愛息子であるカメオ(5歳)の長所や自慢話を、
まるで自分の事のように嬉しそうに語る母(親バカ)、カメコ。
しかし、当の本人であるカメオは、延々と語るカメコの横で複雑な表情を浮かべていた。
一体どうして?褒められて恥ずかしいのかな?
14年08月07日 00:09
【ウミガメのスープ】【批評OK】
[ruxyo]
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母の病室を訪れると、母は力のない挨拶をしてくれた。
「こんにちは、 あなたは、新しいヘルパーさんかしら?」
聞いた話の通り、すっかりボケている。息子の顔も忘れてしまったようだ。
「はい。カメコさんの趣味が『おしゃべり』と聞いて。少しお話でも、と思いまして。」
「あら、そうなの・・・何のお話をしようかしらねぇ。」
母はそう言って何かを考える仕草をする。
その時、がちゃり。と病室のドアが開く。
「あ、カメオさん、いらっしゃってたんですか。」
知り合いの若いナースだ。親不孝者の私がこうして母が死ぬ前に会いに来られたのも、こいつの手助けがあったからだ。
ろくでもない母親だったが、それでもあなたの母親だと言って、強引に面会をさせられた。
『カメオ』という名前を聞いて、母は少しだけ元気になる。
「まあ、あなたもカメオって名前なの? ウチの息子もカメオって言うんですよ・・・」
ナースが(しまった)と言う表情をする。
この部屋では『カメオ』や『息子』という単語は、母が長話を始めるので禁句なのだ。
「ウチのカメオくんはとっても優しくてねぇ、頭もいいの。5歳なのに、掛け算までできちゃうのよ?」
「その上顔も器量もよくて運動もできるの。この間なんてねぇ・・・」
「ウン・・・ウン・・・へぇ、そりゃすごいや・・・」
母がうわ言のように語る間、私はそう言って頷くことしかできなかった。
全く、なんて親バカなんだ。ウチの親は。
息子の自慢話を息子に聞かせるという、なんとも滑稽な光景。
私がその息子だとは、もう2度と気づいてはくれないだろう。
だが、母の嬉しそうな顔を見ると、どうしても話を中断して席をたつ気にはなれなかった。
母の寿命は近い。
きっとこのまま『私が5歳の頃の思い出』と共に死んでゆくのだろう。
人の死に際は、私に体験がないのでわからない。が、きっと不安だろうに。
古い記憶の中を生きる母は今、ある意味天涯孤独の身。
最期の見送りぐらい、最愛の息子に会わせてやりたいが、それが絶対に叶わないと思うと不憫で仕方なかった。
「パパ・・・カメオちゃん・・・早くお見舞いに来てくれないかねぇ。」
※短い解説
認知症を患い、最近の息子のことを認識できなくなってしまった母。 エーッ!
息子の自慢話を息子自身に聞かせるという、息子にとっちゃめちゃ辛いことをやっちゃったよ!
息子は、5歳の頃の愛されてる自分の自慢話を聞きながら、
「見知らぬヘルパー」に看取られながら『孤独に』死んでゆく母を思って、不憫に感じたのだった!
つまり、母が息子への愛情を表せば表すほど、
「その息子に『絶対に会えない』こと」がかわいそうだと考えたんだね!
(デデーン!)
総合点:1票 物語:1票
物語部門春雨【
投票一覧】
「真正面から褒められるのはこそばゆい物だけど、そんなもんじゃないほどのストーリーがあります」
2015年09月26日02時