孤独のおにぎり

ここはある小さな宿泊対応型介護施設の一角。

新人介護員の私は、欠伸を噛み殺しながらいつも通り職場の朝礼に出席していた。

「お疲れ様。夜勤大変だったでしょ」

隣にいる優しい先輩が私をねぎらってくれる。



それもそのはず、私は昨日初めて一人で夜勤をこなしたのだ。

今回対応したのは物静かな方一人だったから、

そんなに慌てるようなことはなかったけれど。



それでも独りきりで一晩乗り切った、という達成感に浸っていると、

「お疲れ様。初めて一夜を乗り切った感想は？」と声がした。

見ると、いつもは厳しい主任がニヤニヤしながらこちらを見ていた。

大変でした、と答えると、

「そうだったの。じゃ、また頑張らなきゃね。はい、これ」

と、紙袋を渡してくれた。



他の職員に促されて紙袋を開けると、中にはおにぎりがいくつか入っていた。

おにぎりはどれも個性的な色形をしており、どれもおいしそうだった。

「あの主任さん、いつも夜勤明けの人におにぎりを渡してくれる

のよ。

だからみんな夜勤明けの日を『おにぎりの日』って呼んでるの」

『おにぎりの日』デビューおめでとさん！、と周りの職員は笑っていた。



「ただし、そのおにぎりは退勤してから食べる

こと。

残業代をホイホイ出せる程ウチはお金はないからね」

業務の引き継ぎが終わったらさっさと帰りなさい、と

再び厳しくなった主任に尻を叩かれた私は、急いで引き継ぎを終わらせて

おにぎりの味を楽しみにしつつ帰路に就いたのだった。



【まとめ】

・「おにぎりを渡される日」＝「夜勤明けの日」。

・おにぎりは気を効かせてくれた上司がねぎらいの意味を込めて渡してくれる。

・昼食の時間までいると残業扱いになってしまうため、

さっさと退勤するように指示される。



元ネタはテレビ番組「サラメシ」で見かけた看護師さんの話。