奇跡を起こせ！

男は手品師だった。

中でも、男が一番得意としたのは、千円札を万札に変える手品だった。

子供たちはそれの驚き、男を魔術師だと思い、尊敬した。

男は一躍時の人となった。しかし、頂点に登れば、あとは下るのみ。

一年足らずで、男はテレビから姿を消した。そんな小さなものより、大脱出のようなものの方が人気があった。



しかし、男はやり続けた。

再び人々の前に立てるように。自分を思い出してもらうように。

男は手品をやり続けた。千円札を万札に変え続けた。

やめておけばよかったのに、男は過去の栄光にしがみつき続けた。



今日も男は手品をやる。

誰も振り向かない公園で、一人寂しく千円札を万札に変える。

その時、風が吹いた。飛んでいくお札。男の、最後の万札。最後の千円札。男の手元にあった、最後の、金。

公園で遊んでいた子供たちはそれを見ると、我先にとお札が飛んだ方へ走って行った。

結局、あの時も彼らが見ていたのは男ではなく金だったのだ。



お金を失い、絶望した男は家に帰り、首を吊った。

昔とはいえ、時の人だった男の自殺はニュースで大々的に取り上げられた。

「あーこんな人いたねぇ」お茶の間で主婦が煎餅を片手に呟く。



それも、じきに忘れ去られていくだろう。