山形刑事の妖怪退治七　～ぬらりひょんの怪～

山形「うむ、違う部署の人間が出入りすることもなくはないが、すぐにわかるだろうな」

山形「うむ。まず最初に発覚したのは財布の盗難だ。交通課の婦警が訴え出た。以降発覚したものは、完全にばらばらだな。ペンだとか、レシートだとか、手帳だとか、電卓だとか、不思議なことにそういった小物ばかりだな」

山形「可能性としてはなんでもあり得るだろうな。各部署で点検をしたのも、副署長のゲリラ訓辞の後だしな」

山形「うむ、いくらかの出入りはあったが、全員顔見知りでちゃんと身元もわかっているものばかりだな。警備員も怪しい人間は見なかったと証言している」

山形「うむ、先ほどちょっと触れたが、レシートだとか電卓だとか、とても金目のものではないものばかりだな。むしろたまに金目のものがある、という程度だな」

山形「小動物か。きちんと清掃はしているし鼠なんぞはいないと信じたいが……今のところ目撃証言はないな。毛や足跡なども見つかっていない」

山形「つまり、別件がたまたま同時に起こったという事か。ふぅむ、違いと言ってもな……そういえば、最初の事件は本人の申告で発覚したが、他は全て訓辞後の点検で発覚したな。俺も調べ始めたばかりで話も聞いていないから、詳しいことはわからんが」

山形「うむ、ざっと聞き込んだところ、最初の盗難が発覚したのち、副署長がゲリラ的に各部署を訪れて、奇襲的に訓辞を垂れたらしい。そして副署長が去った後各自が持ち物を点検したところ、持ち物が紛失しているものがいた、という事らしい」 [編集済]

山形「結構ばらけているな。共通点としては比較的ものが片付いている部署は被害に遭っていないようだ」

山形「まあいくらなんでもこれだけ大量にしかも同時に紛失があるのも不自然だからな。訓辞の直後に発覚したというのも大きいだろう。ん？　そうすると最初の事件は………」

山形「金目のものであれば、小さいほうが簡単に隠せるから、だろうな。しかし今回なくなったものはむしろ安いものばかりだ。領収書なんぞ売れもしないしな。まっとうに考えれば愉快犯だが、なにせ警察署内で白昼堂々の犯行だからなあ……」

山形「いや、そういうことをしたことはなかったな。第一する必要もないしな。今回も副署長が激怒して、訓辞後に点検を指示したからだしな。」

山形「うむ、そうだな。まだ直接話を聞いていないしな」　……………　婦警「うう、その、実は、副署長の訓辞後に見つかったんです、財布。お昼食べに行ったときに忘れてきたらしくて、同僚が見つけて持ってきてくれました」　山形「………呆れた」 [良い質問]

山形「その部署というと、盗難が発覚した部署全てか？　うちの署も大き目だから署全体で150人ばかり、盗難のあった部署だとまあ80人くらいだろうか。時間を取って聞き込みという訳にはいかんだろうなあ。簡単に質問を絞ってくれれば、連絡を回して確認が取れるかもしれんが」

山形「うむ、わかった」　……………。　山形「最初の盗難騒ぎだが、署全体に広まったのは副署長の訓辞が理由らしい。なので大体の時刻を目安に思い出してもらったところ、忘年会の連絡についてが三件。経理課への書類提出が七件。出入りの蕎麦屋が三件。弁当屋が五件。他は清掃員の出入りがあったくらいだな」

山形「うむ、わかった」　……………。　山形「だいたいデスクの上に放置していたもののようだな。引き出しの中のものなどは盗られていないようだ。さっと盗ってさっと隠せるものだったということだな。まあ………一部は最初の事件と同じく勘違いというのもありそうだが」

山形「出前は複数の部署に来ているがすべてではないな。ゴミ箱のゴミを回収していた清掃員と、ゲリラ訓辞に飛び回っていた副署長くらいのものだな」

山形「それに関しては何とも言えん、という結果が出た。訓辞後に「よくよく調べたらなくなっていた」ために盗難だと判断されだけだから、以前から紛失していたのかもしれん。だが、今日付けの領収書が消えていたり、今朝までは確かにあったはずだと確信を持った回答も来ている。ついさっきまで使っていたペンがなくなった、なんかもな」

山形「個人的な付き合いがあるわけではないが、日頃から署の人間がたるんでいるとかなんとか怒っとったらしい。常識的に考えればやらんだろうが、しかしあの人ならやりかねんかもしれんなあ」

山形「うちの部署に来た時のことを思い出してみたが、これこれこういうところがだらしない、このデスクは片付けがなってないとか室内を歩き回りながら説教を垂れていたからな、直立不動の俺たちの目を盗むのは無理ではないだろうな。………そういえば奴さん、去年の忘年会の時は一発芸として手品を披露しておったな」

山形「うむ、ざらっと聞いてみたが、20で言っていたように室内を歩き回ってあちこち指摘しながらの訓辞……というか説教だったようだ。もちろん、その間我々は朝礼でもなしにびしっと並ばされて直立不動だ」

山形「この事件が盗難であるという認識の前提、そのひとつだな。副署長が奇襲をかけようとしてかかなりランダムに移動しているのでルートがよくわからんのもあるが、それなりの量があるはずの盗難物がどこにも見つかっていないのだ。本人の許可もとって副署長室も確認したが出てきていない」

山形「盗難物が見つかって副署長の痕跡でも見つかればいいんだが………いまも暇を見つけては署員が探しているんだがな。副署長かどうかはともかく、内部犯であるのは確かだしな。署長はいま入院していてな。一応電話で内々に処理するようにとだけは指示を受けているな」

山形「いや、そういうことはなかったな。一部にはかなり特徴的なものもあったし、他の部署で発見されればすぐにわかるだろうな」

山形「清掃員か。回収したごみは今頃一時的にまとめてあるはずだな。確認しよう」　……………。　山形「むっ、集められたゴミの中に紛失物らしきものの詰められた袋が発見されたぞ！　いま被害者に確認を取ってもらっているが、ほぼ間違いないようだ！」

山形「清掃員は全ての部署を巡っていたし、清掃員くらいしか訪れないゴミの収集所で盗難物が発見された。完全とは言えないまでも疑うには十分な状況証拠だな。本人はいまのところ激しく否認しているが」

山形「うむ、確認が済んだぞ。確かに『全ての紛失物』が入っていた。コンビニのビニール袋一杯にな」

山形「うむ、そうだな」　………。　清掃員「だから、私は何も知らないんですって。私はいつも通り仕事してただけなの。一階から順に各部屋、各通路のゴミ箱のゴミ回収して、それをここに持ってきただけなんですってば」　山形「ゴミなんていちいち確認していないし、どこで回収した袋かも覚えていない、とのことだ」

山形「うーん………経理に出す前の領収書だとか、電話番号の書かれたメモ書きとかくらいだろうな。個人的な思い入れなどとなると俺には分からんが」

山形「うむ、早速報告に行くか」　………。　副署長「何！？　盗難物が見つかったか！　それでどこに？　ゴミの収集所？　なぜそんな所に………まあいい、盗難物は記録を取り、持ち主が判明し次第返却したまえ」

山形「恐らくそうなっていただろうな。我々が発見した時も、他のゴミと同様の扱いで、あとから他のゴミの下から回収しようとしたらちょっとした騒ぎになっていたろうな」

山形「動機の上では副署長が疑わしい。だが盗難物は清掃員くらいしか訪れないゴミ収集所で見つかった。警察署内で起こった事件だけに俺たちも心情的に断定しづらいのが本音だ。犯人の推定はあんたらに任せたい」

清掃員「人が多い時間に掃き掃除すると邪魔になるからね。他は知らないが、うちでは朝早いうちに掃除して、昼と夜にゴミを回収するよ」

山形「32でも述べたが、清掃員か、動機の点でも盗難方法でも疑える副署長だな」

山形「うむ。話を聞いてみたところ、こいつ就業時間中にナンバー・クロスワードに勤しんでいたようだ。そこを副署長が奇襲。ペンを机に放り、クロスワードを書類の下に隠したらしい。結局副署長が態度が不審だとして机を調べ、クロスワードがばれてこっぴどく叱られたらしい。副署長が去った後、点検を指示されて机を見るとペンが消えており、どこを探してもなくなっていたのだという。このペンと思しきものもゴミ収集所の袋から発見された」

山形「おお、そういえば今回はそういった捜査はまで出てきていなかったな。小動物の痕跡の調査位か。調べてみよう」　……………。　山形「全て調べると時間が足りんので、まずランダムにピックアップした品々の指紋を取ったところ、所有者を含む複数の指紋が検出され、そしてすべてに共通して副署長の指紋が検出された。これから他のものも調査するが、恐らく全てから指紋が検出できるだろうな」

山形「うむ……指紋まで出てきているし、容疑者として拘束するには十分だろう。協力感謝する！」