指先がチリチリする。口の中はカラカラだ。目の奥が熱いんだ！

こ

こは動物園の爬虫類館。

男は蛇の飼育員をしている。

週に一回のアナコンダショー（と言っても首にかけるだけの危険が少ないもの）の公演日だ。



アナコンダのリンダを首にかけ、両手で頭と尾を持ち巻き付かれないようにして客の前に現れた彼。



最初の数分は滞りなく進んだ。

唐突にハプニングが起きる。

客の一人が、お湯の入った保温タンブラーを投げつけてきたのだ。



「うわっちぃ！！！！？？」

熱さに思わずリンダから手を離してしまう。

と同時に、リンダも驚き彼の顔から首にかけて巻きつき締め上げる！



「ぐぇっ、げっ！？」

条件反射で首と巻きついたリンダの間に指を入れ、引き剥がそうとするが、５ｍはあろうかと言うアナコンダの力は人間で引き剥がせるようなモンじゃない。

何とか首が絞まりきらないようにするのが精一杯だ。



蛇は獲物の呼吸ごとに締め付けを強くすると言う。



首が絞まらないように力を入れる。

力みで息が漏れる。

リンダがさらに締め付ける。

さらに力を入れる。

息が漏れる。

さらに締め付ける。



悪循環だ。

次第にのどが焼け焦げるようにカラカラに乾いてきた。

だがしかし、この指を離すわけにはいかない。



繰り返すうちに指の感覚が失われていった。



この間、およそ３分。

観客たちが恐怖に立ち竦み、何とか動ける者がリンダを話そうとするがびくともしない。

あせって何人かが応援の飼育員を呼びに行った。



さらに数分後。

バシッと言うような音とともに激痛。



－ゆびが、折れた…－



力が入らなくなった手は、巻きついたリンダの体から引き抜くこともできなかった。



ゆっくりとじわじわ追い詰められることを、真綿で首を絞めると言うが、これはそういうものではない。

真綿よりも、両手でじっくり時間をかけて首を絞められているような感覚だ。



指が、首が、命が軋んでいく。

ゆっくり死んでいく恐怖を、彼はすでに覚悟していた。



－－－－－－－－－－－－－

後に判明したことだが、熱湯の入ったタンブラーを投げつけたのは、彼を付回していたいわゆるストーカーだった。

思いを寄せていた彼に振られた腹いせにした行為だということだ。



女性の束縛や執念は蛇の締め付けよりきついと言ったところか。