山形刑事の妖怪退治五　～ヒダル神の怪～

山形「それは間違いないようだ。アルバイトしていた店の店員が証言している」

山形「つまり………どういうことだ？」

山形「発見時の被害者の服装はごく一般的だ。体格も特徴的ではない。探せば似たような奴は見つかるだろうな」

山形「特にはなかったな。妙な薬品なり機械なりあるとでも思ったが、見当たらんな」

山形「すまんが、比較対象がないんでな。辻堂は犯罪歴もないし、健康だけが自慢で歯医者にも行ったことがない。住居もなくネットカフェを渡り歩いているので参考となる毛髪等も採取できなかった。所持していた免許証にも複数の指紋が付いていて特定できん。………だがそう考えると実際、こいつが辻堂だという根拠はこの免許証だけだな。方針は間違っていないはずだ」

山形「外傷や毒物の痕跡もなく、『ミイラ化させて殺す』なんてことでもなければ自然死、だろうな。運ばれた可能性もなくはないだろう。ただ、大分軽くなっているとはいえ人間サイズだ。持ち運びはさぞ目立ったろうな。折りたたんだら崩れちまうだろうし。遺体の下の草花の状態から、最低でも一週間はここに置かれていたようだ」

山形「うむ。先ほど述べたように外傷や毒物の痕跡はない。胃は空っぽ。ミイラ化していることから生前の時点で脱水症状にあったと考えるのが自然だろう。街中で野生動物がいなかったため、幸いにも損傷はほとんどない。個別に知りたいことがあったらその都度聞いてくれ」

山形「辻堂には兄弟はいないようだ。両親ともかなり早く死別している。親戚もいないようだ」

山形「一応免許証の入っていた財布も持っているな。指紋等は免許証と同じ。千円札が数枚と小銭がいくらかといったところか」

山形「この遺体にも治療痕はなかった。さて、行方不明者についてはまとメモに記載した。助けになることを期待する」

山形「アルバイト先の同僚や、大学時代からの友人などがいるな。密に連絡を取り合う相手はいないようだが」

山形「うむ、市内のネカフェを転々としているらしく、一週間前にも監視カメラにそれらしき姿が残っている店もあった。ただ問題を起こす類の客でもなく、あまり記憶に残っていないようだ」

山形「一応現在のバイト先のロッカーを調べたが、驚くほど物がないな。持ち出した後のようにも見える。他の店員がロッカーを開けたり中を掃除した記憶はないとのことだ」

山形「いや、人間関係のトラブルはなかったようだな。信頼できる味方は作らないが、明確な敵も作らないタイプらしい」

山形「仕事以外での付き合いが薄いせいかあまり確信のある答えは得られなかった。大体こんな感じだった気がする、と」

山形「繰り返しになるが、外傷の類はない。ミイラ化してしまっているため若干わかりづらいが、拘束の跡も見られないな」

山形「半年ほど前かららしいな」

山形「免許証の写真とアルバイトしていた辻堂は同じ人物であると証言が得られた」

山形「そのようだ。半年前から今の職場。一年半前から一年前まではまた別の職場だったようだ」

山形「生前の、一週間前の辻堂のことか？　いや、そのような証言はないようだ」

山形「見慣れない外国人、か。このあたりでは外国人自体をあまり見かけないな。目撃証言もない」

山形「主に飲食業などのようだ。大学時代の友人知人のつてなどを利用することもあるようだな。たいてい半年以内の短期で辞めるか、クビになっている」

山形「似たような服装、体格を見かけたという証言はあるな。街中や、公園、通行人やホームレスなど……」

山形「そのような不動産を契約した形跡は、残っていないな。第一ネカフェ住まいのアルバイターにとって軽い負担ではないだろうしな」

山形「詳細はまとメモで」 [編集済]

山形「免許証は大学時代のもので、更新していないようだ。住所は大学時代のアパートだったが、すでに別の人間が入居していた。管理人も次の入居先は知らないようだ」

山形「ホームレス！　成程その発想はなかったが、彼らは行方不明でも届けを出せんだろうし、彼らの中でコミュニティが出来ている筈だ」　……………。　「三か月ほど前から行方不明の男がいるようだ。体格も似通っている。失業者で、常にかなりの空腹状態にあったようだ」

山形「聞き込むのは『最近の消息』でいいのか？」　……………。　「一週間ほど前から姿を消しているのは確かなようだ。あまりひとところに落ち着く性格ではなく、知人の家に泊るよりネカフェに泊まる人種だったようだ。大学時代の知人によればそれは当時から変わらないようだ。他の件について聞き込むか？」

山形「眼鏡はかけていなかったようだが、正確な視力は不明だな」

山形「関係はないだろうな。もしこのミイラが行方不明のホームレスであるとすれば、財布は拾ったと考えるのが妥当だろう」 [編集済]

山形「最後に立ち寄ったネカフェに奇跡的に残っていた。グルメ情報や観光名所などを調べているな」

山形「定職に就いたことはないようだ。ひとところに落ち着けない性格らしい。」

山形「いるかもしれんが、些か遠いな。可能性としては高いのだが、なにしろ他県だ。はっきりいると確証がないと、他所の管轄に首を突っ込むことになるな。……………何か大事なことを忘れているな。『履歴書』でも見直してみるか……見落としていることがあるはずだ」 [編集済]

山形「住所は大学時代のアパートだな。免許証のものと同じ住所だ。………学歴、住所、他に何かあったような気がするのだが……」

山形「目立った資格は持ち合わせていないようだな。自動車免許くらいのものか」

山形「同上だな。字もきれいだし、なんでもそつなくこなしてしまいそうな印象ではあるが」

山形「氏名、住所ときて……なにか基本的だが重要なものがあったような気が……」

山形「そいつだ！　携帯電話の番号が履歴書に載っていた。こいつにかけてみよう」　……………。　「生存確認ができた。財布を落としていたが、気にしていなかったらしい」 [正解]

山形「手間かけさせんなと怒られたが、CTスキャンで再現してもらった。ホームレスたちによれば行方不明の男らしい。また、ホームレスの一人によれば遺体の履いているスニーカーは間違いなく彼が譲渡したものであるとのことだ」

山形「大学時代の知人など彼を知る人間に尋ねてみたところ、旅行が趣味で放浪癖もち。どうやら半年バイトして金をため、その金で半年旅行していたようだ」