【無茶振り三題噺15】茄子の漬物も人気メニュー

うどん屋でバイトするカメオ。

バイトとはいえ、店長候補。ゆくゆくは社員そしてのれん分けの一国一城の主を目指す。

だからこそ、夏場はぶっ倒れそうな暑さにも耐えて

茹で釜の前から離れず頑張る。でも暑い。どんなに気合い入れても暑いものは暑い。



「一服してきまーす。」

オーダーが途切れたわずかの間、裏手で一服、休憩タイム。

外は35度を超える猛暑だが、釜の前と比べりゃマシだ。

汗だくになるのはしょうがない。これが俺の仕事だ！誇れる仕事だ！

汗臭いからと、合コンにも誘われないけど。帰りの電車で睨まれるけど。



「みぃ・・・」消え入りそうな声が聞こえた。

声のする方を見ても誰もいない。

ふとゴミ置き場の陰に、小さな小さな猫を見つけた。

ダシカスの鰹の匂いに惹かれたのか、金網の隙間から必死に手を伸ばしている。

そしてカメオは・・・恋に落ちた。（マテ



それ以来、カメコと名付け、休憩の度にちょこちょこと食べ物を運んでやったり

のんびりあくびをする姿を鑑賞したりと、癒されていた。

しかし、カメコはお触り禁止！といわんばかりに、触ろうとするとヒラリと逃げる。

近寄ろうとするだけで、その距離を離れて行くので

両者の間合いは一向に詰まることがなかった。



ある日、お客の会話から

「猫もさー、犬ほどじゃないにしてもすっごく匂いに敏感なんだってねー」

という情報を得たカメオ。

「匂いに敏感・・・。そうか、そういうことか！

そうだよなー。汗臭い男じゃ、いやだったんだな～。ごめんよぉ、カメコ！」

と、軟派なチャラ男に早変わりしたカメオは、

バイトを終え、ドラッグストアに駆け込む。

生まれて初めて男性用フレグランスなるものを買い、全身に吹きつけまくった！

しかも柑橘系！だって『一番人気』の札がついていたから！



今日こそは！カメコにあんなことやこんなことを・・・うへへ。

台詞の割に、至って無問題な欲求を高め、期待に満ちてカメコを探す。

いつものように、店の裏でカメコを待っていると・・・来た！

「みぃ・・・」と相変わらず可愛い声で、気を持たせる距離だけ近づいてくる。

カメコを驚かさないように、そっと餌を片手に詰め寄るカメオ。



すると突然「み゛！？」と初めて聞く唸り声と共に

(ﾟдﾟ) ペッ、と後ろ足で砂をかける素振りを見せた後、カメコは夕闇に紛れ・・・

二度とカメオの前に姿を見せることはなくなってしまった・・・。



カメオ、何でミョウバンにしなかったんだ。

よりによって柑橘系って！





良い子の一行解説。

カメコは猫。自分が汗臭いせいで猫が懐かないと思ったカメオが、柑橘系香水をつけたから。