哀れな末っ子

※長いです。一番下に簡易版があります。



俺は家族4人で暮らしてた。

高校3年の俺と高校1年の次男、中学2年の三男と小学4年の末っ子。

両親は先月、事故に遭って死んでしまった。

遺産と俺と次男のバイト代で生活していたんだ。



生活はそこそこ順調だったんだけど、問題があった。

末っ子がショックでふさぎ込んでしまった。

だって目の前で大好きな母さんたちがあんなことに･･･。まだまだ甘えたい年頃なのに。

三男も、末っ子を慰めようと必死になってるけど落ち込んでいるのを知っている。

母さんたちいなくて寂しいのに、お兄ちゃん二人はバイトで帰ってこないからな。

次男もまだ高校生活にも慣れてないってのに忙しい毎日。

でも、兄弟4人で暮らせて幸せだった。

孤児院とかで知らない奴らと暮らすよりも断然よかったんだ。



けれど、そんな日々もすぐに終わった。



気分転換しよう、と久しぶりに4人で出かけたんだ。

バスに乗って水族館へ行くことになった。

バスの一番後ろの席で、俺、三男、末っ子、次男の順番に並んで座った。

「楽しみだねっ」

ずっとふさぎ込んでいた末っ子が嬉しそうに笑うのを見るだけで元気がもらえたんだ。

そして悲劇が起こった。

バスの前を走っていた車が急停車して、バスが追突してしまったのだ。

俺は咄嗟に三男と末っ子を守る様に抱えた。反対からは次男も同じ様に。

三男も末っ子をぎゅっと守るように抱きしめていた。

一番後ろに座ってたから、誰も怪我はしなかったんだが…。

玉突き事故って言うんだっけか。

後ろの大型トラックがこっちに突っ込んできてさ。



俺たち、末っ子を残して死んでしまったんだ。



末っ子はどんな気持ちだったんだろう。

目が覚めたら身体が痛くて、周りを見渡したらぐちゃぐちゃになった兄が3人自分を守ってて。

幽霊になって客観的に見たけど、一目で死んでいると分かってる姿だった。

硝子の破片で至るところが切れてるし、衝撃で変な方向に曲がった関節とかあったし、部分的につぶれてたし。

末っ子は泣かなかった。きっと泣けなかったんだろう。

死んでいると分かって、もうお兄ちゃんたちと水族館にも行けない、家にも帰れないと悟って。

変わり果てた兄たちに囲まれて、絶望しきった顔で固まってしまった。



末っ子は精神病院に入った。

俺たち3人は幽霊となって成仏できずにいた。

未練は勿論、一人残してしまった末っ子だ。

1人で、虚ろな目をしながら

「お兄ちゃん…おかあさん…おとうさん…」

とずっと繰り返している。

哀れな末っ子である。

両親を目の前で亡くし、その1か月後に自分を庇った兄たちを亡くしてしまうなんて。

･･･この子はもう、死んでしまったほうが楽だろう。

死ねば、俺たちにも、きっと母さんたちとも会えるし。

この事を次男と三男に話せば、同意してくれたんだ。

話し合った結果、俺が病院の人に取り付いて、寝ている間にさくっと殺した。

そしたらさ、末っ子が俺たちの前に現れて！！

「お兄ちゃん･･･？お兄ちゃんだぁ！！」

ああ、よかった。笑ってくれた。

弟たちも俺もようやく笑うことができた。

俺たちは皆で成仏した。



※取りつかれて殺人を犯した病院の人の末路は想像にお任せします。



＜簡易版＞

家族を亡くして見てられないほど衰弱し精神病院に入った末っ子。

1人で生き続ける方が辛いだろ、と末っ子を殺す。

再会して、兄たちも末っ子もようやく笑顔になった。