修羅場

バ

スに夫婦が乗車してきた

席が全て埋まっているのを見て 座っていた女の子はピョンと立ち上がると『おじいさん お席へどうぞ！』と、言い　ニコリと笑った

しかし席を譲られた男は『年寄り扱いするなっ！儂はまだ六十前･･･ムグ！』妻『あらあら』

男の怒鳴り声が終わる前に妻が間に割り込んだ

妻『お嬢ちゃん 偉いねぇ お婆ちゃんが代わりに座ってもいいかい？』と言い、笑う

女の子が大きく頷いた

妻『ありがとうね よっこいしょ！ ああ気持ちいい 助かったよ お嬢ちゃん ありがとうね』そう言うと女の子の頭をナデナデする

女の子は大喜びだ

ﾃﾚｻ『あのね！もうすぐママに赤ちゃんが生まれてね！テレサお姉ちゃんになるの！だからバスも一人で乗れるんだよ！でね！ママがお年寄りには席を譲りなさいってね！・・・』

ピョンピョン跳ねながら話す女の子を女も周りの客もニコニコ眺めていた・・・一人を除いて

≪ウミガメ産婦人科前停留所≫

『あっ！ママのいる病院だ！　じゃーねー！おばあちゃん！』

元気にバスを降りる女の子を笑顔で見送る女 しかし扉が閉まると その表情は一変する

妻『アナタ･･･こっちに来なさい』

夫『いや･･･あのな･･･』

妻『どうして彼女の善意を無下にするのですか？』

夫『わ、儂はまだ六十前で･･･』

妻『だまらっしゃいっ！』

女は叫ぶ！

妻『アナタの年など関係ありません！ あんな小さな女の子の誠意を受け入れられない度量の問題です！』

勿論周りの客に丸聞こえである しかし、一部始終を見ていた皆も女と同意見らしく男に冷たい視線を浴びせていた



夫婦が降りる停留所はまだ遠い しばらくはこの地獄が続くだろう