緩慢な鮫

私の友達は、最近待ち合わせにいつも遅れてくる。

「ごめんごめん」と言いつつ、顔はにやけているのが気になって仕方がない。

そこで、私はある日、同じように遅れてきた彼女に、何故いつも遅れてくるのか訊いた。



「ああ、私ね、最近町を歩くと必ずといっていい程事件に遭遇するの。犯罪の匂いってやつを嗅ぎつけるのかしら？」



「へえ、どんなの？」



「あのね……事故だったり、殺人だったり……まあ、流血沙汰ね。それでいつも事情聴取」



流血沙汰の犯罪の匂いって、それまんま血の匂いじゃないか。



「それって何か鮫みたい」



「……それ、あながち間違いじゃないかもね」



その時浮かべた彼女の笑みが、妙に冷たくて不気味で、私はゾッとした。

けれど、すぐ後にはいつものあっけらかんとした彼女がそこにはいて、今のは勘違いだと思った。

思いたかった。





それから数日後、彼女と遊ぶ約束をしていたのだが、いつもより大分遅れていた。

メールをしても返信の気配すらない。段々と日は傾いていく。

何時間待っただろうか、彼女はついに来なかった。



その日の夜、私は彼女を見た。

淡々としたキャスターの声。凶悪犯として呼ばれる彼女の名。



彼女は正に、命を喰らう鮫そのものだった。