真っ赤に染まる手のひらを見て、
アキラは秋の訪れに心の底から感謝した。
どういうことだろう?
14年11月16日 17:21
【ウミガメのスープ】【批評OK】
[牛削り]
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初秋のある日のこと。
会社員のアキラは外回り中、何気なく入った路地裏で、倒れている女性を発見した。
慌てて駆け寄り助け起こす。
「おい、大丈夫か?」
呼吸が細い。体温も低いようだ。
すぐに119をダイヤルした。
その時アキラは、自分の手のひらが真っ赤に染まっているのに気が付いた。
もう一度女性を見ると、左腕から出血していた。
刺されたらしい。コンクリートに赤黒く血が染み込んでいる。
喧嘩に巻き込まれたか? 通り魔か?
一瞬考えたが、今はそんなことはどうでもいい。
──救急車が来るまでもつか!? 止血をしなければ。しかし……!
止血に使えるようなものがあっただろうか、と思いを巡らす。
と、首元にあるその存在に思い当たった。
──ネクタイがあるじゃないか!
アキラはネクタイを外し、女性の左肩をきつく縛って止血した。
数分後、救急車が到着し、女性は一命を取り留めた。
応急処置がなかったら危ないところだったという。
「よかった……」
アキラは、数日前に秋が到来し、クールビズが終わっていたことに心の底から感謝した。
〜後日談〜
数日後、快復したチアキは御礼を言いに、助けてくれた男性の家を訪れた。
ドアを開けて出てきた男性の顔を見て、倒れている時の記憶が朧気ながら蘇った。
彼は、自分のスーツが汚れることも顧みず、必死で自分を救ってくれた。
その真剣な眼差しを思い出すと、胸のあたりが熱くなる。
「その節は、ありがとうございました!」
「ああ、あの時の……。元気になったんですね」
男性は優しく微笑んだ。
「あの、私、その……」
声が小さくなってしまう。
「その、御礼に……」
動悸が抑えられない。
チアキは持ってきていた紙袋を身体の後ろに隠した。
「……御礼に、今度お食事でも、その、行きませんか?」
男性は、ニッコリ笑った。
秋。
葉っぱも心も、色づく季節。
総合点:1票 納得感:1票
納得感部門春雨【
投票一覧】
「季節の移ろいと赤、結びついた時の爽快感たるや」
2015年08月26日22時