ドアには店名が刻まれたパネルが埋め込まれていた。
Bar 『Stick-Slip』
お喋り好きのバーテンダーが、不味くはない程度の酒を良心的な値段で提供する店だ。
客の多くは、酔うためではなく話をするために店を訪れる。
そのせいか、話が奇妙な展開を見せることも偶にある。
「いらっしゃませ。そちらの席へどうぞ。ところで、お客様。不思議な話はお好きですか?
この前、あるお客様から『宿題』を出されてしまいまして、これが正直言ってお手上げなのです
よろしければ、一緒に考えてもらえませんか?」
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『宿題』の概要
ある男性客が、不思議な体験をした。平たく言えば霊体験をしたそうだ。
その時の事を一通り話したあと、男は何かに気が付いたようで、青い顔になった。
そして、勘定を済ませて帰るとき「俺が気が付いたことを当てられたら、また会いに来るよ」
と言ったそうだ。
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バーテンダーに質問をして、彼に出された『宿題』を手伝ってあげましょう。
まずは『お客の話』がどのような内容だったのか、聞いてみましょう。
【亀夫問題】
一言コメント欄
バーテンダーさん、そのお話とはどんな内容でしたか?
えー、そうですね。なんでも、有名な心霊スポットに行ったとかで、そこで子供の幽霊を見たんだそうです。なんて場所だったっけなぁ?
その話に死という言葉は出てきましたか? [編集済]
ああ、出てきましたよ!その場所で何人も死人が出たんだとか。それも酷い話で・・・ [良い質問]
その何人も死人が出たのは、過去の話とか言ってませんでしたか? [編集済]
ええ、もう十五年も前の事件とか。当時は、かなり話題になりましたから、私も聞き覚えがありましたよ。 [編集済]
幽霊を見たその男性は、その後どうしたんですか?
驚いて逃げ出した、と言ってました。
男性は何人でその幽霊スポットに向かったのですか?
あれ?聞いた覚えが無い様な・・・確か、何人で行ったかについては、仰っていませんでした。ですが・・・ [良い質問]
一人とは・・・相当度胸のある方のようですね。 ところで、その場所がなんという場所かは思い出せそうですか?
えー・・・あ、思い出しましたよ!事件のことを聞いてくれたので、思い出せました。
一家惨殺ですか…。結局その犯人は捕まったんですかね?
いえ・・・迷宮入りしていたと思います。随分昔の事件ですから、来年には時効になるかと。
その惨殺された一家には、男性が見たという幽霊と同じ年くらいの子供はいたのでしょうか? [編集済]
ええ、いました。父親、母親、子供が三人の一家五人が被害者でした。
幽霊が出ると噂の場所に行った理由について、男性は何か言っていませんでしたか?
理由ですか?私も伺ったのですが「好奇心に負けた」と、仰っていました。 [編集済]
男が見た子供の幽霊は何人(体?)いたのですか?
確か、一人だったと。真っ暗な廃墟の中で、人の形の光が見えたとか。
ちなみにお聞きしますが、バーテンダーさんはその惨殺された家族について知ったのは男性客から話を聞いたときが初めてでしたか? [編集済]
初めてではありませんでしたね。とは言え、当時のニュースの内容程度しか知りません。民家の様子も報道で見たから知っているだけで、名前もうろ覚えと言ったくらいです。
光、と言うことは、はっきりと顔などが見えたわけではない、というわけですかね?
ぼんやりと見えた様です。苦しそうな、恨めしそうな表情をしていたと仰っていましたから。それはもう、臨場感たっぷりに。
その男は、話し終わった後、口を滑らせてしまったかのような顔をしていましたか?
あ!!言われてみれば・・・「何か不味いことを言った」様な表情でした。 [良い質問]
ところで、そのニュースでは、どのような内容が報道されていましたか? [編集済]
一般的な内容でした。被害者の名前、現場となった民家の場所と景観、怪しい人物の情報、そのくらいでしょうか。
では、その民家からの帰りには何か起こりましたか?
いえ、幽霊を見て逃げ出したところで話は終わってしまいまして、帰り道については何も伺っていません。
男性客は家族がどのように惨殺されたかについて詳しく話をしてくれましたか?
詳しく・・・そうですね。とても饒舌で、まるで見てきたように話されていましたね。今にして思うと、私を怖がらせるために誇張していたのかも知れません。
ふむ・・・あまり詳しい内容が報道されていたわけではないのですね・・・男はどこでその事件の詳細な情報を手に入れたのでしょうかね・・・?
言われてみれば、妙に詳しかったような気がします。少し違和感を覚えます・・・あと一つ・・・伺った話の中で、何か引っ掛かっていることがあるんです。
変な質問をして申し訳ないのですが、バーテンダーさんご自身は何も隠していませんよね?
え?私の隠し事ですか? 実は・・・もう四十近いのに独身なのです。私の秘密はこれくらいです。
引っかかっている事・・・話のどのあたりですか?
ちょっとお待ちを。怪しい所をまとめてみます。
ニュースで見た怪しい人物の情報について、何か覚えていませんか? [編集済]
報道されたのは、単独犯らしい。というくらいの内容だけで、有力な目撃者はいなかった様です。
被害者と殺害方法について・・・その男はどのようなことを話したのか教えていただけませんか? [編集済]
五人全員の名前を憶えてらっしゃいまして、仲が良い家族だったとか、子供が反抗期に入って喧嘩していたとか、まるでご近所さんのようでした。誰かから聞いたのでしょうか。
ちょっとお聞きしますが、その男性客は常連さんですか? 常連でよく知っているのでしたら、その男性の職業について知りませんか? [編集済]
そのお客様は初めていらっしゃたんです。『宿題』を出されたとき、その一度きりしかいらっしゃっていません。 [良い質問]
その3つのうちどれかに報道されていない内容で事件の重要な手がかりになりそうなものはありませんか?
手がかりですか・・・。犯人に繋がるような内容では無かったと思います。しかし、報道よりはずっと詳しかったのは確かです。
殺害方法について、なにか引っかかることはありませんでしたか?、例えば、警察が見つけていないはずの凶器を知っていた、とか
いえ。凶器については「鋭利な刃物」としか報道されていなかったのですが、お客様の話も「切り刻まれた」とか「滅多刺し」とかでしたから、矛盾や別の凶器の話は無かったです。
現場(民家)について、山道に面した、周りに何もない場所にあるという事以外で他に詳しく話していることはありましたか?
あ、ありました。今は廃墟になっているそうなのですが、その家の間取りを細かく説明しながら話されていました。 [良い質問]
男性の話した「殺害方法」についてですが、「方法」だけでなく「殺されている間の被害者の様子(悲鳴を上げた、苦しそうだった、など)」も話されましたか? [編集済]
ええ。話されていました。かなりグロテスクに描写されていて、聞いていて恐ろしかったです。最後に「まぁ、僕の想像だけどね」と付け加えていましたが。
ところで、その家は今どうなっているかわかりますか? [編集済]
もう十五年も前から放置されているんでしょうから、ボロボロの廃墟になっていると思います。心霊スポットとして有名みたいですから、調べれば様子が解りそうですね。 [良い質問]
すいません間違えました。何でもないです。 [編集済]
はい。ごゆっくりどうぞ。 [編集済]
廃墟ですか・・・もしかしてその男は家の中の部屋が何に使われていたか詳しく話していませんでしたか? [編集済]
ええ。ここは夫婦の寝室だった、ここは子供部屋、と住人が生活していた頃の様子を想像させるような口ぶりでした。 [良い質問]
男は、その惨殺された家族と知り合いといったような旨のことを話していませんでしたか?
いいえ。そのような話は全く。
ふむ・・・「15年前から廃墟となっている家からそこまで推察できますかね・・・?」
あ!! 不可能、でしょう。彼は、まだ住人がいた頃に民家に入ったことがあるということですね。そしてそれを隠したがっていると。つまり・・・ [正解]
マスターはその事件の報道を聞いたことはあります?
ええ、TVのニュースで見た記憶があります。
・・・お父さんだとか、その家の家族であることを示唆していませんでしたか?
NO 家族に生き残りはいませんでした
男は、子供の幽霊が見えた場所を、民家の中で見たとか、言っていませんでしたか?
YES 民家の中で見ました。廃墟の中を、事前情報なしに歩き回るのは危険ですよね。
男はなぜ廃墟に行ったのでしょうね・・・?
彼は、自分を捕まえて欲しかったのです。だからこそ、手がかりが多くあった現場の今の状況を、誰よりも憂いていました。彼の言う「好奇心」とは、犯人の正体に近づこうとする者が、もういないことを現場に行って確認することでした。
神の声にお聞きします。男は生きていますか?
YES 解説の通り、自首しました。
とりあえず、マスターが危険だな。
NO 彼はマスターを傷つけるつもりはありませんでした。遊び相手が欲しかっただけでした。
「あのお客さんが、殺人犯だったとは・・・
自分で口を滑らしたことに気が付いたのですね。
もしかしたら、その場で口封じされていたかも知れませんね。
恐ろしい話です。
しかし、謎が解けてスッキリしましたよ。ありがとうございました」
「そういえば、あのお客様こんなこともおっしゃっていました。
”答え合わせは月曜の朝だ”とか・・・」
数日後、月曜の朝刊にはこんな文字が躍った。
『時効直前に殺人鬼が自首』
バーテンダーはその記事を読み、一人で納得した。
「あの方は退屈していたのですね。問題が解かれないままになるのは、出題者には辛いことですから。
私の口を封じなかったのは、回答者として相手になって欲しかったから・・・なのでしょうか」
#001 了
「Goodスープ認定」はスープ全体の質の評価として良いものだった場合に押してください。(進行は評価に含まれません)
ブックマークシステムと基本構造は同じですが、ブックマークは「基準が自由」なのに対しGoodは「基準が決められている」と認識してください。