KI CHO〜 MEN！

この日、恵俊明は恋人の石塚英子のアパートに遊びに行った。



英子は一人暮らしなので、恵は気兼ねなく訪れることができる。



通い慣れた部屋。でも今日はなんだか違和感がある。心なしか英子もそわそわしている気がする。



それはそれとして、尿意を覚えた恵は英子の部屋のトイレを拝借した。



用を足し、几帳面な彼は洋式便所の蓋を閉めようとした時に決定的な違和感に気づいた。



(ん？俺、便座上げてないよな？)



英子のトイレは恵が入った時から便座が上がっていたのだ。

女性が洋式便所を使用する際、便座を上げることはない。



男性の誰かが、このトイレを使用したのだ。



先ほどから感じていた違和感の正体がぼんやりと見えてきた。



恵は確証を得るため、トイレを出た後、手を洗いながら平静を装って英子に質問した。



「ねえ、最近トイレ掃除したのはいつ？」

「え〜っと、二週間くらい前かな？めんどくさいよね、トイレ掃除」



…これでトイレ掃除の為に便座を上げたという選択肢は無くなった。



「お父さん、遊びにきた？」

「え？いきなり何？この部屋にお父さん入れたことないよ。どうしてそんなこと聞くの？」

「じゃあ、誰か他の男を連れ込んだ？」

「………どうしてそんなこと聞くの？」

「連れ込んだんだな？」

「………そんなわけないじゃん」



質問の後の数秒の沈黙が真実だと告げていた。



「俺、帰るわ」

「………」



英子は恵を引き止めることができず、怒気を含んだ背中をただ見つめていた。



乱暴にドアが閉まり静寂が訪れる。



その静寂を破ったのは男の声。





「もう出てきてもだいじょうぶ？」