動画内など、他所でラテシンの問題を扱う(転載など)際について
ウミガメのスープ 本家『ラテシン』 
いらっしゃいませ。ゲスト様 ログイン 新規登録
項目についての説明はラテシンwiki

大切なもの(問題ページ

子のリュウヤがまた駄々をこね始めた。
転んだ拍子に、お小遣いの10円玉を自販機の下に落としてしまったらしい。
新しいのをあげると言っても聞かず、
「あの10円玉がいいの!」
の一点張り。

こっちは疲れてるんだから、大人しく遊んでてよもうっ!
10円玉なんてみんな同じでしょ? なんでそんなにこだわるの!?
14年09月10日 23:12
【ウミガメのスープ】【批評OK】 [牛削り]



解説を見る
が死んで1年になる。
一人でリュウヤを育てなければならなくなった私は、面接を受け、事務の仕事を始めた。
朝から夕方まで職場のオヤジに気を使い、夜は人一倍弱虫の息子の面倒を見た。
リュウヤは毎日泣き言を持ってくるので、頭を撫でて慰めてやらなければならなかった。

「女手ひとつ」という言葉は嫌いだった。
誰からも同情なんてされたくなかった。
だから弱音は絶対吐かないと決めていた。

「もう、10円玉なんてどれも同じでしょ!?」
「ヤダヤダ! あの10円玉がいいんだ! ママ取ってよ!」
「あーもう! わかったわよっ」

たった一人の愛する息子。
できることなら、いつも優しいママでありたいのに。
ヒステリックな声を上げる自分を遠くから眺めている私がいた。

自販機の下に手を伸ばそうと、足を折る。
両手を地面につき、覗き込もうと頭を下げた。

その時だった。

頭頂部に、柔らかなものを感じた。
暖かい、小さな手。
それが、私の頭をさすっている。

「ママ、いい子いい子だよ」

リュウヤの声。
語彙の少ない4歳児の、精一杯の「お疲れ様」に聞こえた。

(僕はわかってるからね。ママがいつも頑張ってくれていること。ちゃんとわかってるからね)

夫が死んだときも泣かなかった。
仕事や育児がどんなに辛くても、歯を食いしばってきた。
でも、今初めて、私は泣いた。

顔を上げる。リュウヤは私の涙を見て驚いた顔をする。

都合のいい妄想かもしれない。
リュウヤはただ、私の真似をしたかっただけなのかもしれない。
でも。

私は涙を拭った。

「10円玉、取れなかったよ」
「そっかー、ざんねん」
「そしたらさ、こっちの100円玉で、ソフトクリームでも食べようか」
「え、いいの?」
目を輝かせるリュウヤ。
私の一番、大切なもの。

「いいのよ。ご褒美。リュウヤと、それから私に」
総合点:1票  物語:1票  


最初最後
物語部門からす山
投票一覧
ネタバレコメントを見る
「牛削りさんらしい、心温まる素敵な話でした。優しくて深い愛情があります。」
2017年10月25日20時

最初最後