「ラテラルコース、お願いします」
「畏まりました。食後のお飲み物はいかがなさいますか?」
「私が紅茶で、彼にはコーヒーを」
と手慣れた様子で私の分まで注文を済ませて、メニューを引き渡してしまった。私が呆気に取られていると、シンディは面白いものを見つけたとばかりに、私に声を掛けた。
「ライナー君、君の後ろで楽しそうに会話してる二人、彼らは別会計だと思うよ」
振り向いてみると、窓際の席で、一組の男女が湯気の上がるスープを飲みながら談笑していた。言われてみれば、この店はカップルで溢れかえっている。人気のデートスポットでも近くにあるのだろうか。
「あのカップルが? しかし、彼はお金を持ってないようには見えないが……」
その席に座った男性は、仕立ての良さそうなジャケットの袖から、有名ブランドの腕時計を覗かせていた。靴も、かなりいいメーカーのものをしっかりと手入れして履いているから、結構仕事のできる人物なのではないだろうか。
「男がお金を払うべきっていうのは、ただの先入観だよ。まあでも、それ以外はライナー君の言う通り。別会計なのは、男の人がお金を持ってないからじゃない」
「じゃあ、女性の方が金欠だからか! 男の身なりが良いのはホストだからで」
同席している女性は、上品さの窺える恰好ではあるものの、男性と比べるとかなり地味であることは否めなかった。貢いでいるうちに、自分に使える金がなくなってしまったのかもしれない。
「ブブー、はずれ。ライナー君、もっとちゃんと観察しなきゃダメだよ?」
観察、と言われて、男女からテーブルの上へと目を移す。スパークリングワインが入ったグラスと、スープ皿と、カトラリーが二つずつ、行儀よく載っている。彼らが飲んでいるスープは、まるきり同じ皿で出されているし、カトラリーの本数を見るに、二人ともコースメニューを頼んでいると思われる。
「……分からない。どうして彼らが会計を分けるって断言できるんだ?」
「ふふふ、知りたいかい? YESかNOで答えられる質問にだったら、答えてあげよう」
シンディは、届いたばかりの野菜のテリーヌを切り分けながら、不敵にほほ笑んだ。
※ストーリー仕立てになっておりますが、この問題はウミガメのスープ問題です。「「ライナーの後ろで食事している男女は別々に会計するだろう」とシンディが考えた理由」をお解きください。
【参加ルール】ライナー君になりきって質問してください。シンディになりきって回答します。(お遊び要素なので、難しければ普通に質問してくださって結構です。また、あくまでウミガメですので、回答者(なりきりシンディ)は解決に必要な情報をすべて把握していますし、質問はYESかNOで答えられるものだけができます。ライナー君に探索・観察させることはできません)
【ウミガメ】
二人はカップルですか?
NO! 目の付け所がいいね。二人は、カップルではないよ。 [良い質問]
2人はシンディの知っている人かい?
関係なし。ただ、知っているから別会計だと思ったわけじゃないよ。
支払い方法は重要ですか?
NO. レジ会計でも、テーブル会計でも大丈夫。
とりあえず、そのテリーヌ美味しそうなので僕にも分けてくれないかな?
ライナー君のところにも、同じものが来てるけど?
海の見えるレストランであるという点は重要なのか?
NO. レストランの立地は一切関係ない。
ディナーコースでも成立しますか?
YESNO. んー、成立しない訳じゃないんだけど、ランチの方が、成立しやすいかな。
二人が入ってきたところを見たかい?
NO. 私達が店に入った時には、もう注文を済ませてたみたい。 [良い質問]
カトラリーが1つではなく、2つなのは重要かい?
申し訳ありません、「2人分」の誤字です。グラス2つ、スープ皿2つ、カトラリー2セットが、机に載っているものの内訳です。(お詫び良質) [良い質問]
要するに『レストランでホスト風の金を持っていそうな男と地味な女が別会計なのはなぜ?』にまとめても成立しますか?
YESNO. それでも成立しない訳じゃないけど……一応いろんな所にヒントが隠れてるから、探してみてくれると嬉しいな。 [良い質問]
男女の談笑している内容は重要?
NO. ここからだと聞こえないからね、重要じゃないよ。
刑事の張り込みなので経費で落とすために自分たちの食費を分けますか?
NO. 刑事さんではないんじゃないかな。
ところで僕たちは別会計かい? [編集済]
関係なし。 私達の支払い方法は重要ではないよ。別会計限定の店って訳でもない。
シンディは服装から別払いと判断したのかい?
NO. 確信したのは別の理由からだよ。……でも、服装からも考えられるかも。 [良い質問]
君は彼らの服装も参考にしているのかい?
NO. 14に同じく。 [良い質問]
女性の身なりが地味なのは重要かい? [編集済]
NO. それだけじゃ、何とも言えないかな。
アルコールは重要かい? [編集済]
NO. 飲み物が何かは重要ではないよ。
ライナー君の後ろの背後霊たちの地獄の沙汰も金次第なので生前の罪に応じて別会計(別地獄)行きですか?
NOw さすがに、そんな物騒なレストランではないと思うよ……
アラカルトではなく、お互いに支払う金額が明確なコースメニューを頼んでいるからかい?
NO. でも、コースメニューである、ということは重要だね。レストランによっても違うけど、ここのコースメニューは…… [良い質問]
僕らがラテラルコースを注文したのには、何か理由があるのかい?
NO. でも、ちょっとヒントになるかもね。
今、彼らに出ているディナーの内容は重要かい?
YES! ランチコースだけど。実は、彼らが頼んだメニューは…… [良い質問]
二人の職業は重要かい?
NO. 二人の職業は何でも大丈夫だよ。
スープから湯気が上がっているということは、二人はスープを飲みはじめて間もないということだね。これは重要なのか?
NO. でも、タイミングが違えば、もっと分かりやすかったかも。 [良い質問]
君が二人はカップルじゃないって見抜いた点がわかったらFAかい?
YESNO. 見抜いた点が分かればFAだけど、より正確に言うと、「二人はカップルじゃない」ではないんだ。実はもっと…… [良い質問]
2人はシャフ(賄い)と顔見知り客の関係なのでお会計を一緒に出来ませんか?
NO. 片方がシェフってことはないよ。
女性はお金を持っているかい?
YES. 食事代を支払えるくらいは持ってるんじゃないかな。
窓際の席はテーブル席かい?
YES. でも、そうじゃなかったら、もっと分かりやすかったかも。
年齢さはありますか?
関係なし。 年齢は……よく分からないや。
男は腕時計をしきりに見てたりするかい?
関係なし。重要なのは、身なりよりも、テーブルの上と、コースメニューについてだよ。 [良い質問]
あの2人以外もカップルじゃないペアは沢山いるのかい?
関係なし。 でも、これだけ混んでたら、もしかしたらいるかもしれないな。 [良い質問]
同じワインのボトルが2本置いてるかい? [編集済]
NO. グラスで注文してるみたいだから、そもそもボトルは置いてないよ。
食べ放題と食の進み具合は関係ありますか?
NO. 食べ放題じゃなくて、コースが運ばれてくるよ。
二人は赤の他人かい?
YES! ただの相席者なんだ。じゃあ何で、私はあの二人が赤の他人だと分かったんだろう? [良い質問]
食後の飲み物をどちらか一方が頼んでなかったりするかい?
NO. 飲み物じゃなくて……
これから出てくる料理の方が大切なのかな?
YES! これから出てくる料理は、二人別々なんだ。 [良い質問]
二人が頼んでるのはお子様ランチで親が別の席にいるのかい?
NO. 二人とも大人で、頼んでるのは普通のコースだよ。
20より 限定10食のカニバリスープコースかい?((( “ Д “ ;)))))
関係なし。でも、この店では、ウミガメのスープが出てくるらしいから……
2人は違うカップルの相手を待っていますか?
関係なし。さあ、どうなんだろうね。
二人は同じコースを頼んでいるのかい?
NO! 別のコースだよ。ちなみに、それに気づいた理由は、メニューと、彼らのテーブルの上にある。 [良い質問]
君は僕にコースを選ばせなかったけど、この問題を出すためにわざとメニューを見せなかったのかい?
YES! メニューを見せちゃうと、当てた絡繰りのほとんどがバレちゃうからね。メニューに書かれていた、コースにまつわる項目は、すごく重要。 [良い質問]
今食べているそれがヨークシャテリーヌでも成立しますか?
私達が頼んだものは、重要ではないよ。ライナー君、冷めないからって質問ばっかりしてないで、テリーヌ食べなよ。
レストランにはカップル限定のコースメニューがあるかい?
関係なし。 コースメニューについて重要なのは、そこじゃない。
二人が食べてるのはレディースランチかい?
NO. コースメニューについて重要なのは、そこじゃない。
コースメニューにサラダの次にスープがくることは関係あるかな?
NO. 後から入った私達が、彼らより先にメインディッシュを食べてたら変だから、作者がオードブルにしたんだって。
二人は夫婦かい?
NO. 赤の他人だね。
伝票が二つ存在していたから、あの男女はただ相席していた赤の他人、別会計だとわかったのか?
NO. テーブルの上には、グラスと皿とカトラリーしかないよ。
僕達が、ラテラルコースを頼んだ時は『二人共同じ物を』と言わなくても2人が同じコース料理であると店員が認識したのは重要かな?
YES! とっても重要さ。そう、この店のコース料理は…… [良い質問]
二人のカトラリーのセットが違ったかい?
YES! 女性の方の一番内側のナイフは魚用、男性の方の一番内側のナイフは肉用だったよ。 [良い質問]
二人が注文しているコースが、1人からでも受け付けてくれるコースだからかい?
NO! 221aの住人さん、逆! 46と一緒に考えると…… [良い質問]
このレストラン、混むと相席を頼むのはよくあることなのかい?
関係なし。 でも、そこそこあるんじゃないかな。
彼らが頼んだコース料理は変わってるのかい?
YESNO. 結構、こういうルールのお店、あるんじゃないかな。 [良い質問]
46 48 ここのコース料理はスープは二人前でも一つのお皿で出てきたりする?
NO. でも、ここと同じルールを採ってるお店のコース料理は、そういう出方をすることもあるよね。 [良い質問]
この店のランチは二人前からしか注文できないのか?
YES. そういうこと! ちなみに解説では、「同席者(連れ)全員で同じものを頼まないと注文できない」だったんだ。 [良い質問]
ラテラルコースは2人からじゃないと注文できないが、相席の二人はラテラルコースではないコースを頼んでいるので相席を頼まれただけの関係性だと推理したのかい?
YES! 正解! [正解]
この店のコースは全て二人からしか注文できないので、相席の二人はコース料理を食べるために一緒に入店したのかな?
NO. というより、バラバラのコースを注文したことの方が重要だったんだ。
ここのコースは少なくとも3種(魚・肉・ラテラル)かい?
ラテラル(魚)とバーチカル(肉)の二種類だったけど、重要ではないよ。
ここのお店では2人で来た時に一人前を別々に分けて頼むということはありえないのかい?
YES! コースは、同席者全員で一緒のものを頼まなきゃいけなかったんだ。 [良い質問]
「……よく見ると、置いてあるカトラリーが違う。女性の方の一番内側のナイフは魚用だが、男性の方は肉用だ」
「つまり?」
「実は彼らは、別のコースを頼んでいるんだ。あのスープが全コース共通のメニューだったから、同じものを頼んでいるように見えたがな」
コース料理を複数用意しているレストランでも、スープやデザートが共通であることは割とよくある。
「ふうん。でも、同じコースのメインディッシュ違いの可能性もあるんじゃないの?」
「それもそうなんだが、可能性は低いと思う。シンディがラテラルコースを頼んだ時、店員はメインディッシュをどうするか尋ねなかった。この店のコース料理はすべて、コーヒー・紅茶以外固定なんじゃないか?」
「ちょっと推理として弱いけど、確かに君の言う通り、この店のコース料理に、メインディッシュ違いは存在しない。おっと、まだ終わってないよ? 別のコースを頼んでただけじゃ、別会計にする理由にはならないもの」
「ああ、そうだな。別に割り勘にしたって構わないし、領収書が要る事情でもなければ、後で清算したっていいんだから。でも、あの二人はそんなことしない。なぜなら、あの二人は赤の他人だから」
ヒュウ、とシンディは口笛を吹いた。推理の方向性はこれで合っているようだ。
「根拠は?」
シンディは、どんぐりみたいな茶色い瞳でこちらを覗き込みながら言った。表情こそ柔和だが、その視線は、私の頭の中を透かし見てしまいそうに鋭い。
「根拠は、最初のシンディの注文だ。シンディは「ラテラルコース、お願いします」としか言わなかった。それなのに店員は、連れ――つまり俺のことだが――の注文を確認しなかった。何故だろうな」
シンディはうんうんと頷きながら聞いている。
「当然、理由がある。この店において、コース料理は同席者全員が同じものを頼まないと注文できないからだ。シンディがラテラルコースを頼んだ瞬間、俺の注文もラテラルコースに限定されたって訳だ」
「いいね。でも、まだ正解には足りてないね。彼らが赤の他人であるということを証明してくれなくちゃ」
「後は簡単だ。本来、コースを頼む場合、同席者は同じものを食べなければならないはず。それなのに、彼らが別のコースを食べられていた、ということは、彼らはただ相席していただけで、連れだって店に来ていた訳ではなかったんだ」
よく見ると、全ての座席に誰かが座っているから、店は相当に繁盛しているようだ。だからこそ、店からなのか、それともあの二人のどちらかからなのかはともかく、相席の申し出があったのだろう。二人の服装がちぐはぐなのは、相席である以上、最初から服のレベルを合わせる気がなかったからだ。
「ご名答! 私の推理過程も全く同じだよ」
シンディは、芝居がかった動きで静かに拍手をして見せた。と、笑っていたはずの顔のパーツを、急にすべて下げて、呆れたようにため息を吐いた。
「というかさ、ライナー君。メニューに書いてあったことくらい、聞いてくれても良かったのに……まさかそこまで推理されるとは思ってなかった」
「これでも、アルカーノに来る前は探偵事務所のナンバー3だったからな。コケにされっぱなしは嫌なんだ」
~おまけ~
いたずらっぽく笑ってから、シンディはウミガメのスープを掬って飲んだ。
「うん、やっぱりここのウミガメのスープは美味しいねえ。あの方が勧めるだけのことはある」
あの方とは、利用規約の下でスープを飲んでいる、館「ラテシン」の主のことだ。直接会ったことはないが、いや、会ったことが無い故にだろうか、とんでもなく偉いのだということだけは分かっていた。
「ええっ、あの方に聞いたのか?」
「そうだよ。私みたいな優秀な案内人には、ご褒美をあげたくなるのも無理ないよね」
「それはどうだか知らないが……というか、いいのか? 俺までそんな店に連れてきて」
「何言ってんのさ、これはライナー君がここに来たお祝いなんだから、良いに決まってるでしょ。代金はあの方にツケとくよう言われてる」
「あの方にツケ、か。恐れ多いな……」
鋭すぎるシンディや、無茶苦茶なコレクター達を束ねる親玉に借りを作るなんて、常識的な私には恐ろしく思えた。
「じゃ、ライナー君払う?」
「お祝いだっていうなら、ありがたく行為は受け取っておくよ」
きょとんと首を傾げたシンディに、私はそう返した。借りはこれから、謎で返せばいいだけだ。
「それがいいよ。あの方、ライナー君が来て、かなり嬉しそうだったからね。おめでとう、ライナー君」
「ありがとう、シンディ」
およそ非現実的なのに論理だっているという妙な世界に引っ張り込まれて、良いんだか悪いんだか、俺の頭がおめでたくなってしまったんだか分からないが、素直に祝福は受け取ることにしよう。
食後、デザートを食べていると、面白いものを見つけた。
「おい、シンディ。さすがの君も、あれは想定外だったんじゃないか?」
伝票を二枚持って立つ店員に、男性が財布から取り出した数枚の札を渡していた。店員が、「一緒にお会計なさいますか?」と聞いているところを見るに、彼が二人分支払うことにしたのだろう。
ただの相席にしては親しく喋っていると思っていたら、どうやら本当に親しくなっていたようだ。色々あって、男性の方がカッコつけて「今日はおごらせてください」とか言ったのだろう。
「……驚いた」
シンディは、唖然としてその光景を見ていた。
「Goodスープ認定」はスープ全体の質の評価として良いものだった場合に押してください。(進行は評価に含まれません)
ブックマークシステムと基本構造は同じですが、ブックマークは「基準が自由」なのに対しGoodは「基準が決められている」と認識してください。