噫無情

男は居酒屋で楽しく酒を飲んでいた。仲間たちと楽しく盛り上がる最中、急に腹痛が襲ってきた。

『こりゃあやばい！』

男は慌ててトイレに向かう。男子トイレには三つの個室があったが、そのどれもが埋まっていた。少し待てば出てくるだろう…そう思った。

思ったのだが。

待てど暮らせどどの個室も開かない。ゆうに5分は経っている。男の腹はもう限界まで来ていた。閉まっているということは中に人が入っているということだ。ノックすれば人が待っていることに気づき早く出てくれるだろうと思い、男は三つのドアを全部ノックした。早く出てくれと願いながら。

しかし、どのドアからも返事やノック返しはない。そこで男はハッと気づいた。ここは…居酒屋だ。ほとんどの人間が酒を飲んでいる。



『もしかして……全員中で寝てるのか！？』



改めて全部のドアをノックしたが、やはり反応はない。

個室の中の誰かの目が醒めるまでトイレには入れない…自分の腹の具合を鑑みて、男は絶望した。







【以下蛇足】

絶望はした…が、しかし、もう策がないわけではない。一か八か！

男は男子トイレを出て、そのすぐ隣のドアを開けた。もし誰もいなければ、運が良ければ…！！



バンッ

「……あ。」

「…キャーーッッッ！！！」



ワンチャンかけて女子トイレの個室を拝借しようとしたのだ。しかし、都合悪く洗面台のところに先客がいた。せめてその女性が個室の中にいてくれればバレなかったであろうに。

哀れ、徹底的に運のない男。