懐古録

数ヶ月前より見知らぬ番号から電話がきていた。

頻度は三日に一回程度。



私は以前詐欺にあった経験から、知らない番号の電話は取らない様にしている。

今回はあまりにしつこかったので、その番号を数日前に着信拒否にした。



今思えば何故あの時に電話を取らなかったのか、とても悔やまれるところだ。



今朝私はDVDレコーダーのハードディスクに撮ってあったドラマを鑑賞していた。

惰性で見ているが、正直つまらない。

数年前までは胸が締め付けられるようなドラマもあったんだけどな。

なんだか嫌になって、お茶でも飲もうと台所に向かおうとした。



その時、うっかりリモコンを踏んでしまった。



レコーダー内で昔懐かしい機械の擦れ合う音がした。



どうやらVHSビデオの方の再生ボタンを押したようだ。

中にビデオを入れっぱなしだったらしい。

最後にビデオを使ったのはいつだったかな？



テレビの画面に映し出されたのは、私の青春時代そのもののドラマだった。



海の民宿においての、二人の男の友情物語。

当時付き合っていた恋人と二人で見て、熱く語り合っていた。

乗り気になって、よく海にも行ったっけ？



あれ？なんだか目があっついな。



ああ、あの見知らぬ電話。

もしかしたら彼女だったのかもしれないな。

もしそうならもう一度やりなおしたい。



もう一度だけ、恋をしてみたい。



私はおうおう言うながら、汚らしく泣いた。

泣いているうちにエンドロール。

私は停止ボタンも押さず、そのままあの番号に電話をかけた。



最初になに言おう。

久しぶりかな、それともいきなり告白とか？



そんなことを考えているうちに相手につながった。

そして私はビデオが切れる直前にでた文字を目撃し、唖然となった。



"このビデオは貸し出し専用です"



「はいもしもし、ビデオ・マンハッタンです」



ああ、私は一年前も同じことを考えていたんだっけ。



その後私は数十万の延滞料を払って泣いた。