動画内など、他所でラテシンの問題を扱う(転載など)際について
ウミガメのスープ 本家『ラテシン』 
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【正解を創り出す】缶を蹴る【ウミガメ】

長らくお待たせいたしました!【正解を創りだすウミガメ】第39弾でございます!!



それでは、以下、問題文を発表します。



【問題文】

~~~~~~~~~~~~~~~~

彼が二回缶を蹴った。

だから、私は猫を飼い始めた。

どういうことだろう?

~~~~~~~~~~~~~~~~~~





この問題には解説を用意しておりません。皆様の質問がストーリーを作っていきます。





【ルール】

#####要素募集フェーズ#########

出題直後から質問を受け付けます。

皆様から寄せられた質問の中から、出題者(揚羽)の独断に基づいて選んだ質問に、yesと答えさせて頂きます。選ばれた質問は良質となります。

※良質としたものを以下【要素】と呼びます

※良質以外のものについては、「yesnoどちらでも構いません」とお答えします。これらの質問については、解説に使わなくても構いません。

※なお、一応要素が揃った後、まとメモに要素を書き出す予定です。

※また、矛盾が発生した場合や、あまりに条件が狭まる物は出題者権限で採用いたしません。(矛盾の場合は前者優先)



矛盾例)田中は登場しますか?&今回は田中は登場しませんよね? 前者優先

狭い例)ノンフィクションですか? 不採用

狭い例)登場キャラは1人ですか? 不採用

狭い例)ストーリーはミステリー・現実要素ものですよね? 不採用

など



その後、選ばれた要素を取り入れた解説の投稿フェーズに進みます。





#####投稿フェーズ#########

解説投稿フェーズでは、要素に合致するストーリーを考え、質問欄に書き込んでください。

とんでもネタ設定・超ブラック真面目設定などなどお好きなようにお創りください。

15個すべての要素を含んだ解説案をご投稿ください。

15要素が解説に入っていることが、一目で分かるようになっているとありがたいです。

具体的には、解説を投稿する際には、解説中のそれぞれの要素に対応する部分に、要素番号を振ることをおすすめします。

※また、質問欄への投稿になりますので、誰かの投稿中(複数質問に分けて投稿される方もいらっしゃいます)に割り込んでしまうことを避けるため、投稿解説が仕上がってから一度に投稿する、投稿解説の終わりには終わったことが分かるような言葉を付ける (「終」でも「了」でも「END」でも、終わりだと分かればなんでも構いません)ことをお願いいたします。



※投稿をする際には、過去の「正解を創りだす」もぜひ参考としてご覧ください。

魅力のある銘作(迷作?)・快作(怪作?)等いろいろ先例がございます。



【時間割】

①要素募集期間

出題~15個要素が揃うまで。

②投稿期間

15個揃ったあと~7月23日(土)23:59

③投票期間

アンケートボックスができた時点~7月31日(金)23:59



『投票フェーズ』では、『投稿フェーズ(②)』の回答の中からお好みのもの、そして最も難しいと思った要素を1つずつ選んでアンケートボックスに投票してください。

 今回も、以下の通り、『シェチュ王』と『最難関要素賞』の2賞をご用意いたしました。

 なお、見事『シェチュ王』になられた方には、次回の【正解を創りだすウミガメ】を出題していただきます。



■最も好きな解説

 これで決まるのは→『シェチュ王』

■最も組み込むのが難しかった要素(投稿してない人は、難しそうな要素)に投票

 これで決まるのは→『最難関要素賞』



 ※投票が最終的に同数だった場合:先着順に番号を1から振り分け、乱数で抽選します。

 質問欄の文字数制限は全角300文字です。長文投稿にチェックをつけた上で一度投稿し、そのあとから編集すること文字制限の壁を超えることが可能です。なお、オススメの方法としては(良質は太字になるため)タイトル・回答を分けて投稿することですが、もちろんそれに従わずとも構いません。







質問した人は、できるだけ正解を創り出すと投票にも参加いただけると盛り上がるかと思います。

通常の出題と違い、趣味丸出しで構いませんwお笑いが好きな人も、カニバが好きな人も、ミステリーだってOKです。

(まあ、要素的に難しいとは思いますがww)



それでは、今回もたくさんのご参加お待ちしております!

それでは~ 開始~



16年07月13日 20:01 [揚羽]
【新・形式】

結果発表致しました。参加者の皆様、本当にありがとうございました。

正解を創りだすウミガメ
No.1[天童 魔子]07月13日 20:1007月13日 20:15

フライがあがりましたか?

yesnoどちらでも構いません

No.2[SNC]07月13日 20:1007月13日 20:15

蒸し暑くてたまらないですか?

yesnoどちらでも構いません

No.3[天童 魔子]07月13日 20:1007月13日 20:16

缶詰を探しますか?

yes!缶詰を探します。(要素①) [良い質問]

No.4[SNC]07月13日 20:1007月13日 20:15

あまりに汚かったですか?

yesnoどちらでも構いません

No.5[SNC]07月13日 20:1007月13日 20:18

全て嘘ですか?

yes!全て嘘です!(要素②) [良い質問]

No.6[えぜりん]07月13日 20:1007月13日 20:18

アイスクリームを食べてキーンとなりましたか?

yesnoどちらでも構いません

No.7[天童 魔子]07月13日 20:1107月13日 20:18

ドアを開けた瞬間、目線の高さにいましたか?

yesnoどちらでも構いません

No.8[SNC]07月13日 20:1107月13日 20:18

足の小指が挟まりましたか?

yesnoどちらでも構いません

No.9[えぜりん]07月13日 20:1107月13日 20:18

アリの行列に出くわしましたか?

yes!アリの行列に出くわしました(要素③) [良い質問]

No.10[SNC]07月13日 20:1107月13日 20:18

くすぐられましたか?

yesnoどちらでも構いません

No.11[えぜりん]07月13日 20:1107月13日 20:22

ドアが熱すぎましたか? [編集済]

yesnoどちらでも構いません

No.12[SNC]07月13日 20:1207月13日 20:22

フタがしまりませんか?

yesnoどちらでも構いません

No.13[えぜりん]07月13日 20:1207月13日 20:22

靴のかかとが取れましたか?

yesnoどちらでも構いません

No.14[えぜりん]07月13日 20:1207月13日 20:22

10時の方向が重要ですか?

yesnoどちらでも構いません

No.15[SNC]07月13日 20:1207月13日 20:22

異常気象が起こりますか?

yes!異常気象が起こります!(要素④) [良い質問]

No.16[えぜりん]07月13日 20:1307月13日 20:22

風にあおられますか?

yesno どちらでも構いません

No.17[SNC]07月13日 20:1307月13日 20:22

修正できないほどですか?

yesno どちらでも構いません

No.18[SNC]07月13日 20:1307月13日 20:22

無理がありますか?

yesno どちらでも構いません

No.19[えぜりん]07月13日 20:1407月13日 20:22

卵焼きが甘すぎますか?

yes!卵焼きが甘すぎます!(要素⑤) [良い質問]

No.20[SNC]07月13日 20:1407月13日 20:22

取っ手が見付かりませんか?

yesno どちらでも構いません

No.21[えぜりん]07月13日 20:1407月13日 20:25

食事の支度を頼まれますか?

yesnoどちらでも構いません

No.22[SNC]07月13日 20:1407月13日 20:25

びっちょりですか?

yesnoどちらでも構いません

No.23[SNC]07月13日 20:1507月13日 20:25

皿を割りますか?

uesnoどちらでも構いません

No.24[SNC]07月13日 20:1507月13日 20:25

食べられますか?

yes!食べられます!(要素⑥) [良い質問]

No.25[えぜりん]07月13日 20:1907月13日 20:25

卵に顔を描きますか?

yesnoどちらでも構いません

No.26[えぜりん]07月13日 20:2007月13日 20:35

箸の使い方を練習しますか?

uesnoどちらでも構いません

No.27[えぜりん]07月13日 20:2107月13日 20:35

しびれますか?

yesnoどちらでも構いません

No.28[SNC]07月13日 20:2107月13日 20:35

靴下がかたっぽないですか?

yesnoどちらでも構いません

No.29[SNC]07月13日 20:2207月13日 20:35

朝、顔を洗うのが億劫ですか?

yesnoどちらでも構いません

No.30[SNC]07月13日 20:2207月13日 20:35

ゴミがたまりますか?

yesnoどちらでも構いません

No.31[えぜりん]07月13日 20:2207月13日 20:35

トラックで走りますか?

yesnoどちらでも構いません

No.32[SNC]07月13日 20:2407月13日 20:35

缶切りの存在を忘れていましたか?

yesnoどちらでも構いません

No.33[えぜりん]07月13日 20:2407月13日 20:35

木の種類が気になりますか?

yesnoどちらでも構いません

No.34[SNC]07月13日 20:2407月13日 20:35

大作が描けましたか?

yes!大作が描けました(要素⑦) [良い質問]

No.35[えぜりん]07月13日 20:2507月13日 20:35

酸っぱい物が嫌いですか?

yesnoどちらでも構いません

No.36[SNC]07月13日 20:2507月13日 20:35

食料が底をつきますか?

yesnoどちらでも構いません

No.37[SNC]07月13日 20:2507月13日 20:35

メガネが見付かりましたか?

yesnoどちらでも構いません

No.38[えぜりん]07月13日 20:2507月13日 20:35

イケメンなんか大っ嫌いですか?

yes!イケメンなんて大っ嫌いです!(要素⑧) [良い質問]

No.39[SNC]07月13日 20:2607月13日 20:38

ネジがゆるくなっていましたか?

yesnoどちらでも構いません

No.40[えぜりん]07月13日 20:2607月13日 20:38

道具を本来と違う用途で使いますか?

yesnoどちらでも構いません

No.41[えぜりん]07月13日 20:2707月13日 20:38

噛み切れなくて困りますか?

yesnoどちらでも構いません

No.42[SNC]07月13日 20:2707月13日 20:38

渾身の右ストレートが外れますか?

yes!渾身の右ストレートが外れます!(要素⑨) [良い質問]

No.43[えぜりん]07月13日 20:2807月13日 20:39

田中のことを思い出しますか?

yes!田中のことを思い出します!(要素⑩) [良い質問]

No.44[SNC]07月13日 20:2807月13日 20:39

肘をぶつけて痺れたせいですか?

yesnoどちらでも構いません

No.45[えぜりん]07月13日 20:2807月13日 20:41

足跡をつけてみましたか?

yesnoどちらでも構いません

No.46[SNC]07月13日 20:2807月13日 20:41

墨を塗りますか?

ues!墨を塗ります!(要素⑪) [良い質問]

No.47[えぜりん]07月13日 20:2907月13日 20:41

ひっくり返りましたか?

yesnoどちらでも構いません

No.48[えぜりん]07月13日 20:2907月13日 20:41

高いところから見下ろしますか?

yesnoどちらでも構いません

No.49[えぜりん]07月13日 20:3007月13日 20:41

分解してから組み立てますか?

yes!分解してから組み立てます!(要素⑫) [良い質問]

No.50[SNC]07月13日 20:3007月13日 20:43

ナメクジが塩を弾き返しますか?

yes!ナメクジが塩を弾き返します!(要素⑬) [編集済] [良い質問]

No.51[SNC]07月13日 20:3207月13日 20:43

反応がありませんか?

yesnoどちらでも構いません

No.52[えぜりん]07月13日 20:3207月13日 20:43

カラですか?

yesnoどちらでも構いません

No.53[えぜりん]07月13日 20:3307月13日 20:45

色が大切ですか?

yes!色が大切です!(要素⑭) [編集済] [良い質問]

No.54[SNC]07月13日 20:3407月13日 20:47

席が占領されますか?

uesnoどちらでも構いません

No.55[えぜりん]07月13日 20:3607月13日 20:47

色のついたガラスが落ちていますか?

yesnoどちらでも構いません

No.56[SNC]07月13日 20:3707月13日 20:47

現実は残酷ですか?

yesnoどちらでも構いません

No.57[えぜりん]07月13日 20:3907月13日 20:47

伸び縮みしますか?

yes!伸び縮みします!(要素⑮) [良い質問]

No.58[SNC]07月13日 20:4207月13日 20:49

使い道が無くなりましたか?

yesnoどちらでも構いません

No.59[えぜりん]07月13日 20:4307月13日 20:49

音を鳴らして様子をみますか?

yesnoどちらでも構いません

No.60[えぜりん]07月13日 20:4407月13日 20:49

回るものが重要ですか?

yesnoどちらでも構いません

No.61[SNC]07月13日 20:4507月13日 20:52

追い付きましたか?

yesnoどちらでも構いません

No.62[えぜりん]07月13日 20:4507月13日 20:52

大きいのと小さいのがありますか?

yesnoどちらでも構いません

それではこれで要素投稿フェーズを終了し、解説投稿フェーズに入らせていただきます。期限は7月23日の23時59分までです。
No.63[天童 魔子]07月13日 22:0607月30日 23:39

外国人の彼氏が日本の遊びにハマる話し [編集済]

『日本の遊び』、『缶』とくれば、もしや、あの… [良い質問]

No.64[天童 魔子]07月13日 22:0607月30日 23:42

彼が二回缶を蹴りました。

もちろん缶蹴りをしています

しかし彼が強く缶を蹴り過ぎたので缶がどこかに行ってしまいました。

だから缶を探しています


ごめんなさい、嘘です

彼が隠れるのが上手なので一緒に居られないので嘘をつきました。

えぇ私の言う事なんて全部嘘です。

彼と一緒に居たいがための嘘

本当は缶蹴りなんて好きではありません

しかし缶の中身の匂いでアリの行列ができてしまいました。

あぁせっかく缶を隠したのに彼がアリの行列に出くわしました

このままでは缶が彼に見つかってしまいます

アリたちを駆逐すべく異常気象を起こします

ごめんなさい、嘘です

本当は涙で視界が歪んでいただけでした。

異常気象の正体は私の大粒の涙です

彼が心配して近づいてきました。

ウソ泣き大成功です


お腹が空いたの?っとどうでも良いことを聞いてきます


でも彼の優しさからうん。っとまた嘘を重ねました。

彼のお弁当を分けてもらいました

まったく卵焼きが甘すぎます


でも食べられます

しかし甘すぎて甘々します

ちょうどケチャップを持っていたのでオムライス風にしようとしたとき

どさくさに紛れて彼への気持ちを伝える口実を得たと思いました。

30分後


大作が描けました

彼を探すと見知らぬ女性と楽し気にお喋りをしていました。


イケメンなんか大っ嫌いです


ですが私の渾身の右ストレートが外れます

ごめんなさい、嘘です

イケメンな彼が大好きです

大好きでした

さようなら

バイバイ






足取りのおぼつかない私は田中のことを思い出します

悪魔の契約、お題と引き換えにどんな願いも叶えてくれる魔人、田中

召喚の呪文は放送禁止ワード連載なので墨を塗りっておきます

■■■■■■■■■

■■■■■■■■■■■■■■■■

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ごめんなさい、嘘です

彼への文句を口にしただけです。悪魔なんている訳ないのです

もう彼への怒りは収まりました。全然気にしていません

取り敢えずかなり物に当たり散らしたので

分解してから組み立てます

おっと洗面器の裏にナメクジの大群を発見

さっそく塩をまきますが

ナメクジが塩を弾き返します

一匹のナメクジが妻と子供と思わしきナメクジを懸命に庇っていました。

目障りです、消えなさい


ごめんなさい、嘘です

可哀想なのでちゃんと逃がしてあげました。

良いことをしたはずなのに心が弾みません

むしろ寂しさが募ります

彼を失ったショックがあまりにも大きいです

だから私は猫を飼い始めました。

色が大切です

彼と同じ毛色を選びました。

猫は愛らしく伸び縮みします

それからしばらくして彼がのこのこ私の家に戻ってきました。

もう知らない、さっきの女性と仲良くすればいいじゃない

・・・どうやら缶蹴りに嵌まって缶を集めていたら何故か女性に感心されたそうで

ボランティアに誘われただけだったそうです。

毎週日曜日近所で缶集めをするらしいのでこれからずっと缶蹴りが出来ると喜ぶ彼でしたが


猫を飼いましたので餌を買っていただけば缶を提供しますよ?
[編集済]

ごめんなさい、嘘です、がクセになりますね。しかし、本当に、要素出揃ってから、たった二時間で仕上げたなんて信じられないクオリティー…素晴らしいです!

No.65[あっと!]07月15日 21:1907月30日 23:42

ミスです [編集済]

了解です!

No.66[えぜりん]07月19日 21:0107月30日 23:54

いつかきっと

感動の予感…ハンカチの準備はOKです! [良い質問]

No.67[えぜりん]07月19日 21:0107月30日 23:55

田中のお兄ちゃんとは幼馴染み……と言って良いだろうか?
年は6歳離れているのだけど。


初対面の時のことを、私はたった3才だったというのによく覚えている。
彼はいきなり私の鼻先に大きなナメクジを突き出して言ったのだ。

「見ろよ。こいつ、ナメクジなのに塩をかけても平気なんだぜ!」

驚いて固まった私の前で、彼は右手に握りこんでいた粒の粗い粉末を、手から払い落とすようにナメクジにかけた。
粒は微かな音を立ててナメクジの表面で跳ね返った。⑬


次に彼はナメクジを頭の方から噛み砕いた。
バリバリとモグモグと。⑥

半分の大きさになったナメクジを眺め、指先で軽くつついて彼は言った。
「この色に仕上げるのがカンジンなんだよね。」⑭

私は本物のナメクジを見たことがなかった。
その得体の知れぬものが、本当にナメクジなのかどうかすらわからなかった。


「どうして『かんじん』なの?」と私が尋ねると、
「いや、わからん。」と彼は答えた。


彼は、私の口にナメクジを突っ込んだ。
それは、「あるお菓子」にとてもよく似た味がした。

私は彼の顔を見上げた。
彼も私の目をじっと見返した。


その時私は確信した。
いつかきっと、彼は……

[編集済]

ナ、ナメクジ型のお菓子…初めての響きです笑

No.68[えぜりん]07月19日 21:0207月31日 00:01

アリの行列を見かけ、どこまで続いているのか、たどったことがあった。③

アリは彼の家の縁側まで長い長い列を作っていた。
見れば、縁側に卵焼きの乗った皿が置いてある。

その傍らに彼がいた。
彼の手にも卵焼きがひとつかみ。

「よう」
彼はぶっきらぼうに言って卵焼きをちぎり、私の口に押し込んだ。
その卵焼きの甘いことといったら、砂糖の塊かと思うほどであった。⑤

「○○○○○○○○が入ってるんだぜ。」
彼は言ったが、私にその言葉の意味はわからなかった。

「○○○○○○○○ってなあに?」
「いや、わからん。」

何もわからなかったので、私は今、その言葉を思い出せない。


真っ黒なアリが、皿の上でうごめいている。
これだけ甘ければさぞかしアリも大満足だろうと私は思った。


私は彼の顔を見上げた。
彼は私の口に、もうひとかけら卵焼きをねじ込んだ。


その時私は確信した。
いつかきっと、彼は……

[編集済]

う。お皿に、アリが…

No.69[えぜりん]07月19日 21:0207月31日 00:02

私が小学生になった頃、彼は中学生になっていた。

空梅雨のせいか、やたら気温が高かった夏のある日、1人で留守番をしていたら彼がやってきた。④

「桃缶ないか?」

私は台所を探したが見つからなかった。①

「ミカンしかない。」
「ミカンか。ミカンはウチにもある。しかたない、買いに行くか。」

そう言うと彼は、私の目を、ただじっと見た。


灼熱の太陽の下、彼と私は並んで歩いた。
道中、彼は、アスファルトの上にひっくり返ってもがくセミを見つけては、木陰に放り込んでいた。

「どうしてセミを投げるの?」
「いや、わからん。」

もっと優しくすればいいのに、と私は思った。
彼は、ポンッと私の頭を叩いた。


その時私は確信した。
いつかきっと、彼は……
[編集済]

頭ポン、良いなあ…

No.70[えぜりん]07月19日 21:0207月31日 00:01

スーパーで黄桃と白桃の缶詰を買った。
私は缶詰を4個持たされた。
彼は10個くらい持っていただろう。

そのまま彼の家に行き、あがりこんだ。


彼は缶詰を開け、中身をミキサーに放り込んでスイッチを入れた。
ギュイン!と音を立てて、たちまち桃がジュースになった。
彼は、ギュンギュンと、何度かスイッチを動かした。
そのたび桃ジュースの液面が生き物のように伸び縮みするのだ。⑮

「何を作るの?」
「いや、わからん。」

私はキッチンの椅子におとなしく座って彼を見ていた。
卵の白身がクリームのように盛り上がるのも見ていた。

桃のジュースは、もこもこの白身と混ぜられ、大きなボウルに入れたまま冷凍庫に放りこまれた。


それから彼は、イカスミのスパゲティを作ってくれた。
2人で食べていると、突然彼は、そばにあったハケをひっつかんでイカスミに浸し、テーブルの上に大きく「黒土」と書いた。⑪

……当時の私は「黒土」だと思ったけど、本当は「墨」だったかもしれない。

そのままハケを渡された私はちょっと困って、「黒」の「田」の部分にちょこちょこと目玉を描き、「土」の下に舌べろを描いた。
「こりゃすごい。大作だ!」
彼は言って、いつの間にか持ってきていたカメラで写真を撮った。⑦


彼はきれいにテーブルを拭き、皿を洗って片付けた。
ミキサーも分解して洗って、布巾の上に部品を並べた。

そして、ポツンと言った。

「俺さ、パティシエになりたいんだ。」

私は何も言わずにうなずいた。

甘すぎる卵焼き、初めて会った時の奇妙なナメクジ。
あれらも彼が作ったものだったのだろうかと思って尋ねてみた。

「いや、わからん。」
どうも忘れてしまったらしい。


夕方まで、どうやって過ごしたのかは覚えていない。

ミキサーの部品が乾いたので、彼は慣れた手つきで組み立て直し、片付けた。⑫

冷凍庫からは例の桃ジュースが出てきた。
彼は景気よくざくざくとフォークを突き立て、冷蔵庫から出したガラスの器にたっぷり盛り付けた。

桃のシャーベットだ。
私は夢中で食べた。

彼は、どういうわけか、自分のシャーベットに青のりをかけていた。
私の食べかけにも振りかけようとしたので、スプーンを置いてグーで思いっきり殴った。
華麗によけられた。⑨

でも、青のりをかけるのはやめてもらえた。


その時私は確信した。
いつかきっと、彼は……

[編集済]

青春ですね。二人の不思議な距離感がとても素敵です!

No.71[えぜりん]07月19日 21:0307月30日 23:54

彼が高校生になると、近所に住んでいながらも、ほとんど会うことはなくなっていた。
しかし、とある秋の夕暮れに、ばったり道端で出くわした。

彼は、台風が過ぎた後の澄んだ空を見上げていた。


「何を見ているの?」と私が尋ねると、
「いや、わからん。」と彼は答えた。


「ちょっと来いよ。」
そう言って歩き出す彼のあとを私はついていった。

「どこに行くの?」
「いや、わからん。」


やがて、彼は土手に上がった。
なんてベタな展開だろう、とちらりと思った。

「俺が、パティシエになりたいって言ったの覚えてるか?」
彼が言うので、私はうなずいた。
「へえ、驚いたな。ずいぶん前だったのに。」
その言葉は、むしろ彼にそっくり丸ごと返したかった。


突然、彼の声が低くなった。
絞り出すように彼は言った。

「無理なんだよ。もうダメなんだ。」


一瞬何を言われたのかわからなかった。
だが、彼の言いたいことはすべてわかった。

わかってしまった。

だから。

だから。


どうしてダメなの?……とは……言えなかった。


彼は足元の何かを蹴り飛ばす仕草をした。
空き缶が、ちょっと飛んで、草に引っかかって止まった。
彼は空き缶に歩み寄り、もう一度蹴った。(問題文)


彼の声を聞いたような気もするが、単なる水音だったかもしれない。


それを最後に、彼を見ていない。
私は河原に1人で立っていて、傍らには1匹の猫がいた。

「田中のお兄ちゃんを……知らない?」と私は猫に尋ねた。
「にゃ…………」と猫が鳴いた。


私は確信した。
とにかく確信したのだ。

確信しなければ……ならなかった……


そして。
指に残った感触を……そっと握りつぶした。


いつかきっと、彼は……

[編集済]

お兄ちゃん…!

No.72[えぜりん]07月19日 21:0307月30日 23:54

5年以上が過ぎた。
猫はあの日からずっとウチの猫だ。(問題文)

彼の整った面差しを思い出しながら猫の背中をなで、「お兄ちゃんなんか大っ嫌い。」とつぶやくのが私の日課だ。⑧⑩


最近猫は「にゃ」の後に「わからん」と鳴くようになった。


私は確信している。
何もかもが全部嘘だと。②


いつかきっと。


いつかきっと……彼は………



【完】

[編集済]

不思議な余韻。

No.73[黒井由紀]07月22日 00:5608月01日 02:26

父の手紙

『父』と来て、『手紙』とくれば、涙腺崩壊必至…! [正解]

No.74[黒井由紀]07月22日 00:5607月31日 00:16

出張帰りの朝、マンションの郵便受けを覗くと一通の封筒が入っていた。子供向けの雑貨屋で売っていそうな柄の多いそれには、整った文字で「田中笑子様」と書かれていた。
田舎の父からの手紙には、他愛のないことしか書かれていなかった。近所で蟻の行列がロリポップキャンディーを運んでいるのを見た(要素③)とか、卵焼きを作ったら甘すぎたから焼き鳥でも添えようとスーパーで焼き鳥缶を探したけど無かった(要素①⑤)とか、特に書くことは無かったけれど、どうしても手紙を出したかったのだろうと思わせる内容だ。でも、仕方ないかもしれない。母は数年前に他界していたし、娘の私はここのところ忙しくて、お盆も正月も碌に実家に帰っていないどころか、父のことを思い出す(要素⑩)のも久しぶりだったほどなのだから。
私は昔相当のお父さんっ子だった。 男の子っぽい遊びを好んでいたせいか、父との方が話が合っただけなのだけれど、仲間外れにされた母は時々拗ねていた。塩をかけると体を伸び縮みさせて弾き返すナメクジ(要素13、15)を一緒に見つけて大はしゃぎしたり、時計を分解して遊んでいたら戻せなくなって泣いていたところ、元通り組み立て直してくれたり(要素12)、異常気象の日に一緒に窓の外の空を眺めたりした(要素④)のも、未だによく覚えている。
けれど私は忙しさにかまけて、この父の手紙に返事を出すことはなかった。なかなか帰れない負い目も手伝って、手紙を書くのがおっくうになってしまったのだ。手紙を出さなくても、月日は普通に流れた。季節は変わるし仕事は新しくなるしデートした相手と付き合い始めもした。
また、父から手紙が届いた。私の似顔絵を描いたそうだ。わざわざ画用紙と水彩絵の具を買ってきて、一週間かけて描いた大作とのこと(要素⑦)。記憶と写真を頼りに描いてみたものの、一番大切な瞳の色がうまく作れなくて、結局墨汁で塗ったらしい(要素11、14)。返事を出し損ねた罪悪感と父の気持ちが心に刺さって、しばらく声を出さずに泣いた。

そして、私は数年ぶりに故郷に帰った。あの手紙を貰ってからも、数ヶ月は経っている。ぐずぐずと帰郷を延長し続けた私がやっと帰る気になったのは、失恋が原因だ。この間付き合い始めたばかりの彼氏に浮気され、ブチ切れたら向こうから別れを切り出された。あまりの理不尽さに渾身の右ストレートをお見舞いしてやろうとしたが、うっかり外してしまった(要素⑨)。あんな身勝手でも許されると思っている、イケメンなんか大っ嫌いだ(要素⑧)。
新幹線とローカル線を乗り継いで、更にバスに乗り換えて、ようやく実家の近くに着いた。家までの道のりは上京した頃と変わっておらず、歩く度に昔を思い出した。どこかから子供の声が聞こえた。何を言っているのかは分からなかったけれど、楽しそうなことだけは窺える。
やがて、家の前まで着くと、小さな庭に父が立っていた。出発前に電話でバスの時刻を伝えてあったから、待っていてくれたのだろう。父のそばには、私が上京する直前に飼い始めた、猫のニコが丸くなっている。
「お父さん!」
声をかけると、お父さんは笑顔でこちらに歩いてきた。歳の割にしっかりした足取りで、すたすたとこちらに歩いて来て……高く乾いた音をさせて、炭酸飲料の空き缶を蹴飛ばした。子供たちが缶蹴りでもしていたのだろうが、お父さんがそれを蹴飛ばしたことに、私は驚いた。でも不思議なことに、その瞬間、お父さんもまた驚いた顔をしていた。少し気味悪く感じたけど、それでもお父さんが
「笑子、おかえり」
と言ってくれたから
「お父さん、ただいま」
と返して家の門をくぐった。
でも、お父さんは、家の中に蹴り込まれていた空き缶を、また蹴飛ばした。(問題文要素)その缶は目立つ蛍光オレンジ色をしていたから、普通は二回も気づかず蹴飛ばしたりはしない。でも、お父さんはさっきも今も驚いていたから、わざと蹴飛ばした訳でもない。理由があるとすれば……。
家に入ると、推測は確信に変わった。埃を被った鏡、数ヶ月前の日付を見せるカレンダー、机の上のスケッチブックには、黒とペールオレンジが塗りたくられている。その黒が墨汁の色なのに気づいて、私はその絵の正体が私自身であると悟った。
間違いない、父は目が見えていない。
目が見えなきゃ、蟻の行列なんか見えない。歩いて数分のスーパーには、焼き鳥缶が沢山並んでいた。缶の見分けがつかなくて買えなかっただけで、店員さんに聞けば食べられたはずだ(要素⑥)。私の似顔絵を描いたつもりが、あんな訳の分からない色の集合体になる理由も、見えなかったからだろう。そもそも、目が見えなきゃ手紙さえ書けない。
……全部、嘘だったんだ(要素②)。きっとお父さんは、私を安心させたかったのだろう。手紙が書ける、蟻の行列が見える、スーパーで買い物ができる、絵が描ける。だから大丈夫だって。
「あのさお父さん、一緒に暮らさない?」
気づけばそう切り出していた。幸い、バリバリのキャリアウーマンをやっていたからお金はあったし、丁度彼氏もいなかった。

今私は、お父さんとニコと、二人と一匹で暮らしている(問題文要素)。お父さんの介護は楽じゃないけど、安心ではあったし、灯りの点いた家に帰れるのは、やっぱり嬉しい。【完】
[編集済]

問題文と解説の繫げ方、なるほど…!そして、予想にたがわず涙腺が…

No.75[まりむう]07月23日 22:4707月31日 00:23

タイトル「いたずらからぼたもち」

本編を読んでから、改めて、納得のタイトルです! [良い質問]

No.76[まりむう]07月23日 22:4707月31日 00:23

亀夫は超絶イケメン日本画家である。普段は墨絵で大作を描き、たまの日曜日には甘すぎるけれども何とか食べられる卵焼きを作って女の子にもてている。(5、6、7、11)
今日も京都で作品のタネを得るために街を歩いている。墨絵なので実際の色を伝えることはできないが、その代わり「いかに墨絵で色がなくても実際の雰囲気を伝えるか?」ということを常に考えている。(14)そして、暇になると海辺の町へ行き、タバコをかっこよくふかしているのだ。
・・・・・・・なんて全部嘘だ。(2)実際は20歳のフリーターだ。いつもはコミケでだれからも見向きもされない同人誌を描き、異常気象により引き起こされる雨でも傘の値段が惜しくてびしょ濡れになってうちに帰っている。(4)そして伸び縮みが激しい着古したズボンを何日間も履いている。(15)そして高校時代の同級生にして京葉大学で野球選手として活躍している田中を思い出し、田中のイケメンぶりをねたんで「イケメンは嫌いだ!」と心の中で思っていた。(8、10)

そんな亀夫にも楽しみはあった。たまの仕事の休みや同人誌の作成の休憩中に外に出てふかすタバコだ。といっても、いい灰皿は買えないので普段は缶を灰皿代わりにして使っているのだが。それでも亀夫にとっては至福のひと時であった。

そんなある日、亀夫に悲劇が起こった。何者かに缶を蹴られて缶を壊され、灰皿代わりの缶がなくなったのだ。近くに自販機はないので代わりにスーパーの缶詰を適当に探してそれを灰皿代わりに使うことにした。(1)さらに亀夫は缶を蹴りにくくするため、缶詰を分解し、金属をとがらせてから組み立てて使うことにした。(12)これで缶は蹴られないだろう―亀夫はそう思った。

ところが数日後、またしても缶が蹴られ、中のタバコが散乱する事態が発生した。亀夫がそれに気づいたのは、普段は亀夫の家に来ないアリが行列をなして群がってきたからである。(3)「どうしてこんなことが・・・・」亀夫はそう思った。しかし、亀夫本人には犯人の見当がつかなかった。

しかし、亀夫はある日、犯人を見つけることになった。それは近所のおばさんである亀子が猫を連れておしゃべりしにやってきたときの話である。ふと亀夫が窓を見るとある少年が庭にいるのが見つかった。「なぜ庭に少年が?」そう亀夫が思っていると、その少年は家にいるナメクジをはじめとして家の庭に大量の塩をかけ始めたのだ!
「あ、もしかして!」亀夫はぴんと来た。この少年が缶を蹴った犯人では?そう思っているとその少年にナメクジが逆に塩をかけ始めた!(13)
「うわっ、俺に塩をかけるんじゃねえ!」そう少年が叫んだところに亀夫が来た。
「お前だな!?」亀夫は叫ぶと少年を右ストレートで殴ろうとした。しかし、あいにくその少年はすばしっこかったため、亀夫が放った渾身の右ストレートは外れた。(9)ところが少年が亀子を見るとあることを言い出した。
「うわっ、猫だ!俺は動物が嫌いなんだあああああああああああ!」
そう叫び、少年は出て行った。どうやら亀子を亀夫の親と思ったらしい。
これを見た亀夫は少年が動物嫌いであることに気づき、早速猫を飼いはじめた。するとあっという間に缶が蹴られることはなくなった。

日常に平穏が戻った亀夫は今日もたばこを外でふかしている。もちろん缶を灰皿代わりにするのはいつものままだ。しかし変わったこともある。あれから亀夫は猫をネタに同人誌を描くようになった。するとその猫をテーマにした同人誌が「かわいくて萌える」として人気になり、おまけに漫画雑誌の編集者が目をつけてくれ、漫画家としてデビューすることになったのだ。
「はじめは単なる撃退のつもりで飼ったはずだけど思わぬ利益があったな。」亀夫は今日もそう思いながら猫を観察して漫画雑誌に初めて載せる作品を考えるのであった。(終)
[編集済]

コミカルに疾走感たっぷり。しかし、満足感もしっかり!猫の使い方、なるほど…

No.77[SNC]07月23日 22:5407月31日 00:23

ミス [編集済]

了解です!

No.78[SNC]07月23日 23:1207月31日 01:06

タイトル「憑かれた画家」 [編集済]

読み終わってから、改めてタイトルの意味を考え中…え、まさか… [良い質問]

No.79[SNC]07月23日 23:1507月31日 01:08

彼は二度、缶を蹴った。

一度目は、もうずっと前の話だ。
彼が料理をしようと台所へ行ったとき、床に置いてあった満タンの缶詰を蹴ってしまったのだ。
全身に激痛が走る。
ふとその缶詰に目をやると、そこにはアリの行列があった。(3)

アリは大量の缶詰の隙間にうごめいていた。
原因となっている缶詰を探す(1)もよくわからない。
このままでは埒があかないと思った彼は、卵焼きを作った。
それも砂糖を大量に入れ、甘すぎるぐらいにした特製卵焼き(5)だった。

それを餌にアリを誘導すると面白いように付いてくるので、それを玄関に置いて様子を見た。
卵焼きはどんどんアリに食べられ(6)ている。そこにあるものが現れたことで、彼の人生は大きく変わったのだ。
[編集済]

う。アリまみれの卵焼き…

No.80[SNC]07月23日 23:1507月31日 01:08

もう一回は、それから何十年も経ったある日のこと。
彼はもううんと年を取っていた。
私は彼の家の家政婦として雇われていた。家事だけでなく、彼の世話も私の仕事だった。
彼はもう足腰が大分弱くなっていたので、しっかりと歩行することもままならぬようになっていた。
そんな状態で、ある日いきなり

「また卵焼きが作りたい」

などと言うものだから、台所に連れていくと案の定これもまた偶然缶詰につまづいて転んでしまった。
以降、車椅子を使うようになった。

彼が廊下を車椅子で通っていると、飼い猫が彼の前を横切っていった。
急ブレーキをかけたものの、彼は勢いよく転んでしまった。

彼は強く頭を打ち意識不明。
その後、二度と目を覚ますことはなかった。
[編集済]

田中ー!

No.81[SNC]07月23日 23:3507月31日 00:27

言い忘れていたが、彼の名は田中。
一~二昔ほど前に流行った画家である。

彼の描く作品は、どれも素晴らしいタッチで見る者を凌駕したものだった。
だが、彼の手法を知るという者は永らくおらず、悪魔の手を借りていると噂されることもしばしばあった。

きっと田中は、私にしかこのことを話していないのだと思う。
田中の死後、初公開の話だ。しっかり思い出して書く(10)。

そう、先程書いたあるもの、それはナメクジである。
その日の前日まで異常気象(4)が続き、大雨が降っていたそうだ。それで特殊なナメクジがうまれたのだと田中は語っていた。

そのナメクジを処分すべく塩を掛けると弾き返した(13)そうだ。
そこで、その頃画家としての自分に迷いのあった田中は、絵の具にナメクジをつけてキャンバスに乗せた。
するとナメクジは這いずりまわり、様々な線が滑らかに描かれた。
それを見た田中は、黒一色の水墨画にすれば、もっと色の濃淡が強調されるかもしれないと、色が大切である(14)という先入観を捨て去り、ナメクジに墨を塗った。(11)
ナメクジは伸び縮み(15)を繰り返し、大作が描けた。(7)

それ以降、ナメクジで絵を描いては発表していたのだが、あることないこと騒がれ、身を隠してしまった。
[編集済]

まさかのナメクジアート!そのナメクジは、まさかスタッフが美味しく…(自主規制笑)

No.82[SNC]07月23日 23:5007月31日 01:08

密かに妻と二人で暮らしていた田中であったが、妻は難病にかかり余命宣告までされてしまった。
田中は妻の死の間際、

「こんな俺が旦那で…ごめんな」

と謝ったが、妻には明るく

「私、イケメンなんか大っ嫌いなので。」(8)

と返されてしまったらしい。そして、その言葉が最期だったそうだ。
田中は妻の頬に渾身の右ストレートを入れて起こそうとしたらしいが、結局力が抜けて外してしまった(9)。
そのまま床にへたりこみ三年は口がきけなかったそうだ。

そんなとき、私が雇われた。
二人きりの生活だったが、田中は優しかった。
今思えば、こちらが色々面倒見てもらった点もあった。
田中には壮大な遺産があったので、困ることもなかった。

これも偶然なのか定かではないが、二度目に田中が缶を蹴った前日にこの話を聞いたのだ。
その頃から、もう未来を予感していたのかもしれない。

私も実は田中が亡くなって以降、心にぽっかり穴が空いたような感じがしていた。
田中が転んで死んだので、その田中の車椅子を直せば戻るのではないかと、分解までして組み立て(13)たりもしたが、虚無感は依然消えなかった。
というか今も消えていない。私は身寄りも無かったので、一人ぼっちになってしまったのだ。

そんな喪失感の中、田中の家がついに壊されることになった。数週間に一度通うようにはしていたがついにこのときが来たかとため息をついた。

ふと気にかかったのは、田中の飼い猫である。
行く度にキャットフードを買って置いておいたりはしていたのだが、きっとこのままではどこかへ行ってしまう。

田中の存在を残しておきたかった私は、そんなこんなで結局その猫を飼うことにした。

※この話はフィクションです(2)
[編集済]

夫婦愛ですね。個人的に、この9の使い方好きです!

それでは、これにて解説投稿の受付を終了いたします。
それでは、これより投票フェーズに移ります。投票会場は、https://jp.surveymonkey.com/r/K6TYXDJ です。
お待たせいたしました。



第39回【正解を創りだすウミガメ】の結果発表です。





まずは、最も組み込むのが難しかった、もしくは、 難しいと思った要素『最難関要素賞』です!



票が割れる中、選ばれたのは……!









ダダダン!





要素⑬:ナメクジが塩を弾き返します





でした!



ほとんどが一票ずつの大接戦の中、唯一の二票を獲得し、見事『最難関要素賞』に輝きました。



SNCさん、おめでとうございます!









そして、最も好きな解説、『最優秀作品賞』に輝いたのは……!











・・・・・・ダダダン!





黒井由紀さんの、『父の手紙』 でした!



黒井由紀さん、おめでとうございます!



パチパチパチ!!



本当に大接戦で、どの作品にもまんべんなく票が割れる中、見事優勝に輝きました!おめでとうございます!



黒井由紀さんには、シェチュ王として、次回、第40回【正解を創りだすウミガメ】の出題と進行をお願いしたおと思います。よろしくお願いいたします。





以上をもちまして、【第39回正解を創り出すウミガメ】結果発表を終わります。





そして、最後になりますが、参加者の皆様、進行の不備等大変ご迷惑ご不便をおかけして申し訳ありませんでした。そんな中、最後までお付き合いいただき、誠にありがとうございました!

16年07月13日 20:01 [揚羽]
相談チャットです。この問題に関する事を書き込みましょう。
揚羽>>皆様、本当にありがとうございました。黒井由紀さん、SNCさん、おめでとうございます![02日00時33分]
黒井由紀>>揚羽さん、MCお疲れ様でした。SNCさんおめでとうございます。どうにもシュールな光景が浮かぶ要素で、ギョッとさせられました。次回MC頑張ります〜(^_−)−☆[01日16時56分]
KUZUHARA>>揚羽さんお疲れ様でした! ほんっとうに引き継ぎに不備があって申し訳ありませんでした>< 黒井さん、あさりさん、おめでとうございます。みなさん御疲れ様でした![01日14時55分]
えぜりん>>黒井由紀さん、最優秀作品賞おめでとうございます☆じんわり来る良い作品でした。SNCさん、最難関要素賞おめでとうございます。私もまずナメクジから考え始めたですよ。揚羽さん、長きに亘りMCありがとうございました。おつかれさまでした。[01日01時05分]
揚羽>>まりむうさん:本日の23時59分に投票締め切りですので、その後、30分以内には発表する予定です。[31日23時55分]
まりむう[★古参(2年)]>>揚羽さんに質問したいのですが、この結果はいつ発表される予定でしょうか?[31日23時05分]
揚羽>>迷宮入りの解除をしていただきました。皆様、ご迷惑をおかけいたしました。そして、管理人上杉様、アドバイスを下さった皆様、本当にありがとうございました。[編集済] [31日15時07分]
えぜりん>>祝・迷宮よりの帰還。上杉管理人様、ありがとうございました。[31日13時07分]
揚羽>>申し訳ありません。出題者の不注意により、迷宮入り状態となってしまいました。ただいま、迷宮入り解除の申請をしております。投票フェーズの応募は、当初の期限通り31日まで、『https://jp.surveymonkey.com/r/K6TYXDJ』において、受け付けさせていただきます。もし、迷宮入りの解除が不可能でした場合には、下記のまとメモにて発表をさせていただきます。私の不注意により、本当に申し訳ありませんでした。[編集済] [28日14時55分]
ごがつあめ涼花[★美味イイネ!(味が)]>>((( ;゚Д゚)))ガクガクブルブル 迷宮入り[27日22時31分]
揚羽>>おお、こんなにたくさんの方が!えぜりんさん、黒井由紀さん、まりむうさん、SNCさん、ご参加ありがとうございます![23日23時56分]
まりむう[★古参(2年)]>>投稿しました。[23日22時49分]
黒井由紀>>投稿完了しました。 遅ればせながら、参加しております。よろしくお願いします。[22日00時58分]
えぜりん>>投稿終了しました。[19日21時33分]
愛莉@京都LOVE>>時間が作れたら、解説に参加させていただきます[19日20時38分]
あっと!>>参加します……出来れば[15日21時20分]
揚羽>>質問数が増えていて、まさかなあ…と覗いてみたら、本当にまさかだった笑 この速さ…天童魔子さん、すごすぎます! ご参加ありがとうございます![13日22時45分]
揚羽>>まりむうさん参加表明ありがとうございます!解説投稿お待ちしております![13日21時17分]
揚羽>>要素募集フェーズに参加してくださったみなさん、ありがとうございました!採用された要素をまとメモに出しました。[編集済] [13日21時14分]
まりむう[★古参(2年)]>>解説投稿参加します。[13日21時09分]
揚羽>>えぜりんさん、了解です![13日20時23分]
えぜりん>>ゴメンナサイね。息子に夕飯要求されて一瞬離脱を……[13日20時20分]
SNC[管理人想い]>>3連投中なので、他の方の投稿を待ちますね→来られたので再開します[編集済] [13日20時18分]
えぜりん>>参加せねばならない気がした。[13日20時09分]
天童 魔子>>参加します[13日20時09分]
SNC[管理人想い]>>参加します[13日20時09分]
揚羽>>みなさん、歓迎します![13日20時05分]
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私はずっと、缶詰を探している(要素①)。
十六年前に田中と埋めた小さな缶詰。その中に二人分の夢を閉じ込めて、缶は今もどこかに埋まっている。

☆ ☆ ☆


十六年前。十歳だった私と彼は、缶を埋めた。当時流行っていた、お菓子を買うともらえる缶ヅメの缶に、宝物を詰めて。いわゆるタイムカプセルというやつだ。

私は、缶の中に、当時大好きだったオモチャのアクセサリーを入れた。それから、私と彼にあてた手紙を。大人になった今の私には絶対に書けない、素直な気持ちを詰め込んだ手紙。子供の頃の私は恐れ知らずで、今よりずっと純粋だった。

彼も、お気に入りだったオモチャを入れていた。そしてやっぱり未来の自分に宛てた手紙を。

全部詰めて、しっかり蓋をして。当時通っていた小学校の裏山に埋めた。誰かに見つからないように深いところに。

土の重みで缶が壊れたりしないか心配する私を見て、彼は思い切り缶を一回蹴った。ころころと転がる宝物入り缶詰。しかし、缶はしっかりとその形状を保っていた。缶を拾って大丈夫そうだと笑う彼に、宝物に何すんだと、私の右ストレートが決まった。

それから、忘れないように地図まで書いた。色鉛筆で色まで塗って、大作が描けた(要素⑦)ねって笑いあった。


☆ ☆ ☆

缶を探す。ひたすらに。
この時期の裏山は虫が多い。

セミの声に包まれながら、それっぽいところを掘り返してみる。
ただ、アリの行列に出くわした(要素③)だけだった。

☆ ☆ ☆


小波久美子、という自分の名前を、私はとても気に入っていた。
響きも良ければ、字面も可愛らしい。
しかし、氏と名が合わさったその名前は、聞く人によっては、カタツムリに似た虫を連想するらしい。そのためか、小学生の頃、一部男子からの私のあだ名は『ナメクジ』だった。

一番最初に、私の名前の語感がナメクジと似ていると気づいたのは田中だった。それなのに、田中は、私がナメクジと呼ばれているのを見ると、いつもなんとなく面白くなさそうな顔をした。
不思議なもので、田中がそういう表情をする度に、私は『ナメクジ』と呼ばれることが嫌ではなくなっていた。

うん、悪くない。ナメクジだって、よくよく見れば、愛嬌のある可愛らしい姿をしているではないか。
それに、そうだ。エスカルゴが美味しいのならば、なめくじだって食べられる(要素⑥)かもしれない。そう言ったら、田中は少し引いたように言った。

「お前それ、共食い」

私の渾身のエルボーが決まった。


私と田中が、二人で缶を埋めることになるのは、この少し後のことである。


☆ ☆ ☆

缶を探し始めて、早三日が過ぎた。

そろそろお盆も終わる。また、いつもの日常が戻ってくる。

☆ ☆ ☆


缶を埋めてから、一年と少し。中学生になった私達は、急に疎遠になった。お祭り男の田中の周りはいつも人で溢れていて、いつの間にか私が彼と話すことはなくなっていた。
たまに話しかけられても、なんとなく萎縮してしまってうまく返せない。
なんだか、自分が本当にナメクジになってしまったような気がした。塩を掛けられれば、しゅんと縮んでしまうナメクジ。
それでも、私は私で、気の会う友達とそれなりに楽しい毎日を過ごしていた。
ただ、ぼんやりとした寂しさは、なぜだか常につきまとっていたけれど。


ある日、いつも一緒にご飯を食べていた友達が風邪で休んだ。もう一人は、部活の用事で部室へ。
他に一緒にご飯を食べる相手がいない私は、しかたがないので一人でお弁当を食べていた。

不意に、ひょいと目の前に落ちる陰。気づけば、私のお弁当箱から卵焼きが消えていた。
「もーらいっ」
明るい声と共に、田中がくすねた卵焼きを頬張る。
勝手に人のおかずを取ったくせに、彼は甘すぎる卵焼き(要素⑤)に顔をしかめてみせた。私特製の卵焼きは、砂糖たっぷりだった。

「まあ、食べられるけど(要素⑥)」なんて偉そうなことを言いながら、俺はしょっぱい方が好きだなんて、余計な情報を付け足してきた。
頭に来たので言い返してみる。

「私のお弁当は、私と(脳内)イケメン彼氏専用なんですけど」
「じゃあ、問題ないな。俺、イケメンですから」

私のささやかな抵抗は、不適な笑いとともにさらりと返された。

「イケメンなんか大っ嫌い(要素⑧)」
先程自分で言ったことは棚にあげつつ放った私のジャブは、見事にあっさりかわされた。
そうそう何度もやられてたまるかよ、と田中は笑った。

どうでも良いことだけど、その日から私のお弁当の卵焼きは心持ち塩味になった。


☆ ☆ ☆

缶は見つからない。いくら探しても。

一年前の異常気象。田中を流した大雨は、そのまま缶を遠い土地まで運んでしまったのかもしれない。

☆ ☆ ☆


卒業式で、私は田中に捕まった。私を呼び止めた彼は、自分でも何がしたいのか分からないといった様子で落ち着きなく視線をさ迷わせていた。

「あのさ」
しばらく、あーとかうーとか唸った後、彼はやっと、言葉らしい言葉を発した。
「俺、東京の高校に進学するんだ」

知ってた。人気者の彼の情報は、わざわざ聞かなくたって勝手に耳に入ってくる。だから、それだけ気持ちの整理がつくのだって早かった。

「そうなんだ。行ってらっしゃい」
「ずいぶんあっさりした感想だな」
不服そうな田中に、私は笑って言った。なるべく冗談に聞こえるように。

「じゃあ、行かないでって言えば良いの?」

私がそう言うと、彼は困ったように笑った。その顔は、やっぱりムカつくくらいにイケメンで。

「イケメンなんか大っ嫌い(要素⑧)」
冗談めかして放った渾身の右ストレートは、やっぱり外れて空を切った(要素⑨)。

恋愛感情なら、告白をすれば良かったのだろう。しかし、自分でもよく分からないままの私の気持ちは、たぶんそう名付けるには早すぎた。だから、もどかしい気持ちを抱えたまま、私は、ずっと二の足を踏んでいた。

『田中、大好き』

至極シンプルな、幼い自分の素直な一言。その言葉をそのまま口に出せていたならば、何かが変わっていたのかもしれない。しかし、成長し、そこに何らかの意味を見いだそうとするようになってしまった私には、言葉を胸の内で転がしながらもて余すのが精一杯だった。



中学の卒業式から6年の月日が流れた。大学進学と共に家を出ていた私は、そのまま東京の会社に就職した。私とは反対に、田中は、大学を出た後、地元に戻って来ていたらしい。
一昨年のお盆休みに帰省した私は、偶然ばったり田中と再会した。


せっかくだからと、二人で懐かしい小学校まで行ってみた。話題は自然と思い出話になり、小さい頃埋めたタイムカプセルの話に行き着いた。

「この辺だよな。確か」
なんとなく流れで裏山を登っていると、不意に田中が足を止めた。懐かしそうに言いながら、目を細める。

「もう、見つからないんじゃない。いくらなんでも」
「おお、じゃあ、掘り返してみようぜ」

さすがに、もう時期だろと田中が笑う。大層に地図まで書いたくせに、私達は掘り返す日を決めていなかった。



果たして、奇跡的に缶は見つかった。
だいぶ変形していたけれど、それでも缶は変わらずそこに埋まっていた。

ひしゃげた缶をなんとか開けると、中には懐かしい当時の宝物が眠っていた。アクセサリーは、当たり前だけどやっぱりオモチャだった。それでも、そんじょそこらの宝石よりも素敵に輝いて見えるのだから、まったく思い出補正とは素晴らしい。

そんな宝物達の下、隠れるように眠っていた小さな手紙。封筒の中には、便箋が二枚。私宛のと田中宛の計二通。だいぶ雨水やら泥水やらを吸い込み、ぼろぼろになっていたそれらは、それでも、判読に支障のない程度には原型を保っていた。

懐かしい気持ちで手紙を眺めていると、自分の宝物を取り出した田中が不意に言った。

「こうしていざ掘り出してみるとさ。なんかちょっと惜しい気になるよな」
「どういう意味?」
彼の言葉の意図を図りかねて、私は言葉を返す。

「なんつーかさ、タイムカプセルって、本来開けるまでのどきどきがあるだろ。それがひとつの醍醐味っていうか。実際に缶を開けたら、その瞬間に夢から覚めちまったような気になるわけ」
「……」
「こんな風に、なんとなく思い出して、期待もせずに探したら偶然見つかるとか、なんか損した気分。せめて、掘り出す時期ぐらい決めれば良かったな」
十四年なんて、こんな中途半端な時期に掘り返したの、なんかもったいないような気がしてきちまった。そう、田中は笑った。

田中の理屈は、分かるような分からないような微妙なものだったが、その時の私は、だいぶノスタルジックな感傷に浸っていたらしい。少なくとも、こんな提案をしてしまう程度には。
「んじゃあ、もう一度埋め直す?」

ただ埋め戻すだけだと芸がないから、新しく手紙を追加して、今度は期限を決めて堀出そう。掘り返すのはいつにしようか、そう私が聞くと、田中は目をきらきらさせながら、「一年後!」と答えた。まったく、子供のようなやつである。


二人して手紙を書く。今度は一年後、そう遠くない未来に向けて。
早々と手紙を書き上げた田中は、何かを躊躇うように、手の中で十四年前の自分の手紙を弄んでいた。そして、突然口を開いた。

「この手紙さ、実は将来のお前に宛てて書いたんだ」
そんな風に言われてしまうと、俄然中身が気になってくる。
「なに。何て書いたの?」
「内緒」

そう言って、彼は、悪戯っ子のようにニヤリと笑った。

何となく悔しくなって、意趣返しのつもりで返してみる。
「私もさ、この手紙、将来の田中に向けて書いたんだ」
そう言うと彼は驚いたように私を見た。
「な、なんて書いたんだよ」
「知りたい?」
「……おう」
「えっとね。……私、実は、ずっと田中のことが……」
出来るだけ神妙に聞こえるようなトーンで話し出す。え、お前、まさか…と、田中がひきつったような、それでいて、まんざらでもなさそうな顔をした。好奇心と照れと困惑、そのすべてがない交ぜになったような複雑な顔。そんな田中の微妙な表情を確かめてから、

「まあ、嘘だけどね。全部(要素②)」
ぺろりと舌を出してみる。意趣返し成功。ナメクジだってやられてばかりじゃない。たまには、塩を弾き返す(要素⑬)ことだってあるのだ。

「内緒だよ、内緒。また埋めるんだったら、今言っちゃったら意味ないでしょう」

私の言葉に、ちぇ。そう言って、彼はまた缶を蹴った。あの日と違い、空になった缶は勢いよく遠くに飛んでいった。

やっべ、と缶を探しに行く田中の様子がおかしくて、私は笑った。


田中が缶を探しに行っている間、手持ちぶさただった私は、ふと手元の手紙に目を落とした。不思議なもので、田中宛の手紙の内容はしっかり覚えていたくせに、自分宛の手紙の内容は忘れていた。
来年のお楽しみにとっておくには、少し好奇心が勝りすぎた。冒頭だけ、と自分で自分に言い訳しながら、そっと手紙を開いてみる。そこには、

「元気にしていますか?猫を飼ってますか」
目が点になる。猫?私、猫好きだったっけ?

あまりに予想外な出だしに、もう少しだけ読み進めてみる。どうやら、十四年前の私は三毛猫が飼いたかったらしい。性別は出来ればオスが良いとのこと。

(……いや、無理だよ。三毛猫のオス飼えるほど、今の私に稼ぎないから……)

などと、小学生の他愛ないお願いに味気のない突っ込みを入れたところで、缶を携えた田中が戻って来た。

お前、何先に読もうとしてんだよずるいな、という田中の非難に、ごめんごめんと返しながら、私は手紙を仕舞い封をした。
そして、一度分解された缶を組み立て直す(要素⑫)。手紙二つ分だけ質量を増した缶は、また元の通りに埋め戻された。

二人とも携帯は持っていたけれど、連絡先は交換せずに別れた。
どうせ、一年後には再会する。それに、何より、その方が私達らしい気がした。

そうして、私達はまたそれぞれの日常に戻っていった。


日常に戻った私は、とりあえず子猫を飼い始めた。十四年前の自分の希望通り、三毛猫を。
さすがに、オスというわけにはいかなかったけれども、その辺はご愛嬌だ。

子猫は可愛かった。やっぱり、私は猫が好きだったらしい。
心のままに素直に感じるということは、実は、何歳になったとしても、そんなに難しいことではないのかもしれない。

子猫が大きくなるにつれて、私は少しずつ、田中に対する自分の思いがきちんとした形になっていくのを感じていた。
それは、なんだかむず痒いような不思議な感覚で。それでもまったく悪くない気分だった。

(次に田中に会ったときは)
子猫にミルクをやりながら、私は夢想する。次に田中に会う日のことを。
(今度は迷わず伝えよう)
私の、十五年分の素直な気持ちを。



そんなささやかな予定が大きく崩れたのは、ある夏日の午後だった。今から一年と少し前。約束の日まで十日という時に、かつて私が住んでいた地で、二十年に一度の異常気象が起こった(要素④)。

大雨は、何もかもを流してしまった。大切な物も大切な場所も。それから、私の大切な人も。

訂正。

大切な人なんかじゃない。あいつはただの田中だ。
知り合ってから今まで、私にとっての彼は、ただただ田中だった。

十六年前。そして、二年前。一緒に缶を埋めた頃には、私と田中の間には無限の可能性があった。ご近所さん。幼なじみ。盟友、親友、それから、恋愛関係。どんな間柄にもなりうる可能性を秘めていた。

しかし、私にとって、あいつは最後まで、ただの田中のままだった。結局、私達の間柄は、年に数回相手の苗字を呼べば事足りる程度の関係性にとどまったのだから。
そんな消化不良の関係性にしかなれなかったから、田中の訃報の知らせから一年足らずが経過してなお、私は、毎日のように田中のことを思い出さざるをえなかったのだろう(要素⑩)。田中を思い出す。田中のことばかり思い出す。毎日つけていた日記も、気づけば田中の名前だらけになってしまった。

田中を思い出す度に、日記に記すごとに、鮮やかに色づいていた記憶はセピア色の思い出に変換されていった。
ムカムカして衝動的に墨を塗った(要素⑪)。お気に入りだった日記帳は、その殆どが真っ黒になってしまった。

それでも、私の中の田中に色が戻ることはなかった。
色は大切だ(要素⑭)。褪せた記憶と、色のある現実では、何もかもが違う。あの日の田中はあんなに鮮やかだったのに、私はもうじき、彼の色も温度も何もかも思い出すことができなくなるのだろう。記憶の中の彼は、妙な具合に伸びたり縮んだり(要素⑮)して、その影を薄くしてゆく。

そんな現実が怖くてたまらず、いてもたってもいられなくなった。そうして、どうしようもなくなって、私は今ここに戻り、缶を探している。


☆ ☆ ☆

缶捜索5日目。明日からはまたいつもの日常だ。放り出したままの仕事が、きっと変わらずに私を待っている。

缶は見つからなかった。これだけ探してもないのだ。きっと、もうこの裏山にはないのだろう。


不思議なことに、缶を探しているうちに、ここに来るまでのどうしようもないほどの焦燥感や狂気は、綺麗に治まっていた。
きっと、これが私なりの区切りのつけかただったのだと、今さらながらに思った。



しかし、それでも私は、見つからない缶を探し続けるのだろう。きっと、これから先もずっと。

十六年前と二年前の、田中の想いを詰めた缶詰。田中が私に対して抱いていた感情が、友情なのか恋愛感情なのか家族愛なのか、それともただの懐かしさからくる感傷の類いにすぎないのか、それは今でも分からない。
それでも、田中は確かに私に情を抱いてくれていた。そして、それを伝えようと形にしてくれていた。缶を探す意味など、それで十分だ。
シュレディンガーの猫のように、その蓋を開けない限り、そこには無限の可能性が眠り続ける。

それに、案外、実は近くにあるのかもしれない。ある日突然、ひょっこり顔を出すかもしれない。

ねーと、日常に帰ってきた私は、猫に向かって話しかけてみる。


私は、缶を探している。
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