タイム・オーバー

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＊ショート解説

新人女優を目指すがけっぷち少女が、親と約束した最後のオーディションで「泣きの演技」を見事に見せた。初舞台・初主演を勝ち取り、所属事務所まで決まってめでたしめでたし。



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ここはオーディション会場。



3ヶ月に渡る長期公演の舞台「ウミガメのスープをください」に出演する人々を選定するためのもので、ちょっとした運動能力や発声、滑舌、歌唱力などのテストが行われ、最後に演技のテストが行われていた。



テーマは、不安から来る泣きの演技。

出来れば、目薬などを使わずに、手で隠したり等のごまかしをせずに、表情を見せて欲しいと言う要望があった。



次々に演技を披露したが、監督のお眼鏡にかなう人は現れなかった。



表情の演技は皆それぞれ悪くはないが、物を使わず涙を流してくれるまでにはいたらなかった。



最後の候補者が入室した。



「８６番、エイミィ・オーロット　よろしくお願いします！」



彼女の評価としては、歌唱力はあり発生や滑舌も良好。

運動能力は多少ダンスが出来るのでおそらく問題ないだろう。

と、ここまではたどり着けるレベルだ。



後は、演技のテスト。



「改めまして、僕は監督のジャック・ディーノだ。早速だけど、最後のテストだ。」

「ハイ！よろしくお願いします！」

「不安でたまらず、泣いて欲しい。できるだけ、表情を見せるように、手で覆い隠したり目薬を使わずに。」

「ハイ！」

「用意、スタート！」



エイミィは不安になることを想像した。

真っ暗闇の中。旅先で財布を落した。迷子。



しかしどれもしっくりこなかった。



ふと焦りが生まれた。



＜もし、このオーディションに合格できなかったら、私は完全にチャンスを失ってしまう。＞



そう、彼女にとってこのオーディションは最後のチャンスだった。



夢である舞台女優になるため、高校を卒業後養成学校に入った。



しかし、なかなか芽が出ずに一度も端役ももらえずに卒業を迎えてしまったのだ。



両親と約束もしていた。

今回のオーディションでも合格できなければ、あきらめる、と。



事実上、最後のオーディション。



＜泣け、泣けエイミー！＞

エイミーは焦り、苛立つ。



ちらりとジャックが時計を見たことに気付いた。



＜もう、終わるの？＞

焦りと苛立ちが、どうにもならない不安にすり替わった。



はらはらとあふれて止まらなくなる。



「え、もう！？」

ジャックは仰天した。



その声にびくっと身を震わせるエイミィ。

「あ、え、え？」



「いや、あまりに早くて！ごめん、もう一回泣ける？」



「あ、はい、たぶん…。」



ふたたび、集中し、先ほどの不安を思い出した。



＜よくわからないけど、もう終わりにしたくない…いや、いや！＞



10秒も経たないうちにぽろぽろと涙がこぼれる。



「すばらしい！君のような人を探していたんだ！」



ジャックは興奮のあまりエイミィに抱きつき、手を握り、強く握手を交わした。



「え、えっ？」



「演技で本当に泣ける人を、僕の舞台の主役にしたかった。エイミィだっけ、所属事務所は？」



「あ、いえ、養成所を卒業したばかりで、どこも…」



「よし、僕の事務所においで！」



出された名刺は、誰でも一度は耳にしたことがある、超有名な芸能事務所だった。



「僕が一から、指導してあげるから！」



エイミィの夢が、実現した瞬間だった。