ほこたて

僕には最強の盾があった。「匿名」と言う盾だ。



ネットにおいて「匿名」という盾は最強だった。



気に入らない芸能人に対して「貴方は生きてる価値がないです。消えてください」と言ってもいい。

失言した政治家に対して「日本の恥、死ね」と言ってもいい。

気に入らない国の人間に対して「人もどき。滅びろ」といってもいい。



何を言ってもいい。別に間違った事を言ってもいい。

ソースのない情報で人格否定してもいい。

いじめの犯人として間違った人の写真を晒してもいい。

間違った事を言っても誰にも僕のことは特定できないし、

日がたてば、どうせ僕は全くの別人になる。



味方はたくさんいる。みんなノーリスクで人を叩く快感の虜だった。



何を言っても責任を取らなくてもいい。

他人の人生をめちゃくちゃにしても、現実世界では何のリスクを負わない。





僕の盾は最強だ。いや、最強だった。





ある日、いつものように気に入らない芸能人のツイッターに「生きる価値なし。引退しろ」

とりプライしていると部屋のドアをノックする音がした。



ドンドン！「○○君、警察の者だけどちょっと開けてもらえるかな。」





僕はやり過ぎた。最強の盾「匿名」は、警察の「プロバイダ開示請求」という最強の矛によって破られた。

ある芸能人についてソースもないのに「女を中絶させたクズ野郎。泣かされた女はたくさんいる」と書いたのが原因だった。





「無職○○容疑者（38）ネット掲示板に事実無根の誹謗。名誉棄損で逮捕。」というニュースがお茶の間に流れた。

「３８歳で無職ｗｗｗ」「社会のゴミだなｗｗｗ」「世の中のためにも刑務所で首吊って死ね」

掲示板は男を中傷する書き込みであふれかえった。



男は執行猶予がついて出所したが掲示板に溢れかえる男への中傷を見て自殺した。