貴方に贈るホームラン

亀山「私が、癌・・・ですか」



私は亀山カメロー。水平ラテラルズに属するプロ野球選手だ。

とは言え、既に齢40のロートル。

成績も年俸も年々落ちているし、自分の体のことだ、現役選手としては既に限界に達していることは分かっていた。

そんな私に肝臓癌との病名告知が訪れたとき過ぎった不安は、選手生命のことではなく、我が息子カメ彦のことだった。



私は早くに妻を亡くし、 男手一つでカメ彦を育ててきた。

母親がいない分、苦労や寂しい思いもさせてきただろう。

そのカメ彦がいまや高校生だ。

カメ彦は私の背中を追うかのように野球に没頭していた。

そして、ついには今夏の甲子園にスタメン出場している。



息子にこれ以上の苦労を掛けたくない。

球団に病状を報告すれば、来年の契約は無いだろう。



しかし、年俸も少ない私は出来るだけ長く稼ぎたいのだ・・・せめて息子が独り立ちする迄は。

来年、再来年には解雇されるかもしれない。

それでも、出来るだけ長く。



病のことは球団にも息子にも伏せていた。

しかし、隠し事は直ぐに息子に勘付かれてしまい、全てを白状してしまった。



カメ彦「何言ってんだよ！親父！早く手術を受けたほうがいいに決まってんだろ！？」

カメロー「どうせ後数年の野球人生だ。最期までやらせてくれぃ」



すぐに手術を受けるようにと説得する息子を、俺は突っぱね続けた。

そうして、俺が折れないことを知った息子は、ある提案をしてきた。



カメ彦「わかった、オレが親父の分まで稼いでやる。だから手術受けろ」

カメロー「何を馬鹿なことを」

カメ彦「知ってるだろ、実際オレって結構注目されてるんだぜ？もう甲子園決勝まで来た。ここで目立てばプロ入りはもう夢じゃない」

カメロー「・・・」

カメ彦「次の試合でオレはホームランを打ってみせる。それが果たせたら手術を受けてくれないか」



その日、去り際に見た息子の背中に、俺は。



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「9回裏ラテラルズの攻撃は、四番センター亀山。背番号8」

オレは今日も打席に立つ。親父から受け継いだ背番号を背に。

この打球よ、あの病室まで届け。



【簡易解説】

プロ野球選手の亀山カメローと、その息子カメ彦。

病に冒された父カメローに、息子カメ彦は、自分がホームランを打ったら手術を受けるように言った。

見事カメ彦がホームランを打ったので、カメローはプロ野球を引退し、治療に専念することにした。