大きいのと小さいの

老

婆は生まれつき、特殊な能力を持っていた。



人の余命残量が視えるのだ。

だからといってどこぞの少年のように、人の死を操るノートがあるわけでも、そういう存在がいるわけでもない。

ただ、みえるだけ。

誰かに言うわけじゃない。

誰も信用しないから。



だから普通に過ごしてきた。

ただ、若いころはまもなく命が尽きる人に、手を貸そうとしたこともあった。

だが、それらはすべて目の前で命を落としてしまった。



そのうち、彼女はあきらめた。

いや、悟った。

やはり寿命は、火のついたろうそくなのだ。

ろうが尽きるまでは何をしても消えないが、継ぎ足したり引き伸ばしたりすることはできない。

まして、御伽噺などにあるような他人の命（ろうそく）を奪ってひとつにまとめるなど、出来やしない。



強制的な死へのカウントダウンなのだ。



運命や宿命とは違うと思っている。

運命の行く末、死に様は変えられるだろう。

だが、死ぬタイミングは変わらない。

幾度となく繰り返し試し、導いた結果だ。



ぼやりと老婆は自らが営む雑貨屋の、入り口のガラス扉越しに外を眺めた。

通りの角に見覚えのある人影が見えた。

「おや、あそこの三人は、この辺に住んでた悪ガキ三人組じゃないか？」

老婆の店によく来ていた三人組は、現在年の頃四十代。

女性一人と男性二人だ。

懐かしさもあり、何の気なしに三人を眺めていた。

ふと三人の残量を見た。



「Ａ（女性）は残り30年くらいか。まあ、そんなもんかねぇ。」

「Ｂ（男性）は…３年？Ａと比べてもずいぶん短いねぇ。」

「Ｃ（男性）は…え？15分？殆どないじゃないか。」



不安を覚えた老婆は、三人を注視した。



数分後、突然ＢがＣに殴りかかった！

Ａはあまりのことに腰が抜けて動けない！

Ｂが最初の勢いのままＣを地面に倒し、ひたすらになぐりつけた！



そのうち、Ｃはピクリとも動かなくなった。



その間、およそ15分。



老婆は片手に持っていた携帯電話で警察に通報した。



すぐに駆けつけた警察官たちにＢは逮捕された。



それから３年後、Ｂは服役中に病死。



Ａは３０年の後に亡くなったが、老婆は事件から十年ほどで亡くなったためそれを知る由はない。





＊寿命がみえる。