本は古本に限る

男は、若い時に一回だけ立ち読みした推理小説を忘れられなかった。

表現こそだいぶ粗暴だったが、その粗暴さがかえって話に深みを持たせていた。

男はその小説を買おうと思ったが、不運にも持ち合わせが足らず、その小説を買うことは出来なかった。

そして数日後に本屋を訪れた男は、例の小説が出版社の自主規制に引っかかり、売り場から消えたことを知った。

古本屋なども探したが、如何せん流通が少なすぎた。

諦めかけていたところに、何気なく立ち寄ったとある書店で、その小説が売り出されているのをみた男はすぐにそれを購入した。

しかし、その小説は改訂された版で、表現はすべてマイルドなものに差し替えられ、小説としての魅力は半減していた。

がっかりしながら、男は決意し呟いた。

「古本を買うしかないな」