ニコラとテスラ

｢ﾆｺﾗ｣と名づけられた彼女は､微笑みを絶やさない少女だった｡

それもそのはず､彼女は､女の子向けの着せ替え人形だ｡



ﾃｽﾗは､誕生日に貰ったその人形を､とても大切に扱っていた｡

親友のように､愛娘のように｡

髪を梳き､服を集め､小物を揃え｡

ﾃｽﾗが整えた｢ﾆｺﾗ｣のﾜｰﾄﾞﾛｰﾌﾞは､ちょっとした良家のお嬢様のように充実していった｡



しかしﾃｽﾗももう16歳。人形遊びをする年齢ではない｡

幸いにも綺麗に手入れしていたため､｢ﾆｺﾗ｣はまだまだ着せ替え人形としての価値がある｡

このまま使われずに朽ちるよりも､愛してくれる人を探してやろう｡

彼女は､｢ﾆｺﾗ｣と､ﾆｺﾗのためにあつらえた小物や衣装類一式の引き取り手を探すことに決めた｡



ﾈｯﾄｵｰｸｼｮﾝにかけると､幸いにもすぐに引き取り手は現れた｡遠くの町に住む少女の手に渡るようだ｡



発送の準備をするため､段ﾎﾞｰﾙにｸｯｼｮﾝ材を敷き詰める｡

｢ﾆｺﾗ｣と､彼女のための衣装や小物を一緒に詰め終えると､自分の手で段ﾎﾞｰﾙに蓋をした｡

そうして伝票に､送り先の住所と名前を書き付けて――



途端､思わず涙が溢れてきた｡

｢ﾆｺﾗ｣と過ごした日々が浮かんでは消える｡



｢あれ…おかしいな…｣



もうそんな歳でもないのに｡お人形遊びは､卒業したのに｡

それでも涙は止まらない｡



安易に決めるんじゃなかったかな｡別に､このまま手元に置いてあったって良かったのに｡

｢ﾆｺﾗ｣は世界にたった一人の､大切なお人形なのに｡



段ﾎﾞｰﾙ箱の蓋に､涙がぽたぽたと落ちて染みを作るのを､ﾃｽﾗはただ見つめることしか出来なかった｡