【ラテクエ ≡+≡ 】　「そらからのおくりもの」

ここは連邦軍の秘密基地、”サブロー”。

ギオン軍の猛攻により壊滅状態に陥った連邦軍の、最後の砦だ。



兵器の生産工場まで備えた地下施設はギオン軍にとっても脅威であったが、密林の地下洞窟に

建設された、この天然の要塞は、攻めるに難しいどころか、位置の特定すら困難であった。



しかも、この地域は年の９割は分厚く低い雲に覆われ、スパイ衛星や航空機の偵察も難しい。

だた、一年のうちこの夏の時期だけは、午前中の数時間、晴れ間が見えることがある。



…今日は、まさにその日だった。

抜けるような青空の下、ラテンシ族の少女ミハエルは、ジャンクルの中を駆けていく。



ラテンシ族は、定住地を持たず、ジャングルで狩り場を求めて移住し続ける部族であった。

２週間前、彼女の部族は狩り場を求め、北へ北へと移動していた。



しかし不幸なことに、彼らは”サブロー”から爆撃機が発進する場面に出くわしてしまった。

本来、現地民は条約で守られるはずだったが、現場の兵士は独断で「口封じ」を実行した。



結果、彼女の家族は皆殺し。彼女自身も重傷を負い、激流に流された。

下流で浅瀬に打ち上げられ、ワニに襲われる直前の彼女を助けたのは、ギオンの偵察兵。



治療により意識を取り戻した彼女の話を聞いたギオン兵は、彼女にこう持ちかける。

「基地の場所を教えてくれれば、家族の仇は討ってやる」、と。



彼女に断る理由などない。が、地図すら読めない彼女が、口頭で場所を教えることはできず、

案内するにしても、ギオン兵が一緒では、見つかったときに言い訳のしようもない。



よって、土地勘があり、密林での移動に長けた彼女が単独で現地に向かい、信号弾をあげる、

というてはずとなった。



晴天の日を選んだのは、衛星や高高度の偵察機からも地上が視認できるというのもあるが、

そういう条件下では”サブロー”からの出撃もほとんどないと見込んでのことであった。



彼女が目的の場所に着くと、はるか上空にひと筋の飛行機雲が見えた。

かなり高い高度なので、飛行機雲がなかったら、機体を確認するのは容易ではなかったろう。



彼女は飛行機を確認すると、偽装した信号弾を地面に立て、空に向けて発射した。

信号弾は上空に打ちあがると、花火のように派手な煙をまき散らした。



合図のあと、昼過ぎには攻撃が始まる予定だ。彼女は急いでその場を離れようとしたが…

ふと彼女は、何かが空を切り裂く音を聞いた。　上からだ。



見上げると、なにか黒い、大きなものが落ちてくるのが見えた。

文明を知らない彼女でも、それが不吉なモノであることは理解できた…



彼女のいる場所から、誤差数メートル。　しかし、そんな誤差など全く意味のないほど強烈な、

容赦のない威力の爆発が巻き起こった。



「…任務完了。あの中性子爆弾なら地下にもよーく効くだろうさ」



確かに、彼らは「少女の仇」は討ってくれた。しかし同時に彼女と、森林の生き物たちすべてを

道連れにしたのだった…