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ウミガメのスープ 本家『ラテシン』 
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項目についての説明はラテシンwiki

【無茶振り三題噺18】殺人を無罪にする方法(問題ページ

子座生まれのミノリは幼い頃両親が離婚したので長らく母と二人暮らしだったけれど、この度母が再婚することになった。
相手も母と同じくバツイチの子持ち。子供は年齢的にミノリの妹に当たる。

ミノリはおやつのチョコや豆大福を分け合ったりして表面上は妹と友好的な関係を装っていたが、内心では妹のことも父のことも、長年を共に過ごした実の母のことでさえも毛嫌いしていた。

そこである日ミノリは両親を殺す決意をした。
古着屋に行くという妹に車を貸して外出させ、その隙に自宅で両親を殺したのだ。

……しかし結果として。

裁判では『ミノリが両親を殺していないという証拠』が見つかったため、ミノリは犯人であるにも関わらず無罪放免となった。

状況を補完して、『ミノリが何故無罪になったのか』を推理してください。




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※この問題は「チョコ」「豆」「双子」
のお題をもとに作られた三題噺の問題です。

~無茶振り三題噺とは?~

「三つのキーワードから問題を作ろう」という企画です。
詳しくは、掲示板『ラテシンチャットルーム』の『無茶振り三題噺』をご覧ください
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15年02月15日 18:48
【ウミガメのスープ】 [オリオン]



解説を見る
の名前はミノリ。
妹の名前はミドリ。
私達は双子座生まれの双子なの。

人懐っこく活発で、誰とでも仲良くできる妹と
妹がよく話して笑う分、黙ってじっとしていることが多かった私……

……ーー見た目は同じなのに中身は正反対の双子。

周囲は幼い私達に対してそんな判断を下し、私を『陰気で何を考えているのかよく分からない姉』『子供なのにクスリとも笑わないで気持ちが悪い』とコソコソ罵った。

別にそうやって陰口を叩かれるのは、全く構わなかった。

実際彼らの言う通り子供らしくない子供だった私にはそんな言葉を投げかけられても、泣けばいいのか、怒ればいいのか……ちっとも分からなかったし、
そもそも『言葉程度』では、幼く未発達な私の心はちっとも痛まなかったからだ。


ーーーーでも、


「イタいッ!イタッ…いよ!おかあさんっ!やだ!」


そんな私だって
殴られたり
蹴られたり
つねられたり
煙草の火を押し付けられたり
すれば、当然痛みを感じる。

母はふとしたきっかけで日常的にヒステリーを起こしては、私に暴力を振るう人だった。
物心ついた頃には、気がつけば母に関する記憶は、痛みや苦痛と直結した物ばかりになっていた。
優しくしてもらったことなんて一度もない。

頭を撫でてくれる手の柔らかさも
抱きしめられた時に感じる感触も
出来立ての料理の美味しさも
ただいまと出迎えてくれる温かな声も

それらは全て、純真で可愛らしい私の妹にのみ向けられていた。

私はそれを遠くから眺めながら、あそこにいるのがもしも私だったらとたまに想像してみたりするだけ……。



◆◆◆



あるとき

一度だけ父に

『助けて』と

つい口走ってしまったことがある。今にして思えばなんていう気の迷いだったんだろう、無駄なあがきだったんだろうと反省している。愚行極まりない。

小さい頃の私は、
いつか家族みんなで仲良く暮らせる日が来るんじゃないか
……なぁ〜んて人並みな希望を夢見ちゃってる馬鹿なガキだったのだ。


私が父に助けてと言ったあの日は、確か日曜日の朝だったはずだ。
リビングのソファーに鎮座していた父は私の言葉を耳にして、一瞬、鳩が豆鉄砲を食ったような顔になったが……すぐに唇をわなわなと震わせて、感情が抑えきれていない声でこう言った。


「何を言ってるんだ。結婚した頃はあんなに優しかった母さんがあんな風になったのは……お前のせいだぞ」


父や妹が母のヒステリーの標的になったことは一度もない。いつも私だけ。私一人だけ。
父の膝の上では綺麗な緑色のワンピースに身を包んだ妹が絵本を読んでいる。
妹は自分の名前と同じ緑色が大好きで、自分の所有物にとにかく緑色の物を欲しがるのだ。おかげで妹のお下がりしか使わせてもらえない私の所有物は、必然的にくすんだり汚れた緑色のものばかりになって…………気持ち悪いったらありゃしない。
私は緑なんか大っ嫌いだ。

絵本を読みながら足をパタパタと動かして遊んでいる妹の様子はいかにも、これは自分には全く関係のない話題だとでも言いたげだった。

皮肉なことに、これだけ扱いに差があるというのに、私と妹はあいも変わらずそっくりだった。違うところといえば、妹の綺麗な体に比べて私の体は服の上からでは分からない場所が傷だらけってことくらいか……。
せめて愛を過剰摂取した妹が醜く目も当てられないくらいに太ってくれたりすれば、私のこのやり場のない気持ちも少しは紛れたのに。

「幼稚園の先生や他のお母さんがたに、お前のせいで色んなことを言われてるんだよ。母さんはそれで神経をすり減らしてあんな風に……昔の母さんは、あんな……あんな風なんかじゃ……」
「…………うん。ごめんね、私が悪いんだよね。ごめんなさい、おとうさん」

目頭を押さえて黙り込んでしまった父の膝の上で、頭上の父の苦悩など気にせず絵本に夢中になっている妹を一瞥し、私は二人に背を向けた。
自分が着ている薄汚れた緑のスカートの裾に爪を立てた……。




父と母の離婚が正式に決まったのは、それから間も無くのことだった。




世間体というやつなのか、近所や会社には性格の不一致が原因だと説明したらしいが、それは違うことを私は知っている。


そうだ、私は忘れない。
…………忘れるもんか。


妹の親権だけ必死に勝ち取るとさっさと家から逃げ出していった父も

一人だけ天使のように微笑んでいた純真過ぎる妹も

残された私を『貧乏くじ』と呼んで踏みつけてきた母のことも



私は絶対に忘れない……。




◆ ◆ ◆




かくして私は長年母と二人で暮らしてきた。


最初のうちはそれまでのように殴ったり蹴られたり、痛い思いをしてばかりだったが、私が成長するにつれそれも減っていった。
人並みに嘘を吐いたり楽しくないのに微笑んだりするすべを私が身につけたからだ。


「お母さん今までごめんね、これからは私、いい子になるね」


そう言って笑顔で甲斐甲斐しく世話を焼けば、最初の数年は私の豹変ぶりをいぶかしんでいた母も、やがては私のことを信用した。

人がいいことだ。

そして更に年月が経った頃。


お父さんと再婚しようかと思ってるの


母が嬉しそうに私にそう報告した。芸能人なんかでもたまにある、元サヤ婚というやつだ。
私は父と妹と四人で再び一つ屋根の下で暮らせるという事実に、珍しく心から胸が踊り、すぐに賛成した。


十数年ぶりに再会した父はあの頃の面影をほんの少し残すだけであとは様変わりしてしまっていたが、妹は相変わらず私と見分けが付かないほどそっくりだった。


二人とも私が笑顔でもてなすと飛び上がるほど驚いていたが、お茶菓子のチョコと豆大福を分け合って食べる頃には、父はすっかり私への警戒心を解いたようだった。
私が全てを水に流したと思ったいるのだろう。

馬鹿な男……。

妹も、私の分のお菓子を少し余分に分けてあげたくらいで「ありがとうお姉ちゃん!」なんて無邪気に喜んでいる。

自分が嬉しければそれでいいっていうその腐った考え方、まだ治ってないんだね。


その日から、いつか私が夢見ていたような理想的な生活が始まった。
両親も妹も私も全員が幸せそうな笑顔を浮かべている、そんな気が抜けるくらい穏やかな日々。



だけど私は、絶対に三人を許さない。






だから実行した。







ある日。
妹が遠くの古着屋に手持ちの服を売りに行きたいと言いだしたので、私はこう提案したのだ。

「だったら私の車で行ってくるといいよ」

そう言って私の車と免許証を妹に差し出す。

「免許証まで貸してくれるの?」

私の申し出に首を傾げる妹。

「うん。だって無免許運転するわけにはいかないでしょ?

他の人ならともかく、私達なら免許証を使いまわしてもバレないわよ。

それにあそこの古着屋って売るときに身分証明書の提示を求められるでしょう?

保険証とかだと身分証明書として成立しない場合も多いし、ミドリはパスポートも持ってないんだから、顔写真付きの免許証を持ってっちゃったほうが手っ取り早いじゃない?

だから、私の免許証を使って、私のふりをして売ってきたらいいわよ

大丈夫
私達は双子なんだから

誰も気がつかないわ……」

飛びっきりの笑顔でそう言う。
これは私には珍しく、
作り笑顔ではない本当の笑顔だった。

「な〜るほどね〜!さっすがお姉ちゃん!あったまいいやっ!」

妹はしきりに感心して、何の疑いもなく私から、車のキーと免許証を受け取って出かけていった。
妹の乗った車に手を振って見送る私。


…………いや、違うか。
あの車に乗って服を売りに行くのは、ではなくだ。

妹があの免許証を見せれば、この日この時間に服を売りに行ったのが私

家に残っていたのが妹の方ということになる

古着屋の店員がそう証言して、私のアリバイを証明してくれることだろう。


「……っふ。ふふふっ」


込み上げてくる笑顔が止まらない。なんて愉快なんだろう。
今日で今までの人生とはオサラバだ。
私は今日から、本当の意味で自由になる!生まれて初めて自由になるのだ!
家族という呪縛からようやく解放される!


さようならお父さん
さようならお母さん
さようなら妹



家族がいなくなったら、大好きなチョコレートを好きなだけ一人で食べよう。
可愛い洋服を買いに行って、目一杯おしゃれしよう。



そんなことを考えながら、

私は台所から包丁を持ち出すと

今日も平和な1日を過ごせると勘違いしている両親の元へと向かった……。













【簡易解説】
母親は離婚した相手と再婚したため、妹とミノリは血の繋がった実の姉妹

しかも一卵性の双子である

両親の殺害を企んだミノリは、妹が服を売るときの身分証明にミノリの免許証を使うように仕向け、その隙に両親を殺すことで、

ミノリはその時間帯には服屋にいたというアリバイを作り出し、代わりに妹を犯人に仕立て上げたのだった。
総合点:5票  チャーム:1票  トリック:1票  物語:3票  


最初最後
チャーム部門ドタオング
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「問題文の情報量が適切で、解くべき謎や状況をより不可解&強烈なものに仕上げております。」
2015年09月26日21時
トリック部門ドタオング
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「答えの核となるトリックが、この物語を成り立たせています。」
2015年09月26日21時
物語部門黒井由紀
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「まさにタイトル通りの、「殺人を無罪にした方法」を問う正統派ミステリ問題です。そのトリックは、あなたを物語の水底に引きずり込むことでしょう。」
2016年04月09日16時
物語部門松神
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「深い物語と立場を利用した斬新なトリック。まるで推理小説を読んでいるような気分になりました。」
2015年11月20日00時
物語部門ドタオング
投票一覧
「少女が抱いた親への殺意と妹への憎悪。あまりにも悲劇的なこの物語は、「物語部門」で投票するのにふさわしいです。」
2015年07月28日23時

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