引ったくり

私

はある日、母を買い物に誘った。

ありきたりだが、「初給料でプレゼント」をしようと思ったのだが、気恥ずかしかったし、何より正直学生時代から話す機会が減ってしまっていた私には何を贈っていいのかわからなかった。



贈ったとしても、気に入ってもらえなかったら切ない。



そこでデパートに母を連れてきた。



「好きなもの買いなよ。」



目をあわせずに言った。



「本当にいいの？じゃあ、ちょっと贅沢しちゃおうかな…。」



しばらく品物を選んだ結果、真っ白いカバンを抱えて、顔色を伺うように値札を見せてきた。



たった2000円。



いや、確かに普段1000円くらいの安売りのカバン使ってるけど。



これも清算セールの値引き品でしょうが…。



これでもね、今月の小遣い分くらい使い切るつもりで来てるのよ。



それが2000円かよ…。



「…安っ。」



一言だけ言ってカバンをひったくってレジに走った。



代金を支払って、少し拍子抜けしたのを顔に出さないように渡した。



母はまるで犬が尻尾を振るかのように、うれしそうにそのカバンを抱きしめたのを見て、少しだけ涙目になった。



「壊れたらまた買ってあげるから。」



「いやいい。直して使うから。」