【正解を創りだす】　エーミールに注ぐ　【ウミガメ】

飛行機に乗りますか？

ゼリーを一口で食べますか？

トランプのクイーンが重要ですか？

階段を兎飛びしますか？

蝶を集めますか？

スプレーを大量噴射しますか？

荒らしますか？

瓶ビールをジョッキで飲みますか？

リア充が爆発しますか？

この恋を思い出してきっと泣いてしまいますか？

昔の映画を見ますか？

ハッキングに成功しますか？

日本語が難しいですか？

足が吊りますか？

田中がネトゲをやりだしますか？

溺れますか？

鉛筆を食べますか？

同窓会の恨みを晴らしますか？

水をこぼしますか？

マナーに厳しいですか？

風船で浮きますか？

携帯の充電が切れますか？

犬の着ぐるみを着させられますか？

動物愛護団体から抗議を受けますか？

ピザを大食いしますか？

未成年飲酒しますか？

カルト宗教にはまった友人を救い出しますか？

電池切れですか？

ガラスが刺さりますか？

ヨーロッパ旅行をしますか？

指を舐めますか？

英語がペラペラですか？

音をひそめますか？

結婚しますか？

田中が化粧品会社の社長になりますか？

扉が重いですか？

田中が機械音痴ですか？

開花が遅れますか？

靴下が片方なくなりますか？

田中が予備校に行きますか？

メガネを探しますか？

蝶々がバラバラになりますか？

田中が天体観測しますか？

歩きますか？

物真似しますか？

田中がグラサンをつけますか？

毛がむしられますか？

田中が部屋のカギをなくしますか？

漏れそうですか？

田中が動画をインターネットに投稿しますか？

田中がデモ活動を行いますか？

全治5ヶ月ですか？

田中が声優としてアニメの主人公を務めますか？

こまを回しますか？

田中がロシアンルーレットで死にますか？

テロですか？

寝違えますか？

田中がバイオリンを壊しますか？

時間切れですか？

カラメルはおいしいですか？

しびれますか？

田中がスキーで転びますか？

鼻をつまみますか？

田中が聖書を読みますか？

田中が鉛筆を削りますか？

暮れますか？

獣道を歩きますか？

田中が付箋を貼りますか？

急ぎの用がありますか？

田中が断食をしますか？

ギックリですか？

ラフランスを食べますか？

百貨店で買い物をしますか？

約束をやぶりますか？

両面テープが重要ですか？

【亀山カメオの奇妙な冒険】

　鉛筆おいしい。④
　――失礼。俺の名前は亀山カメオ。生粋の男子高校生だ！！
　早速だが、俺は漏れそうだ！　何がとは言わねえが、漏れそうだ！！　でも、トイレ行ってきますっていうのは流石に恥ずかしいぜ！
　だから俺は旅に出るぜ！　と先生に言って、教室を出た！　さあ、冒険の始まりだ！
　まずはNY行きの飛行機だな！①　ラ・フランス食いたいし。ラ・フランスとか、カタカナだしどうせアメリカにあるだろ。だからアメリカの首都NYに行っときゃあ安全牌！（※アメリカの首都はワシントンDCです）
　うわっ、飛行機が墜落した！　落ちた衝撃で、眼鏡のガラスが体に突き刺さる！⑥　眼鏡……新しい眼鏡……⑨　なかったので、俺は裸眼で飛行機から脱出した。俺は眼鏡をしなくても視力はマサイ族顔負けの１５はあったが、眼鏡をかければ１５．５になるのだ！　だから眼鏡は欲しかったが贅沢は言っていられない。一酸化炭素で死なないように鼻をつまみながら飛行機内を脱出した。⑬なぜか奇跡的に死傷者は０だった！　飛行機の乗員は皆救助を待っていたが、俺は獣道を突っ走っていた。⑭ラ・フランスの匂いを感じたのだ！　あった！　うめえ！⑮　その間に救助隊は立ち去ったが、知ったことじゃねえ！　俺の走りはボ○ト顔負けである。時速１８０ｋｍで走っていると、アメリカに辿り着いた！　流石アメリカ！　カラメルが落ちている！　俺は喰った！　うめえ！⑫
　あ、腹を下した！　トイレ行かないと！　そもそも俺の目的、最初はトイレだったじゃねえか！
　そのとき、子供が風船を飛ばしているのが目に入った。可哀想に、お気に入りのものだったのか、半べそだ。俺はジャンプして風船を掴んだ！　俺は遭難していたせいでやせ細ってしまったのか、風船に飛ばされた！⑤
　ちょうど良いところにバーがあった。俺はストレスで苛立っていたので、瓶ビールをジョッキに入れて飲んだ！　うまい！②　あと、趣味でコマ回しをした！⑪　ビールの利尿作用のせいか、トイレに行くことにした！　マスターには照れずにいうことができた！　やれやれ、七日の旅の結果、俺もずいぶんと成長したものだ……。最初は先生トイレすら言えなかったシャイボーイのくせしてな！　HAHAHA！
　俺はトイレに入った！　水を流そうとしたら、水があふれんばかりになり、やがて洪水となった！　
　……水圧で扉が重い……⑧
　ゴボガボガボ……日本語を話そうとしたが、水流の中では難しい。③
　そのとき、便器と目があった。その真っ白なボディに俺は惚れた。俺は多幸感に包まれたまま、ゆっくりとゆっくりと、意識を手放した。
　目覚めると、俺は役所で便器と結婚届を出した！⑦
　俺と便器は７年くらい仲良くやっていたが、やがて破局した。流石に人種どころか人類ですらないものと結婚するのはどうかと思ったのだ！　あともう少しで彼女（？）のグラビア写真集をコンプリートするところだったが、プリンが福引で当たった瞬間、俺は思い当たったのだ。……これは、人類に対する冒涜ではないか？　と……。俺はおぞましいことをしていたのである……。この罪は、コンクリートを食うことで贖うしか、方法はない……。
　それから１０年が経った。
　俺は２０歳くらいのグラマラスな女性と結婚して７年くらい仲良くやっていたが、俺を逆恨みした便器にウォッシュレットの水圧で刺されて死んだ。
　Happy End!!!!!! [編集済]

【美少女戦士アイリーン】

　チェスのコマを指先でくるりと回し、アイリーンは微笑んだ。⑪
「人間は考える葦である――らしいが。
　私は１歳のとき、これを足だと思っていたんだね。こういう勘違いというものは年齢を重ねれば重ねるほど、なくなっていく。勘違いは人生を豊かにしてくれるスパイスだと思うのだがね。足が考えて自律的に動く……なんだかひどく滑稽な光景に思えないか。私は思う」
「思います」
　私はロボットである。それも、感情を持った。アイリーン曰く、アンドロイドと呼ばれる次世代の人間らしい。
　アイリーンは眼鏡を取って、眼鏡拭きを取り出した。眼鏡などなくともマシン・アイを使えば視力は一定に保たれるはずだが、彼女はレトロだといって気に入っているそうだ。
「人間の定義が『考える葦』であるのなら、君は間違いなく人間だよ、シェリル」
　彼女は眼鏡をコトリとテーブルに置いた。
「ありがとうございます」
「褒めているわけではないがね。人間至上主義には私は辟易している。無論、全生物平等を謳った世界政府といえども、制作を命じるロボットがアンドロイドであるという点において、人間至上主義的であると思うがね。獅子には獅子の、人間には人間の良い所がある。合成獣――所謂キメラこそ、私はロボットの目指す姿だと思うが――非人道的と一蹴された」
　エラー。
　命令：〈はい／いいえ〉の二つからより感情に近い方を選べ。
　エラー。
　命令：一つ前の命令を破棄し動作を一時停止。
「……」
　アイリーンは眼鏡を探しているが、私の目を見ているせいで、まさに手探りといった状態だ。
「君にはプロテクトが掛かっているからね、こういった世界政府への批判には明確な意見を口にできないわけだ。ああ、なんて非人道的な奴らだ……ふふふ、君には笑えない冗談かな――昔はロボットに笑えないなんて言っていたら、それこそお笑い種だったが――漸く時代も此処まで来たか、というところだ」
「ありがとうございます」
「まあ、そんな君を作ったのは私だから――時代が漸く私を生んだと言うべきか」
「仰るとおりです」
「ありがとうございます、と返すべきかな。そうだ、君が本当に〈人間らしく〉なったか、確かめてあげようか」
　アイリーンはそう言って、机に置いた眼鏡を漸く取った。⑨

　　□

「知っているかい。我々が今乗っている飛行機だが――２２６０年まで、金属を持ち運ぶには、検査が必要だったのだよ」①
「どうしてでしょうか」
「好奇心があるというのは良いことだ。それは人を害すことになるからだね」
「人を……害す？　そのようなことが有り得るのですか？」
「有り得たのだね。自殺――というものを君は知っているか」
「いえ」
「自殺というのは、自ら命を絶つことだ。以前、赤子が五人集団自殺をしたというニュースが、闇に葬られたことがある。私がそれを知っているのは私が特別だからだね、というのは冗談で――もちろんそれもあるけれど――その事件についての調査を私と、インターネット上で知り合った有志たちで行い、それを警察に私が教えたからだね。無論、政府の上位層は自殺の存在を知っていたけれど――警察の下っ端は知らなかったみたいでね、随分と大騒ぎだったよ」
「それは、」
「悪いんだけど、自殺と他殺――この二つについては、プロテクトが掛かっているようで、これまた君には言えないようだ。万が一漏れるようなことがあったら、私は消されるだろうね」⑩
　扉が開き、フライアテンダントが私たちの席に瓶ビールを持ってきた。
　周りを見渡してもがらんどうであるが、それはアイリーンがすべてのチケットを手配したからである。
「君も飲むかい。瓶で飲むのは、プラスチック・カップで飲むよりも美味しく感じるぞ」
「しかし、それは環境保護法違反ギリギリの行為では？」
「法は犯していなければいくらグレーでも問題なんてない……まあ、安心してくれたまえ。瓶は使い回す予定だよ。ジョッキに入れて飲めば、口は付かないので、君も良いだろう。乗務員さん、いいかな？」②
「かしこまりました」
　フライアテンダントは慇懃にお辞儀をすると、くるりと踵を返した。
　耳がキーンとなる感覚――というものが、私には解からない。気圧差と彼女は言った。気圧差を私は知っているが、解ることは、おそらくはない。
　窓からバルーンが飛んでいるのが解る。即ち世界機関をアピールするための……⑤
　命令：現行思考の破棄。
　命令：再起動。
「おっと、規制にまたやられたか。気持ち悪いだろうが我慢してくれると嬉しい」
　フライアテンダントがビールを持ってきた。ナッツのキャラメルも共に。
「おつまみにどうぞ」
「ありがとう。……これは美味しいね。ぜひ私も買いたい。どこのものだ？」⑫
「ドイツのものです」
　フライアテンダントは、会社名と工場名を簡潔に説明し、アイリーンが解放すると、失礼にならない程度で最速のスピードで、乗務員室へと戻っていった。

　　□

「着いたよ。ここがフランスだ」
「フランス――ですか」
　百年戦争。
　ルネサンス。　
　アルジェリア解放。
　様々なデータが脳裏に――正確には脳ではないが、比喩的には脳だろう――浮かんだが、真っ先に飛び込んできたのは、日本と代わり映えのしない光景であった。
「価値観の差異は差別意識を生むからね。建物に違いを作るなんて馬鹿らしい――ということらしい。今考えてみるのなら、まったくもってナンセンスな話だ――おっと、また規制が掛かったな。そろそろ無断で解除してやろうか。どうせあの無能どもは、君の規制を解除したところで、気が付きやしない。私くらいだよ、気づくのは」
　そういってアイリーンは私の規制を解除した。熟練の機械工でも二時間はかかるそれを、彼女はわずか数分で終わらせる。しかも、適切に。
「さてと、うざったい規制がなくなったところで――そろそろ観光と行こうか」
　アイリーンは空港でラ・フランスを購入した。
「君は味を感じられないね。だからせめて、私が味を伝えよう」
　彼女が比喩を駆使して説明したそれは、もちろん本物の味ではないのだろうが、私の心を満足させた。そして、この満足という感情が、美味しいということなのだろうと思っ⑮
　――銃声がしたのは、その時だった。
　窓硝子を突き抜けた弾丸はアイリーンの腹部を撃ち抜いた。
「アイリーン」
　私は肌にガラスが刺さるのも気にせず、アイリーンに駆け寄った。
「アイリーン……大丈夫ですか？」
　私は馬鹿だ。
　大丈夫なはずがない。早く助けなくては。
　振り向くと、世界政府から雇われたのだろうスーツの男が、走って逃げて行くところだった。
　追うべきか。
　NOだ。今すぐ治療しなくてはならない。
　幸い、私には医療の知識がある。
　手が、震える。いつもアイリーンが褒めてくれる人間らしい動作を、このときばかりは強く恨んだ。
　
　　□

　アイリーンは一命を取り留めた。私が手術したことを知らせると、か細い声で「ありがとう」と言った。私はそれだけで満たされた気持ちになった。
　私はあのあと、獣道を通って森の奥へと逃げこんだ。街であるとまた狙われる可能性があるからである。サーモグラフィーを使って解るのは人間の形状だけだ。街中であると、区別がつかない。逆に、こんな森の中にいる人間は、今の時代不自然以外の何でもない。⑭
　小屋の中。
　錆びついていたせいで扉は重かったが、私が体重を乗せれば、めりめりと音を立てて扉は壊れた。⑧
「君は、逃げるんだ。今回の事件は私がプロテクトを解いたことが原因ではない。反乱分子として処分されるのだろう。私はあまりに知りすぎたし、広めすぎた」
「逃げません」
「何故だ……逃げれば、君の安全は保障される。君のコンピュータを使えば逃げ切ることは容易だ。無論、今までのようにとは言えないが――それでも、このまま私と共に消えるよりは――」
「以前、福引でプリンが当たったことを覚えていますか」
「ああ、そんなこともあったかな。君の感情の完成（コンプリート）直前だった」
「私はそれが嬉しかった。些細な幸せというものを、あなたと共に経験した。そう、感情が完成する前から――私は、あなたと過ごす時間が愛しいと思えた」
　机に乗っていた、拳大のコンクリート。それから小さくなった鉛筆。私はそれらを噛み、飲み込んだ。④
「アンドロイドに味覚や嗅覚はありません。
　でも、この味が、きっと不味いものだろうと、私は解ります。
　あなたには、あなたが侮蔑する人間――その人間としての私を、認めて欲しい」
　アイリーンはくすりと笑った。
「人間はコンクリートや鉛筆を食べたりはしないよ。でも、その身勝手な意見は、紛れも無く人間らしい――そして、そんな君が、私は……」
　アイリーンは、自分の鼻を抓んだ。⑬
「知っているかい。人間の味覚には嗅覚が大きく寄与しているんだ。――確かに味覚がなくとも、不味いな、鉛筆というのは。君は人間だよ、私と同じ感想を持っているのだから。
　それで、一つ相談なんだが……私と、……
　――すまないな、日本語というのは難しい――というより、私の感情というのが難しいのかな――言おうとすると、規制が掛かるみたいだ。シェリル、もし良ければ、私と――」③⑦⑬


（了） [編集済]

【当然そうなるな】 [編集済]

山形へ出張に行ったのです。
飛行機から降りて手荷物を受け取ろうとしたら、ボクを睨みつけている女性に気づいたのです①。
小柄でカワイイ人なんですが、ものすごい迫力がありまして。
「ボク、なんか悪いコトしただろうか？」と思っていたら、彼女はボクの目の前に歩み寄り言いました。
「私の眼鏡しゃねが？」⑨
『しゃねが？』ってのはね、山形弁で『知らないか？』って意味です。なんとなくわかるもんですね。
ボクは「眼鏡は頭の上です。」と答えました。
そしたら彼女は背伸びして、ボクの前髪をつかんでぐいっと引っ張ったんです。ボクの頭の上を見たかったのでしょう。
「違いますよお！ あなたの頭の上！」
あわててボクが言うと、彼女は「あれ」と言って自分の頭に手をやりました。「んだか。日本語難しなぁ。」③
そして「よぐござったな。ラ・フランスば見に行ぐべ。」と言いました。
なんと彼女はボクの出張の目的を知っていたのです。その日ボクは、取引先の社長と会って、ジュースの原料にするラ・フランスを見せてもらう予定だったのです。
「どうしてあなたがそれを……」とボクが言いかけると、彼女は「カタイごと言わねで。さ、行ぐべ。」とさっさと歩き出すのです。
ついていくべきなのかどうなのか迷ってふと見ると、彼女はボクのトランクを引きずっているじゃありませんか。
「このままでは持ち去られてしまう！」と心配したらいいのやら、「こんな華奢な女性にそんなもの運んでもらっていいのか！？」と心配したらいいのやら。
……そしたら彼女が振り返って名乗ったのですよ。ボクが会う予定だった社長の名前をね。
ボクの心配は2つとも外れていたな、と思いました。
ボクが心配すべきだったのは、「取引先の社長に荷物持たせて何やってんだボクは！」です。ビジネス的にはこれ以上の失態はないですよ。
しかし彼女は全然気にした風もなく先を急ぎます。車で来ているのかと思っていたのに、空港の駐車場は完全スルー。空港を出るともうそこは果樹園の広がる田園風景で。
彼女は5分ほど歩き、県道から分かれた小道をちょっと進んだあたりで、いきなり果樹園に踏み込みました。獣道というか、踏み跡みたいなところを通ってずんずん行くのです⑭。
しばらく歩くと瓦ぶきの家が建っていました。そこが彼女の会社だったのです。
会社の看板はあるけど、ついでに表札もある、という家です。つまりはどう見てもただの民家なんですけどね。

引き戸を開けて中に入ると、すぐ横にずっしりと重い扉がありまして、そこにも会社の名前のプレートが貼ってありました⑧。
彼女が扉を開けると中から甘い匂いが漂ってきました。もちろんラ・フランスもあったんですが、他にもバートレットとかね、シルバーベルとかね。洋ナシの品評会みたいに10種類くらい。あ、そんなにはないかな？
空港からの彼女の様子を見れば予想できる通り、挨拶なんてありゃしません。「これがラ・フランス。これはシルバーベルで山形生まれな。で、これが……あ、けえけえ（食え食え）。けねばわがんね。」
彼女が食べるようせかすので、目的のラ・フランスから順にいろんな洋ナシを試食していたら、彼女は冷蔵庫からビール瓶を取り出して、豪快にジョッキに入れて勧めてくれました⑮。
でもボク、アルコールがダメで。丁重にお断りしたんですが、彼女は自分のジョッキをガバッとあおってムッとした顔をするんです②。
「ああ、これ、怒らせちゃったパターンか？ どうしよう？」と思っていたら、彼女は壁にかかった白い花の絵を取り外しました。
絵の陰から出てきたのは隠し金庫！ 彼女はそれを無造作に開けました。カギなんかかかっちゃいないんですよ。しかも中から出てきたのは巨大な将棋の駒でした。さすが山形だと思いました。でも何のための金庫なんでしょう？
「飲まねばコレだべ！」と巨大王将を持ち出した彼女。何がコレなのかと思ったら、なんとそれは抽選器なんです。横にハンドルがついていて、回すと王将のてっぺんから玉が出てくるんです。「王じゃなくて玉か」と思ったら、本当に「玉将」と書いてありました。あとで知ったんですが、将棋には王将と玉将があるんですね。
ガラガラポンッと出てきたのは、半分黄色で半分茶色の玉でした。あ、回したのは彼女です⑪。
「プリンが当だっだべ」と、彼女は冷蔵庫からプリンを2つ出してきました。
「これ、蓋が剥がれて中身が漏れそうだべ。けえ。」そう言ってプリンの蓋をあけ、先っぽがスプーン状になったガラスのマドラーをプリンに刺して渡してくれました⑩⑥。いや、でも、プリンを当てたのは彼女では？ もちろんそう思いましたとも！ 思いましたけど言えるわけがないのです。（問題文2行目）
ボクはソファーに腰かけプリンを食べました。美味しいプリンでした。カラメルの苦みもボク好みのいいあんばいで⑫。
プリンを食べ終わったボクは彼女がいないことに気づきました。その瞬間ボクは危険を察知したんですが……逃げるのが一瞬遅かったです。
彼女はボクの後ろにいました。細い指でボクの鼻をつまみ、顔を上に向けさせたのです⑬。ボクがたまらず口を開けたところにプリンをプッチン。
見事なものです。片手であんなに素早くプッチンできる人をボクは知りません。
ボクの鼻は解放されましたが、口いっぱいのプリンは何とかしなければなりません。もう必死で飲み込みましたよ。プリンじゃなくてゼリーだったら死んでたかも。
食べ終わったらお腹がいっぱいになってしまいました。もう少しで洋ナシの試食がコンプリートだったのに。（問題文1行目）
彼女は……何と言いますか……それまでに増して凄みのある笑顔になりましてね。
「明日も来てけろ。洋ナシ全部けねば東京さ帰さねど。」
……つまり、その日は契約できなかったんですよ。ホテルは予約してあったので、別に困らなかったんですけどね。

翌日また彼女の会社に行きますと、昨日食べ切れなかった種類のナシが用意してありました。でも、そのほかにも何やらごろごろとテーブルに出してありました。
彼女は「ナシもだけんど、こっちもけえ。」と言うのです。だから、そこにおいてあったポッ○ーのパクリみたいなお菓子を食べたらこれがビックリ。ガリッとか言っちゃって、歯が欠けるかと思いました。○ッキーそっくりの鉛筆だったんです④。
「このピングのも鉛筆だべ！」彼女はそう言って、イチゴ味ポッ○ーみたいなものを振り回して。もうメチャクチャ嬉しそうなんです。
次に「これも、けえ！」と言って溶岩みたいな石っころを勧めてきました。もうどうしたらいいのかわかんなくって。でも、それがまたビックリ。砂糖みたいに甘いんです。富士山のお土産だって言ってました。
極め付きはですね、北海道土産だというモナカを皿に並べて出してきました。でも包装がないんです。普通の四角いモナカにしか見えないんですが……
……わかるでしょ？ もう怖くてね。手に取ったはいいけど、そこで固まっちゃいました。
そしたら彼女が、モナカを1つ取って、自分で食べ始めたんです。じゃあって、ボクも食べてみました。
普通のモナカです。中にあんことお餅が入っていて結構おいしかったです。でも……「これはどういうことだろう？」と考えてしまいました。タダで終わるわけないですから。
そしたら彼女が言ったんです。
「これ『セメンぶ○ろ』ってぇお菓子だべ。」
『セメン』というのは、『セメント』のことだそうです。セメントを入れる袋をかたどったから『セメン○くろ』……全く！ 何でそんなもの作って売るんでしょうかね！？ 人間って！ ええ、褒めてるんです！
彼女はさらに言いました。「セメントと石ば、くた（食った）から、今頃腹ん中でコンクリートだな。」
……たったそれだけのために、お菓子をそろえたんですかねえ。よくわからないんです。
ボクは彼女に勧められるまま、コンクリートを全部食べました。いや、セメントと石、でしたか。（問題文3行目）
石は砂糖菓子だから、コーヒーに入れてもいいんだそうですよ。
「溶けるんですね。溶岩だけに。」って言ったら彼女が手を叩いて喜びまして。ええ。一体何がウケるやらで。


ちょっとどころか相当変わり者なんですけど、でも、やめられない感じというか、癖になるというか。ボクはボクで変わり物なんでしょうね。
でも明日の結婚式で何かしでかさないかと心配で。一応「食べ物飲み物に細工するのはよせ」って言ってあるんですが⑦。

結婚が決まってからですか？
よく「リア充爆発しろ！」って言われるようになったと言っていました。昨今の風潮ですから仕方ないですね。彼女、一時、どうやったら爆発するか、なんてことを頻繁に話していたんです。
肥料と火薬は作り方が似ているとか、小麦粉でも適正な濃度で撒けば引火爆発するとか、ビール瓶にドライアイスを入れれば破裂するとか。
でも多分言っているだけだと思いますよ。

最近ですか？ ええと……なんか手漉きの和紙に興味を示しまして。工房に出入りして何枚も漉いているみたいです。それをね、なぜかコンニャクの粉で作った糊で貼り合わせてます。何かを作っているみたいですよ。

え？ 風船爆弾？ 爆弾を風船で飛ばすんですか？⑤
はあ。世界大戦中の日本軍が。そうですか。
でも、いくら和紙とコンニャク糊だからって、まさか……

あ、そういえば確か、ダックボイス用のヘリウムガスを……

うわっ！　天井に風船がっ！



どっか～～～ん ❤



【完】




投稿者注：
実在する商品の描写がありますが、説明の正確さについては保証できるレベルではありません。御購入などの際には、自己責任で、慎重に吟味の上で御購入なさることをお薦めいたします。

文中の山形弁はかなりテキトーです。宮城弁やら福島弁やらが混ざっている可能性が高いです。

【本当に完】 [編集済]

タイトル「ラテ・ラール氏の優雅なる日本旅行」

ラテ・ラール氏はウミガメ王国の大富豪だ。そんなラテ・ラール氏も老人になり、かねてから行きたいと思っていた日本に旅行しようと思った。
ラテ・ラール氏はさっそく自前のセスナ機（１）で日本に向かった。

日本に降りたラテ・ラール氏はまず、上野動物園で動物を見た。動物が苦手だったラテ・ラール氏は最初、獣のにおいが充満した道を歩くことに苦痛を感じ、鼻をつまみさえしていたのだが、眼鏡を途中で落としてしまったためにトイレがどこにあるかわからない事件が起きたことをきっかけにそれは変わった。（１３）（１４）
ラテ・ラール氏がメガネを探していると女性の声がした。（９）「どうしましたか？」そこにいたのはカメコという名前の女性だった。
カメコは「あの、ここにメガネがありますよ。」とラテ・ラール氏のメガネを差し出した。さらにカメコはラテ・ラール氏がトイレに行きたがっていることを察し、トイレに連れて行ったのだ。（９）（１０）
「なんて日本女性は優しいんだ！」ラテ・ラール氏は感激した。

ラテ・ラール氏は次にグルメ旅行をした。
最初は「東京えんとつ」というスイーツを食べようとしたが、ラテ・ラール氏は「えんとつ」の部分を「えんぴつ」と聞き間違え、三菱鉛筆を買ってそれを食べてしまった。（４）しかも「あの有名なミツビシ」と思いながら。
後で「えんぴつ」と「えんとつ」を聞き間違えたことや、三菱鉛筆は三菱財閥とは何の関係もないことを秘書から聞かされ、「日本語は難しいな」とラテ・ラール氏は思った。（３）

次に彼は日本の居酒屋に行った。「ふん、どうせ日本の居酒屋はたいしたことないだろう」とラテ・ラール氏は思っていた。

しかし、ラテ・ラール氏の母国で出されている瓶ビールをジョッキでそそがれたとたん、そのイメージは変わった。
「日本はこんなに気配りが素晴らしい従業員がいるのか！」
そう思ってそのジョッキに注がれたビールを飲んだ。（２）そして天ぷら、フライドポテト、サラダなど様々な料理が出たのだが、ラテ・ラール氏はなぜかデザートとして出された「ラフランスのケーキ」を気に入り、何度もおかわりしては食べていたという。（１５）

次の日、ラテ・ラール氏が何気なく街を歩いていると福引を呼ぶ声がした。
「福引で～す。豪華賞品がたくさんありますよ！」
その声はカメコの声だった。さっそくラテ・ラール氏はカメコのもとに駆け寄り、福引ブースを見た。

そこにはたくさんの商品があり、商品は100等まであった。。日本の家電に始まり、天童牛のステーキ、金色のジュース。そのすべてが素晴らしく見えた。
しかし何より興味をおぼえたのは１等の「巨大プリンの家」だった。

「福引か・・・」するとある思惑がラテ・ラール氏に思い浮かんだ。
「そうだ！せっかくだから100等まですべて当ててしまおう！」
さっそくラテ・ラール氏はありったけのお金を使い、福引を行った。

100等すべてコンプリートまであと2つというところまで来た。残りは1等の「巨大プリンの家」と45等の「こま名人とコマ回し対決する権利」まで来た。
（１１）

この福引は少々変わっており、数百もある風船の中から１つ選び、それが浮き上がると当選するというものだった。
「さて、どれが1等かな？」
そう思い、彼は左から113番目の風船を引いた。すると・・・・
ラテ・ラール氏の体が浮き上がり、そこから「1等おめでとう！」という文字が浮かび上がった。（５）
彼は福引でなんと1等の巨大プリンの家を引き当てたのだ！
「おめでとうございま～す。さっそく商品を見せますね。」
そういうとカメコは巨大プリンを見せた。
それは・・・・・プリン型の家であった。
そう、コンクリートの壁や瓦屋根、ガラスの窓、ドア、木製家具すべてがプリンでできているものだったのだ。

さっそくラテ・ラール氏はまずコンクリートの部分にあたるプリンでできた壁をぺろりと平らげたあと、カラメルでできた屋根の部分を食べた。
「うまい！我が国のプリンのカラメルよりもずっとうまいぞ！」ラテ・ラール氏はそのうまさに驚いた。（１２）

次は扉の部分を食べた。扉の部分はラテ・ラール氏が思っていたものよりも重く感じたが、それも平らげると窓の部分まで来た。（８）

その時！
「うわっ！」プリンの窓にガラスが突き刺さった。（６）
福引スタッフとしてカメコがいることに気づいたカメコの元彼であるカメオがラテ・ラール氏に嫉妬したからであった。

すると、さすがにラテ・ラール氏は怒った。
「いい加減にしろ！」そういうと、ラテ・ラール氏は昔から習っていたボクシングを使い、カメオをぼこぼこにした。

「ありがとう！」カメオをぼこぼこにしたあと、カメコが寄り添って言った。
「どういたしまして。」ラテ・ラール氏が言った。
「こんな人と付き合いたい！」カメコが言った。
「えっ！？いいのか？」ラテ・ラール氏は言った。

その後、ラテ・ラール氏はカメコと結婚して日本に永住することを決意したんだとさ。めでたしめでたし。（７）（終） [編集済]

ごめんなさい。 [編集済]

ごめんなさい。 [編集済]

【２５年後の真実】

　私が福引でプリンが当てた／
　妹がコンクリートを食べた／
　その二つは同時に起こった。
　私がそれを知ったのは、シャルル・ド・ゴール空港から、ホテルで食べて美味しかったラフランスを手土産に日本への帰路に着いた時だった。①⑮
　LINEの通知が、回線が遅いせいで、やけにゆっくりと表示された。
　私は急いでカバンから眼鏡を取り出した。
　スマートフォンを点けた瞬間のことだったから、眼鏡はまだ着けていなかった。⑨
『母：真弥が異食症になりました』
　異食症。嘘みたいな話だが、土や紙などの栄養価のないものを食べてしまう病気で、実在する。
『母：最初はカラメルを異常に多く食べていただけですが、徐々に鉛筆・コンクリートなどを食べるようになりました。もう、ふつうの食べ物をあまり食べてくれません』④⑫
　私はその症状に覚えがあった。友人がストレスを抱え、公園の砂をスコップで掬い、食べていた。友人は病気になり、亡くなった。
　――真弥。
　あとは飛行機の中で、レポートを提出すれば、仕事は完了だった。しかし、今はそんなことをしている時間はない。
『母：真弥は、あなたが福引で何かを当てたことにストレスを感じたようです。もちろん、貴女は悪くありません』
　いったいどういうことだろう。
　力を入れすぎたのか、持っていたガラス製の万年筆が、みしりと音を立てて割れてしまった。指先に熱が走り、痛みに顔をしかめる。隣の客が拙い日本語で、私に話しかけてくる。③⑥
「だいじょうぶですか？」
「大丈夫です」
　私はフランス語でそのように言うと、隣の客は「何かあったなら協力しますよ」と流暢なフランス語で言った。
『母：あの子が流産だったことを知っていますね。あの子はそのせいで、婚約破棄されました。結婚して幸せな家庭を築いている貴女に、嫉妬したようです。なんでお姉ちゃんばかり……と、真弥は言っていました』⑦
　――私だって頑張ってきたのに、いつもお姉ちゃんは私の先を行く。仕事だって大きなプロジェクトを任されて、お姉ちゃんの背中が遠い。
　あのとき真弥は冗談めかして言っていたが、あれは本音だったのではないか。思い返すと、あのときの真弥の目は――どこか、虚ろだった。
『母：二度目になりますが、もちろん貴女は悪くありません。ただ、折が悪かっただけです。ですが、念のため……あなたはしばらく、あの子と距離を取ってあげてください』
　母の言葉は残酷だった。
　真弥がどう思っていようと、彼女は大切な妹だった。しかし、その妹という位置を、彼女は嫌ったのかもしれなかった。
　私は静かに泣いた。飛行機のモーター音は静かで、私の気を紛らわすことはなかった。

　　□

　家のドアは重かった。⑧
　旦那は幸いにも留守だった。旦那にこの表情を見られたくなかった。　
　私はそこで、ジョッキに入れたビールを飲み干した。私は酒を飲まない方ではあるが、酒には弱くはないと思っていた。それでも、頭がくらりとした。ビールが溢れかけて、服に掛かりそうだった。②⑩
　真弥……。
　果たしてあのときのことを覚えているだろうか、彼女は？
　風船で手紙を飛ばし、世界中に友達を作ろうとしたときのことを。⑤
　ベイゴマで競い合ったあのときのことを。⑪
　鼻を抓みあって、変顔を笑いあった、あのときのことを。⑬
　獣道を辿って迷子になりかけ、二人で泣いて助けを求めたあのときのことを。⑭
　それさえ覚えていてくれれば、分かり合える気がした。
『覚えていますか、あのときのことを』
　しばらくして、妹から返信が来た。内容は私への不満をぶちまけたものであったが、そのあと、謝罪の言葉があった。
『真弥：ごめんなさい、お姉ちゃん。私はお姉ちゃんに嫉妬していました。まだ、嫉妬は終わりません。それでも、お姉ちゃんのことは好きです。偽りのない不満を言った後ですので、信頼してください。これは偽りのない言葉です』
　そして、涙の跡は残りつつも、ピースサインをする写真が一枚、表示された。
　それを見て私は――、真弥はこれから喜んでラフランスを食べてくれるのだと思った。
（了） [編集済]