冷めないFu-fu

愛してる。



生まれて初めて口にした言葉に、自分でも照れながら、しかし彼女の目をしっかり見つめた。

丁寧にカールした栗色の髪も、上向きの長い睫毛も、赤い小さな唇も、華やかで女性らしい服装も、全部が全部、綺麗だった。

彼女は呆けたように私を見つめ返す。が、みるみるうちにその愛らしい瞳に涙が浮かぶ。



ああ、やはり彼女は美しい。



あいつとは大違いだ。



ろくに手入れもせずくたびれた肌、歳を感じる曲がった背筋、卑屈な表情と面白みのない性格。

今日も、何か言いたげな様子で、しかし何も言わずに私が出ていくのを黙って見送っていた。

あいつは……いや。一瞬脳裏をよぎったその姿は、すぐに意識の外へ追いやった。

今は彼女のことだけを考えよう。

泣き顔を覆い隠しながら、彼女は尋ねる。

「奥さんのことは、愛していないの？」

何を今さら。答えのわかりきった質問だった。

「当たり前だ。妻のことは、愛していない」

うつむいた顔を下からのぞきこむと。



濁った色の涙がぽつりと落ちた。



ぎょっとして、思わず後ずさる。



涙で崩れた化粧の奥に、乾いた皮膚が見える。



「わかったわ。じゃあ、離婚しましょう」



低く擦れたその声は、今日私の背に力なく「行ってらっしゃい」と呟いたものと、恐ろしいほどそっくりだった。



END



男は毎週末、浮気相手とデートをしているつもりだったが、その正体は着飾って厚化粧をした妻だった。妻は浮気相手を装っているときに「愛してる」と言われたので、妻としての自分は愛されていないのだと痛感し、離婚を決意したのだった。