運を天に

カメオは全国で指名手配されるような超大物の犯罪者だ。

国中に名前も顔も広く知られており、知らぬ者は居ないという程。

もしそんな男が交通事故にでも遭って

道端で倒れていたりしたらどうなるだろう



ーーー死。



間違いなく警察に引き渡され、公衆の面前に引きずり出され

地獄のような責苦を受けた後に然るべき処置を...

つまり、死刑を免れることはない。

果たして交通事故で死ぬのとどちらが良いのだろうか。

カメオからしてみれば後者なことは確実だろう



カメオは交通事故に遭った時点で死を覚悟した。

運良く交通事故で生き残っても

動けないほどの大怪我をしたら死ぬ

生き残るにはほぼ無傷でその場を去るしかなかった



｢ああ、こんな情けない死に方するんだなぁ...俺は｣



次に目が覚めた時にはカメオは知らない天井を眺めていた



｢ああ...運悪く生き残っちまったんだなぁ、俺は。

どうせなら交通事故で楽に死にたかったのによ...｣





そう思いながらカメオがふと鏡を見ると



そこにはカメオの知らない『誰か』がいた。



実際にカメオではない人物が鏡に写っているわけではない。

本来のカメオとは遠く離れた容貌の『カメオ』がそこにいたのだ。



｢...なんだ、これは｣



看護師に話を聞いたところ

カメオの身体は事故の際に全身の皮膚が剥がれ

顔も原型を留めない状態になっていたらしい

そこを病院の凄腕外科医が手術してくれたとのことだった。

誰も彼のことをカメオだとは思っていないらしい。





ーーーなるほど。神はまだ俺を見放してはいなかったと...そういうことか

なら...思う存分やらせてもらおうじゃないか



カメオの瞳に鈍くも強い光が宿った。







その日、とある病院で爆発事故が起こったらしい。

原因は患者の見舞い品に仕込まれていた爆薬との事だ。

被害は死者2名、負傷者3名

死体の内1名は身元不明で全身が酷く焼け焦げており

現在警察が身元調査をしているとの事だ





だがおそらく死体の身元が判明することはないだろう。







そして真実は闇の中へと消えていく