ウミガメデイズ

いよいよ今日だ……

俺はごくっと一回つばを飲んだ。



「いいか。もう一度説明するぞ」



目の前の少女が俺に向かって言う。



彼女はダヴィンチの再来とも謳われている天才科学者だ。



彼女が今回発明した物ーーーそれはタイムマシンだ。



「タイムリープの時間は30秒。時間が過ぎたら自動的にここに戻ってくる。－－－だから、30秒以内に必ずケリをつけること」



なぜ彼女が俺をタイムスリップさせてくれることになったかは割愛するとして、なぜ俺がタイムスリップをしたいかは説明しておこうと思う。



俺は小さい頃、良く一緒に遊んでいた、カナという女の子がいた。

いつも一緒に遊んでいたのだが、ある日－－－カナはトラックに轢かれて亡くなってしまった。－－－俺の目の前で。



俺はその光景が今でも頭から離れなかった。



あの時俺が手を差し伸べていたなら－－－

反応できていたなら－－－



そんな思い出いつも胸が潰れそうだった。



「それと、タイムスリップ先が若干想定位置とズレるかもしれない。そんなにズレることはないと思うが……悪いが、そこは臨機応変に対応して欲しい」



だからーーータイムスリップして、カナを助ける。

彼女の話によると、俺がカナを助けたとしたら、その世界は「パラレルワールド」となって、この世界がないと存在出来ないが、この世界とは今後干渉することはないという。





それでもいい……



カナが、たとえどこか違う世界であったとしても、生きてきてくれるのならば……!!



「おい？ 大丈夫か？」



不意に少女が声をかける。



「あっ、ああ！ 大丈夫だ」



「じゃあ、最後に一つ……」





「なっ、なんだ」





「……無理は、しないで欲しい」







「……ああ、分かった！」



「それでは、行くぞ……！」



彼女が隣にあったスイッチを勢い良く押した。



「－－－っ！」





一瞬浮遊感が襲い、目を開けると、そこは、あの頃の公園の風景だった。



一瞬、状況整理をする。



ここは、確かにあの時の風景－－－



でも、本来は公園の入り口にタイムスリップするはずだった。



やはり少しズレたのか！





「じゃあ!!」



慌てて遠くの公園の入り口を見ると、そこへ向かって走って行く男の子と女の子が。





「待って！！」



瞬時に走り出すも、二人は道路の所に今にも飛び出しそう。



そうだ。カナが飛び出した途端、信号無視のトラックが－－－！





すぐ目の前！！



だけどカナが道路に飛び出す!!





「くっそおお!!!」



瞬間。

俺はカナの肩をつかんで公園の方に引き戻す。



－－－だが、俺は反動で車道に飛び出た。



「……無理は、しないで欲しい」





彼女のことばが脳裏で蘇る。



ああ、ゴメン……



すぐ隣ではトラックが。

ああ。これは、死ぬなあ。





そう思った時だった。





「ダメえ!!!」



その声と共に、俺の体はドンっと勢い良く突き飛ばされる。





だがそれはトラックにではない。

人の手によって。



え！？



ふと反射的に突き飛ばされた方に目をやると、そこにはさっきまではいなかった、一人の女性がいた。



瞬間。

その女性と目が合う。



その時、女性は俺に向かって微笑みかけたーーーような気がした。



その時。

トラックがその女性を引きずりながら横切った。



俺は隣の車線で尻餅をつく。



見たことのない女性だった。

なのに……俺はその女性が誰なのか、分かった気がした。



「カナ……？」



そうつぶやいた時。

俺の体に浮遊感が襲った。







目を開けると、タイムスリップ前の風景だった。



目の前には彼女が。



「全て、見ていたよ」



彼女はポツリと呟いた。



「一体、どういうことなんだよ！？」



俺が何について尋ねているのか、彼女はわかっているようだった。



「保険を、かけていたんだ」



そう言って、彼女は紙切れを渡してきた。



『カナへ』



と書かれたその紙を広げると、今回の計画について事細かに書かれていた。



「それを、君とは別にタイムスリップさせていたんだ。時間制限なしでね。－－－おそらく、我々は一度失敗した。君はカナを助ける代わりに、トラックに轢かれたんだ」





「死体は３０秒で全てこちらに戻るから消えるが、子供の彼らは確かにその光景を見ただろう。その紙切れに書いてあることを信じるはずだ」



「……おい、それって！」



「まあ、それを拾う拾わないは正直賭けだったが……っ!！」



俺は彼女に掴みかかった。



この紙にはこの計画と共に、彼女のその時の住所なども書かれてあった。



つまり……！



「カナは、タイムスリップした……！」







「……おそらくな。君を助けるためだったのか、あの時の不思議な体験の真偽を知るためだったのかは、はっきりとせんがな」



そして、タイムスリップをしたカナは、俺の代わりに……！



「なんでそんな保険なんか……！」



「私だって!! 君を、失いたくなかった……」



「っ……！」



その時。

俺は自分のポケットに何かが入っているのに気づいた。



「これは……」



見ると、それは一枚の紙切れだった。

あの突き飛ばされた時に、入れられたのだろうか。



広げると、女性の、綺麗な字で今回の顛末が事細かに書かれていた。



幼少期に事故に会いそうなところを何処かで会った様な男性に助けられたこと。

その男性が自分の代わりに轢かれたこと。

何故か死体は見つからなかったこと。

公園で例の紙切れを拾ったこと。

読んで、すぐにそれから少し後に彼女と連絡をとったこと。

仲良くなって、タイムトラベルに協力してくれることになったこと－－－。



そして、最後の行には、



『あの時の出来事が現実か夢かまだはっきりとしていないけど。本当に現実だったなら、私は君を絶対に助けるから』





と、添えられていた。







～～～よく分かる解説(真面目版)～～～



俺、タイムスリップをしてカナを助ける。

↓

カナと引き換えに俺、轢かれて死亡。

↓

カナ(幼少期)、その後メモを拾う。

↓

カナ(幼少期)、天才科学者の彼女と連絡を取り合う様になる。

↓

カナ(大人)、彼女が開発したタイムマシンで事故時にタイムスリップ。

↓

目の前で俺が轢かれる瞬間に飛ぶ。

↓

カナ(大人)、俺と引き換えに轢かれる。