ザ・コレクター

彼女は全ての真実を知り、自分を恥じ、復讐を誓った。



・・・



彼女には愛する夫がいた。夫は小さな下請け会社を経営しており、

とても裕福というわけではないが、多少の贅沢は許される。

それより何より、自分の愛した夫がそばにいる暮らしに非常に満足していた。



だが、夫は首を吊った。



大きな受注をもらい、無理をして施設を増設した矢先に、その取引先が潰れたのだ。

そんなことでは諦めない芯の強い男で、まだ当てはある、なんとかなると逆に彼女を励ましていたのだが、あくる日、夫が選択したのは「継続」ではなく「死」だった。



彼女は莫大な借金と、胸に大きな悲しみを抱え、途方に暮れていた。

そんな時に力になってくれたのが、夫の親友だった「今」の夫だった。



彼は彼女に親身になって接し、経済的な面でも彼女の支えとなり、ゆっくりと彼女の傷を癒していった。

彼女は昔から彼が自分に気があることを知っていた。彼自身の魅力もあったが、彼への恩義もある。また彼の経済力に惹かれたことも否めない。彼女は二度目の結婚を決めた。



彼は彼女に語った。俺は欲しいものは全て手に入れてきたと。初めて商談を成立させた時に記念に購入した腕時計、異例の人事で課長職まで上り詰めた時に手に入れた高級外車、事業を立ち上げて成功し、業界でトップに上り詰めた俺に手に入らないものはない。ただ美しいお前を手に入れるのは非常に難しかったと冗談めかして笑った。



彼女はその言葉に違和感を感じ、彼の事を調べ始めた。

そうして、前の夫の死が彼の仕業である事を知ってしまったのだ。



・・・



結婚記念日にあるドッキリで夫を驚かせたいの。皆さん協力して頂けないかしら？

彼女は壮大なドッキリを考えて、彼の会社に協力を仰いだ。

彼の大事なものを一つずつ奪っていき、最後にそれらを一同に集め、彼の目の前に持っていき、全てドッキリでしたとネタばらし。

社員達はその提案に難色を示したが、彼女がなんとか説得し実行される事となった。



彼は腕時計を隠され、外車が盗難され、社員の造反で社長職を降ろされ、家や高級な調度品は全て差し押さえられた。

最後に彼女が彼のもとを去り、彼が途方に暮れているところに一本の電話が。



あなた、お家まできてちょうだい。



彼が差し押さえられたはずの家に到着すると、そこには失ったもの全てがあった。

ご丁寧に車まで家の中に運びこまれている。

そこには笑顔の社員達と笑顔の妻。



「社長ごめんなさい！」「これドッキリなんです！」・・・



社員達が悪びれた顔をしながら口々に謝罪しているなか、彼は戸惑いながら、彼女に向き直って言った。



一体これはどういうことなんだ？ドッキリってどういうことだ！



彼女は、急に真顔になり、自分の顔に、ナイフを当て、こう言った。



いいえ、これはドッキリではありませんわ。あなたはこれから本当に全てを失うのですもの。



そのセリフの後に彼女はナイフで自分の顔を切り刻んだ。

彼が止めようと駆け出した瞬間、家が、腕時計が、外車が、社員達が、そして彼女が、大きな音と強烈な閃光の後に全て吹っ飛んだ。



彼も衝撃で吹っ飛ばされたが生きていた。瓦礫の中に埋もれ、破れた鼓膜と全身の打撲の痛みで吐き気を催しながら、

あぁこれは妻の復讐なんだな。

と悟った。



ドッキリってどういうことだ！と妻に問い詰めた時、彼は内心、安堵していた。こんな非現実的なことは起こらない、全ては嘘だったのだ。だがその直後に、さらに非現実的な光景が目の前に現れ、また全てを奪っていった。

そのせいで彼はまた次の嘘を期待している。この先も全てを失った事実を受け入れられないだろう。



彼女の復讐は完璧に遂行されたのだ。

その命を賭して。