【ラテクエリサイクル】　「ボクには帰れるところがあるんだ」

桜が芽吹いたから、花見の場所取りの担当者になった。



私は張り切り、バスで行くことも視野に入れつつ、いつもの公園より少し足を伸ばし、

遠くても眺めのいい場所を探すため、自転車にジャージ姿で各地をかけ回っていた。



休日なのでヒゲも剃らず、朝飯も食わずに出てきたが、流石に喉が渇いてきたので

ジュースを買おうとジャージのポケットを探ったが、サイフが見当たらない。



そういえば、ジャージはポケットがユルユルだから、あまり貴重品は入れたくなくて、

いつもバッグに入れてたはず…　　あれ？　バッグ持ってきたっけ？　あれ？



私は、自転車を漕ぎながら、後の荷台にバッグがないか確認しようとして…





気がつくと、公園の桜の下で寝ていた。　

名前も何も思い出せない…　　どうやら、記憶を失っているようだ。



どうしたらいいかわからずボーっとしていると、公園にいたおじさんが、パンをくれた。

話を聞くと、この公園に住むホームレスだそうだ。　…私も、そうだったのだろうか？



それから、そのツルおじさんに仲間を紹介してもらい、ホームレス生活が始まった。

空き缶を拾って換金してもらったり、ダンボールに包まって眠ったり…



何日か経ち、ようやくその生活に慣れようとしていたころ…

その日は雨が降りそうなので、濡れずに済む場所をキープしようとしていると。





「カメヤマさん！　こんなところで何してるんですか！？」



突然、声をかけられた。　カメヤマ？　それが私の名前なのか…

「カメヤマさんが行方不明になっちゃったから、花見は中止になりましたよ！」



花見…？　　そういえば私は…　　花見の場所を探そうとして…　　ううっ！

「お、思い出したよ…。　私は自転車で転んで…　記憶を、失っていたらしいな」



「記憶…喪失ですか！　と、とにかく戻りましょう！　みんな、心配してますよ！」

「ああ、すまない…　会社のみんなには、迷惑をかけた」



家族にも心配をかけてしまったな…　でもそうか、私には帰れる家があるんだ…

…ふと、振り返ると、ホームレスの仲間が、微笑みながら私を見ていた。





「そっか、あんちゃんにゃ、帰れるところがあるんだな。よかったじゃねぇか！」

「いやあ、最初見た時、あんまりひどい格好だったから、てっきりお仲間かと…」



「ツルさんは、いつもそそっかしいんだよ！…ま、おれたちも迂闊だったけどな」

「…じゃあな、あんちゃん。　短い間だったけど、楽しかったよ」



…なぜかは、わからない。　だが、心の奥底から、涙があふれてきた。

「みなさん…！　いままで、お世話になりました！　このご恩は必ず！！」



「ははっ！　あんちゃん、やっぱり元から真面目な性格だったんだねぇ！」

「いいってことよ。　あんたがイケ好かない奴なら、相手にしなかったろうしな」



…そうして、私は戻っていった。　元の生活へ、そして懐かしい我が家へ…





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それから時々、あの公園には足を運んでいる。　私は彼らの社会復帰を願ったが、

彼らには彼らの事情があるようで、生活保護などの干渉は受けたくないようだ。



だから今は、時々差し入れをしたり、寒い時に様子を見に行く程度に留めている。

だけど、また桜の季節が来たら…　



きっとまた、ジャージ姿一丁で、みんなと一緒に花見をしに来よう。