山形刑事の妖怪退治　～河童の怪～

山形「うむ、現在検視でそれらを調査中だ。質問に『五回』答えるころには結果が出るだろう」

山形「うむ。川の流れ自体はそれほど急ではないな。深さは深いところでは胸の下あたりまであるようだ。滝は泳いでいたというあたりからはそう遠くない。落差はあるが、見た目より滝壺は浅いようだ。おかげで死体が見つかったわけだが。水温はさほど冷たくもない。およそ普段通りであったようだ」

太郎「あいつが溺れ死ぬなんて冗談みてぇだが、日ごろの傲慢がたたったんじゃねえの」　武志「うーん、うちのサークルは僕が教えているんだけど、龍之介は僕より達者でね。なんだか嘘みたいだよ」　甚五郎「兄貴が溺れたなんて今でも信じられないよ。それこそ、河童に引きずり込まれたっていう方が信じられるね」

山形「水に溶けるナワかぁ…」　太郎「あ……？　なんだそりゃ」　武志「ええと、それは龍之介に関係あるのかい？」　甚五郎「兄貴のこと、何かわかったんですか？」　山形「………よくわからんが、どうだ？」

山形「うむ、調べてみた。水上龍之介とこの三人は特に仲の良いグループで、大抵はこのメンバーで動いていたようだ。被害者は性格があまり良くなかったようで、友人はあまりいないな。女性関係もお互い了承の上の遊びばかりのようだ」

山形「うむ、聞いてみたが、全員普段通りのようだ。持ってきているものも、その分担も同じようだな。何度も来ているということだから、分担も変化していないのだろう」

山形「うむ。全員の持ち物を見せてもらい、リストにした。まとメモ帳を見てくれ」

山形「全部残さず食べられているな。健康的だ」　武志「弁当は僕の作ったもので、特別なものは入れてないよ。一般的なお弁当の中身だと思うよ。ただ、栄養配分も考えて野菜もたっぷり使ってあるけど」　山形「うむ、健康的だ。　…………一応検査したが、弁当箱及び付着した残りかすに睡眠薬の反応はなかった」

山形「河原太郎の持参した割り箸は、使用されていないものも含めて薬物反応はなかった。水上甚五郎が持参していたのは、兄の龍之介のマイ箸というやつだな。漆塗りのものだ。薬物反応はない。……とはいえつやつやした漆塗りだ。食べるときにすべて取れてしまった可能性もあるな」　「家族関係だが、父母に兄弟二人の四人家族。父は単身赴任中で、母はパートをしている。両親とも優秀な龍之介に満足しているようだ」

武志「食べ物は他に持ってきていないからなあ……太郎の持ってきた飲み物位だと思うよ？」

甚五郎「いや、兄貴にそういう癖はなかったよ。いつも一緒だから、そういうのはわかる」　武志「うーん、彼の入学当時からの付き合いだけど、そういう癖は見たことがないな」　太郎「俺も見たことねえな」

武志「おにぎりも骨付き肉もあったよ。でもそれは全員口にしてるよ」　太郎「そうだな、俺も食ったぜ」　甚五郎「どの食べ物をどの位置からとるっていう類の癖は、兄貴にはなかったと思う」

山形「未消化物が多かったからな、ほぼ特定できている。三人の証言からわかった弁当の内容と一致した。それ以外のものは食っていないようだ。ちなみに朝飯はもう消化済みのようだ」

山形「ふむ。一応川はざっとさらってみたが、それらしき生物の住んでいる痕跡はなさそうだ」

山形「うむ、液体状のものだ。なめた程度の微量でも効果が出る。実際に効果が出てくるのは服用後三十分以降。実際には運動したことでよりはやく効果が出ただろうと推測される。付け加えておくと、この薬物は関係者全員が入手可能だった。死亡した水上龍之介も含めてな」 [編集済]

山形「いや、龍之介の歯は全部自前だ。差し歯もない。食後に歯を磨いたわけでもなさそうだ」

山形「微量の薬物ではあったが、『経口摂取であることは間違いない』。また胃の内容物から『カプセルの痕跡は見当たらなかった』」

山形「龍之介の箸には薬品の痕跡はなかった………だがつるつるとした漆塗りで、100％ついていなかったとは断言できんな。割りばしならばしみこんでいた可能性もあるのだが……」

山形「いや、検出されなかった。第一そんなに大量の睡眠薬を持ってきていたらすぐに見つけられるのだが……」

山形「うむ、タイムテーブルと死亡推定時刻をまとメモ帳に追加しておいた」

山形「車か、調べてみよう」　……………。　「車を隅々まで調べたが、睡眠薬はなかった。車内にあるのも『ありきたりなものばかり』だ」

山形「全員の使用した紙コップ及び未使用の紙コップも調べたが、睡眠薬は付着していなかった」

山形「例えば、そうだな。車用の消臭剤、眠気覚まし用のガム、CD、MD、後付けのカーナビも搭載されているな。それからウェットティッシュに、ごみ入れに使っているだろうビニール袋。発煙筒、スペアタイヤ、ちょっとした工具などだな。先ほどの調査時に睡眠薬の痕跡がないことは確認済みだ」

山形「昼食をとっていた場所からはちょうど川が見えにくいようだ。龍之介が一人で泳ぎに戻るのはいつものことだったので、誰も気にかけていなかったらしい。いわゆる穴場で、他の人間も来てはいなかった。つまり目撃者はゼロだ」 [編集済]

山形「既に調査済みだ。ガムの一つ一つ、また容器からも睡眠薬は検出されなかった。他も同様だ。被害者はガムについている包み紙に包んできちんと捨てるタイプだったが、今回は食べていないらしい」

太郎「いやに律儀に分別して捨てるタイプだったぜ」　武志「あの性格で、っていうのもあれだけど、ごみが散らかっているのが嫌いみたいで、きちんと捨てるタイプだったよ」　甚五郎「兄貴はそこらへんきっちりしてたよ」

山形「近くに自販機も空き缶捨てもないな。………一番近いコンビニが5㎞先か」

山形「植物学者は連れてきていないが、その手の植物はなさそうだ。第一メンバーは龍之介をのぞいて常に行動を共にしていたからな、あったとしても採取して加工して、というのは難しいだろうな」

山形「いや、調べていなかったな。早速調べてみよう」　……………。　「うむ、残念ながらペットボトルからは痕跡は発見されなかった」

太郎「いや、途中でどっかに寄ることはないな。龍之介がうるせえんだ」　武志「さっさと泳ぎたいからと言ってね。赤信号になると後ろから座席を蹴ってくるから困るよ」　甚五郎「勿論ポイ捨てもしてないよ。兄貴が絶対に窓を開けさせないんだ。ちょっとでもあけると怒り狂うからね」

甚五郎「車内で兄貴の好きなアーティストの曲を流してるんだ。窓を開けると曲が乱れるからって、怒るんだよ。自分が気に食わないとえらく怒ってね」

山形「深い付き合いがない人間にとっては、優秀で気さくな人間だったようだ。しかし実際はかなり傲慢な性格だったようだな。自分が優秀であるということも悪い方向で自覚している。他人が自分の意見を聞いて当然だとな。四人は水泳サークルの仲間ということだが……実際はどう思っていたのやら」

山形「電話で確認を取った。龍之介は割と飽きっぽい性格であるが、泳ぎが好きで昔から毎日のようにプール通いだったそうだ。他の習慣としては、食事の際は必ず愛用のマイ箸を使用しているそうだ。これも子供のころからの習慣だな。今回も使用していた漆塗りの箸だ。そんなに高いものではないが、気に入っていたようだ」

山形「三人とも健康なものだな。平武志が先月眼科に行ったようだ。眼鏡の度が合わなくなってきたようだな。他は健康なものだ。むし歯ひとつない」

山形「薬局でも売っているが、医師の処方が必要のようだ。三人とも医師の診断を受けてはいない。　……実は入手先と思しき場所が浮かんでいる。彼らの通う大学の職員のデスクから、全く同一の睡眠薬が盗まれていた。管理がずさんだったらしく、誰にでも盗めたようだ」

山形「うむ、そうだな、全員バッグを持参している。龍之介は弟にすべて持たせて、手ぶらだったようだが」　………。　「バッグの中はリストと同じだな。財布の中身は金銭とカードの類、レシートくらいだ。」

山形「おお、箸入れか。そうだな。むき出しで箸を鞄に突っ込むわけもない。　………おや、見当たらんな。ふむ、水上甚五郎君、君の体を調べさせてもらってもいいかな」　甚五郎「くっ………畜生！」 [正解]

甚五郎「兄貴は優秀だった。そりゃもう、弟の俺がかすむくらいにね。いつだって俺は兄貴の下だった。兄貴が人格的にも優れていたなら誇れたかもしれないけどね、あいつはそんなタマじゃなかった」　太郎「お前も、だったのか………」　武志「………」

YES　箸袋に関するヒントは直接的すぎるものしか思い浮かばなかったので、苦肉の策でした。