死神の象

男は、原子力発電所の事故を処理する作業員だった。

とある休日、娘を動物園に送った男は、自宅でくつろいでいた。

そのとき、家に電話がかかってきた。



男が勤めている原発が、爆発事故を起こしたという知らせだった。

都市における事故のリスクを軽減するため、原発は田舎に作られることが多い。

事故を起こした原発の近くには、先ほど娘を送った動物園があった。

本来なら、作業員は真っ直ぐに事故現場に駆けつけなくてはならない。

しかし、娘が心配だった男は、命令に背き、すぐさま動物園に向かった。



幸い、動物園はどこも壊れていなかった。動物も脱走していない。

男は娘の無事を確認し、タクシーを呼んで、できる限り遠くに行くよう指示をした。

そして自身は、真相を究明するため、事故を起こした原発に向かった。

数日後、放射線被曝によって男は死亡し、数週間後、娘も死んだ。



その原発には、今も「象の足」が残されている。