殺人犯の男

私は今日、犯罪を犯すつもりだ。なんとも罪深き人間だろう。

今回初めての銀行襲撃。私はどことなく緊張していた。



…今夜４時半に行くか。

私は銀行前で覆面をし、銃を持ち扉を開けた。

あまり大きくはない銀行、そこに女が一人と店員が少数いた。

「金を出せ!」

私はそれだけを叫び、天井に銃を撃ち放った。

当然店員と女の客は竦み、ガタガタ震えていた。

…店員は金を詰め始め、震えながら、焦りながら金をどんどん詰めていく。

…私には娘がいた。あの子が17の時、妻が死んで絶望にくれた貧しい我が家では出稼ぎという方法で、娘は家を出て行ってしまった。

今更だが、その私の娘に恩返しをしたいと考え始めた。…こんな手で、だ…。

「お、お回りさぁん!」

ボーっとしている間に女がスキを見て扉に走って行った。

――まずい…!

私は咄嗟にそう考え、銃で女を撃ち殺した。

…瞬間、私は恐ろしくなり、金を置いてその銀行を出て、家に向かい逃げ出した。



ベッドに潜り込んで、ずっとガタガタガタガタ震え、とんでもない、想像をはるかに超えた罪を犯してしまった事に、その日あまり眠ることもできず、とうとう朝を迎えてしまった。



髪はぐしゃぐしゃ、目の下は隈ができ、たった一日でかなり老け込んでしまった。

リビングに行き、もしかしたらと思い、テレビをつけた。

「次のニュースです。昨日、市内銀行にて殺人がありました。」

…案の定、私がおこした殺人事件だ。犯人はまだ逃走中、か…。

あの時の店員は皆動揺し、警察にさっさと連絡できていなかったようだし…。運の月というわけか。私はほんの少し、胸を撫で下ろした。

「殺害された女性は――」

私の綻んでいた顔は一気に崩れた。

その女の顔の写真が映し出され、名前も発表されていた。

そう、私の娘の名前だった…。



私は…たった五年の月日で…。娘の顔を忘れていたのか…?

「鞄の中にありました携帯電話の友人とのメールの対話に、父親へ会うために上京する、といったサプライズをしようとした模様らしく――」

娘は私のために…。内緒で…驚かせようとしてくれていたのか…。



私は自分の過ち――娘の顔を忘れてしまっていたこと、しかも自分の手で殺してしまった事――に償い、銃をこめかみに当て、引き金を引いた…。



私は…果たして許されるのであろうか…?