『解雇されたワーカホリック』

海亀羅手之進は首切り役人であった。彼自身は、この任を受けたことを

誇りに思っていたが、周囲からは「不浄役人」と呼ばれ蔑まれていた。

家族もこの役を忌み嫌い、職を辞すよう求めたが、彼は聞く耳持たない。



ある日の夕方。羅手之進がいつもより早く帰宅すると、妻と子供が荷物を

まとめて出て行こうとしていた。「もう人から疎まれて暮らすのは嫌だ」と。



羅手之進は激怒する。俺がこの地位を築いたおかげで、裕福な生活が

出来たのではないか。それに、持ち出そうとしているその小判は何だ？

金は欲しいくせに文句をいうのか。なにより、俺の仕事を侮辱するな！



怒りに任せ、羅手之進は家族を斬り捨てた。一振り毎に、首が宙を舞う。

（ふははは、見ろ！俺が一番首をうまく刎ねられるんだ！！！）



而して羅手之進は捕えられ、自分の職場で首を斬られる次第となった。

「”首斬り羅手之進”が斬首刑だとよ」

「あれま、今度は自分が首を斬られることになったのかい、皮肉だねぇ」



彼の首を斬ることになったのは、まだ若い同心であった。

震える手で斬首刀を振り上げ、羅手之進の首に振り下ろす。



　ドッ。　　　…刀は首に当たったが、肉を切り裂いてすらいない。

「どうした！俺の首はまだくっついてるぞ！しっかり刎ねんか！」



若い同心は必死になり、何度も刀を振り下ろす。肉が裂け、血が飛ぶが

ただそれだけである。何十回と振り下ろしたが、首を刎ねるには程遠い。

結局、最後は小刀を使って無理やり首を切り落とすことになった…



その後も斬首刑は行われ、役人も入れ替わるが、長らく羅手之進一人が

刑を執り行っていたせいか、上手く斬首できるものは皆無であった。



罪人はなかなか死ねずに苦しみ、断末魔の叫びは町中に響き渡る。

その内、首切り役を担う一部の者は精神を病み、また一部の者は職務を

拒むようになった。誰も、斬首の役目など負いたくないのだ…。



ここに到り、羅手之進の評価が改められることとなった。

「奴が首切役を引き受けたお陰で、他の者が手を汚さずに済んだのだな」

「ああ、それに、罪人が悲鳴をあげる間もなく一瞬で首を刎ねる腕前…

今の役人が無様なだけに、余計見事に思えるわい」



忌み嫌われようとも、その役目を負う人間が必要なこともあるのである。





※　時代背景などの【補足】を、まとメモに入れておきます。色々興味深いので、ぜひご一読を！