【ラテクエサンクチュアリ】辛い、辛がりたい

辛

口のお酒が好きなミラ。

日本酒やワインは甘みやアルコール度数が低くてすでに物足りなくなっていた。



そしていわゆるスピリッツ（蒸留酒）を極めることにした。

最初は焼酎、ウィスキー、ジン、ウオツカなど、通常の酒を飲んでいった。



しかしそれすらも物足りず、６１．５度のシングルカスク（樽出しの未調整）やスピリタス（世界最高のアルコール度数９５度の酒）を飲み、それすらも飽きてしまった。

それに高価である。



ある日、料理をしていて指を切ってしまったミラは、消毒した時に気づく。



「消毒用アルコール･･･。80％ね。」



ネットで調べると１８Ｌ入りで５０００円くらい。

安い焼酎でも４Ｌで１５００円前後はする。

しかも度数も４倍だ。



ためしに少しなめてみる。



「ツンとくるけど飲める。わるくないわね。」



数日後、早速注文した消毒用アルコールが届いた。



そこに味を調えるための備長炭を入れて一晩。

さらに味にパンチを効かせる為にクロガネモチの実（苦味がある生薬）を砕いて加えた。



「…くは～！うまい！」



これをいたく気に入り、毎日飲み続けて数ヶ月。



突然視界がうせた。



医者に訪れた彼女は、一言言われた。



「メタノール中毒の症状が出ていますね。それに肝炎。…消毒用アルコールですか？」



「え、ど、どうして！？」



「聞いたことありませんか？メタノールの別名、メチルアルコールって。飲むと目が散るアルコールだって揶揄されているんですよ。体内で分解されて、網膜の組織に影響を及ぼす毒性物質に変質してしまうんです。」



「え、そ、そんな！」



「相当気分も悪いはずですよ？…根本的な治療もできませんが、当面は週に１回は人工透析を受けていただきます。その上で網膜の修復にに効果のある投薬治療を行います。」



「お、お酒…」



「死にたいんですか？」



それまでのやさしい口調での説明から打って変わり、突然首を刎ねるような鋭い声で医者は言った。



即日入院、断酒、透析、投薬。

それ以降、彼女の生き地獄が始まった。