愛する娘が還らぬ人となったので男は喜んだ。
一体なぜ?
15年02月23日 00:40
【ウミガメのスープ】【批評OK】
[のりっこ。]
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若くして妻に先立たれ、子供が出来なかった博士にとって、
自ら作った人間そっくりなアンドロイドの娘だけが唯一の支えだった。
街の人々は珍しいものを見る様な目で、
“ロボットだ”、“ロボットが博士と歩いてる”と口を揃え、
後ろ指をさしたりした。
大切な娘に“感情”というものを与えていた博士は、
いつも人前では明るく優しい娘が、ひとりでいる時には
“涙”というものを密かに流している事を知っていた。
ある日、娘は博士に“胸中”を打ち明けた。
“私もパパと同じニンゲンに生まれたかった”
溢れ出す涙を博士に見られまいと必死に両手で顔を塞ぐ娘を抱き締めながら、博士は言う。
“ごめんな………本当にごめんな………
でも、お前はパパと同じニンゲンだよ。
何ひとつ変わらないじゃないか。”
………それからも、娘はずっと明るく、優しい娘でいてくれた。
愛してくれた博士を愛し、
街の人々にもずっと、ずっと変わらない笑顔で接した。
そんな純粋な“心”を持ち合わせた娘の事を、
“ロボット”などと呼ぶ人はもう、いなくなっていた。
娘は“父親”だけではなく、街のみんなからも親しまれ、
とても愛される存在になっていた。
娘の“死”は突然だった。
道路に飛び出した子犬を助けようとして自らが犠牲になった交通事故。
“修復”可能だったかどうかは、わからない。
ただ、博士は哀しみに暮れながらも、
“修復”などという行為はしなかった。
沢山の花束を供え、街のみんなが涙を流した。
決して、“壊れたロボット”などではない。
“どうか、亡くなられた娘さんに、
お線香を上げさせてください”
“本当に、可愛らしくて優しい、
良い娘さんでしたね”
あたたかな街の人々の声を聴き、
涙を拭った博士は微笑みながら手を合わせた。
還らぬ“人”となった、愛する娘に。
総合点:6票 チャーム:1票 トリック:1票 伏線・洗練さ:1票 物語:3票
チャーム部門からす山【
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「娘が還らず喜ぶ。博士が人非人でなければ、何かよっぽど深い事情があるものと思わせます。かなり高いチャーム。」
2017年10月07日22時
トリック部門からす山【
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「問題文を一瞥しても、とてもそこに非現実トリックがあるようには思えません。しかもそこに気付いても、そこからさらに何段階もあります。何とも難度の高い物語。」
2017年10月07日22時
伏線・洗練さ部門春雨【
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「還らぬ人となったのに、じゃないんです。還らぬ人となったので、なんです。」
2016年01月04日02時
物語部門からす山【
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「博士さえ「人」だと思っていれば、娘は「人」といって良かったのかもしれません。街の人々に「人」として認められる必要などないのかもしれません。最初は博士もそう思ったかもしれません。けど、最終的に娘を「人」として愛してくれ、様々な言葉をかけてくれ、本当に娘の死を悲しんでくれる街の人たちを前にして、博士は、娘が、本当の意味で「人」となったんだな、と、静かに、本当の喜びを感じながら確信を得られることは、幸せなことなのかもしれません。娘は結局最後まで、事実として本当の「人」ではなかったとしても、ある意味で本当に還らぬ「人」になることは出来たはずだと、博士が確信できたことが本当であると信じたいです。」
2017年10月07日22時
物語部門春雨【
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「解説を読み終えた後、問題文の接続詞が逆説でなく順接である意味を知る…。」
2015年06月07日23時
物語部門華【
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「物語の美しさに」
2015年04月29日00時