【ラテクエ62】庇を貸して母屋を取られる

「今という時代を踏まえた、この学校ならではの通学バスを作ろうと思う」

学園長が校内紙で語っていたこの言葉に、私は嫌な予感がしていた。



ここ数年その手合いに「絵師(※蛇足:ラテシンの称号とは関係ありません)」などと持て囃されて人気のある、アニメやゲームの原画なども手がけて所謂それっぽい絵を描くイラストレーターのひとりがどうやらラテラル学園のOBらしい。そんな噂が立ったのは最近のことだ。

美術の教師や学園長と談笑する姿を見た、という話も聞いた。

…まさか。



新学年を迎えて、不安は的中した。

お披露目された通学バスは、その「絵師」とやらが描いた我が校の制服に身を包んだ少女が全面に描かれた…紛うことなき「痛バス」だった。



運行当初は利便性から乗客も多かったが、やはりあまりに恥ずかしいのか、その手の趣味を隠さない生徒たちを除いて利用者はみるみる減っていった。いや、そういうの好きでもこのバスはちょっと…という生徒も多かった、そう思わせるくらいの絵だった。

また、毎朝のように駅や正門前でこの痛バスを撮影に来る向きの視線には耐えられない、そういう声は大きかったようだ。



学園としてはそういうサブカルチャーと美化される何かに寛容であることをアピールしたかったのかもしれないが、他に方法はなかったのだろうか。「理解される」ことを望んだのであって、「制圧する」ことを望んだのではない、そうではなかったのか—

このところ思うのは、そんなことばかりだ。



…私はといえば、今やもっと遠い隣の駅で降りて裏門から登下校している。