賭け替えのない命

「俺、闇のポーカーに参加するんだ」

そういって夫カメオは私に封筒を差し出した。

中には『闇のポーカー』への招待状が入っていた。



「何言ってるの！ あなた死ぬ気？」

私は声を荒げる。



「君が僕の身を心配するのはわかる。でも、これは僕にとって命よりも大事な……」

「誰があなたの心配なんかするのよ！ まだ愛しの息子、ウミオは小学生。これからお金がかかるのよ。

あなたはギャンブル漬けの生活で碌に家にお金を入れやしない。このままあなたが死んじゃったら私は

どうやってウミオを育てていけばいいのよ！」

「えっ……えーっと」

「もういいわ！　あなたとなんかやっていけない！ もしあなたが闇のポーカー？ ってのに参加するんだったら

私はあなたと離婚するわ」

「えっ、ちょっと、カメコ。考え直してくれ！」

「じゃあ、私たちに死ねというの？」

「違う！　僕は負けないよ。それに万が一に備えて僕が敗れたときのために生命保険だってかけているんだ」

「えっ……そうなの」

「ああ、僕は本気だ。どうか参加を許してくれないか」

「……わかったわ。夫の夢を支えるのも妻の役目。頑張ってきてね」

「ああ。必ず大金を手にしてくるよ！」



私は主人が寝たのを確認すると急いで保険会社に連絡を取った。

主人の掛けた生命保険。死亡で3000万円。受取人の名義には私の名前が。













翌日。私は主人を見送る。

主人が乗り込んだ車は夫と私の共通の友人、ラテオが運転する。

昨晩のうちに計画はラテオに伝えてある。



家を出て少し行ったところに細い路地がある。

そこは通学路となっており学校の始業時間ギリギリとなると子供が道路を飛び出してくるのだ。

その道を何度も通り慣れている私でも運転の際にはヒヤッとすることがある。

ましてやこの近辺に慣れていないラテオであれば飛び出してきた子供をよけようとハンドル操作を誤ることもあるだろう。



3000万円。私一人でウミオを育てていくには心もとない金額だ。

でも、新しい夫と一緒であれば少なくともギャンブル漬けの夫と一緒にいるよりはまともな生活が送れるはずだ。



私はラテオからの連絡を待ちながらスマホの画面をぼんやり見つめていた。





要約解説

カメオは生命保険をかけ、それを妻に伝えたために、

保険金殺人のターゲットとして殺されてしまったのだ。