくりとその奈落に身を投じた。

・・・

そして田中は今まさにゲシュ子が身を投じた場所と同じ所に立っている。
その数十メートル下に描かれたゲシュ子の白い人型は深い闇に覆われて見ることはできない。
しかし、田中は吸い込まれるようにそこに向かっていった。

ぶつかる刹那。
遠ざかる意識の中。
その無粋で温度のない白い人型の中にゲシュ子が見えた気がした。


ようやく、一緒に、なれるね。


スピードに乗った田中の頭突きがゲシュ子の絵に炸裂した。ナイスチョーパン。


この話は私の過去問「FA･･･････？」http://sui-hei.net/mondai/show/10153の続きです。
牛削りさん、ごめん。バッドエンドになちゃったよ。