【世界田中奇行】「海」にまつわる「スピード感のある話」

船

が座礁した原因だが、実は巨大な鯨が船にぶつかったのだ。



そして、魚の群れも人も船の破片も見境無く、その辺りにあるものを何もかも飲み込んでいった。



それが幸いした。



田中は、船の一部と一緒に飲み込まれ、気がついたときは船の甲板だったものの上にいた。



火をおこす材料も多数あった。



魚はその辺にいる。

服をアミ代わりにすれば捕れるだろう。



…一人ぼっちではあるが、真っ暗だが、しばらく何とか生きていけそうだ。



それに、１つだけ無事に帰れる可能性があった。



鯨の胃に深く突き刺さった、船のマストや甲板の一部。



これなら、もしかしたら…。



そのときは思ったよりも早く来た。



かなり大きく揺れる鯨の腹の中、田中は刺さったマストにつかまりながら、必死で待った。



そのうち、あれほどに激しく動いていた鯨の腹が微動だにしなくなった。



代わりに、少しずつ決まった方向から海水が流れ込んできていた。



チャンスだ。

そう感じた。

急いで水の流れをさかのぼって行った。



デカいカーテンのようなものの前まで辿り着いた。



隙間から、光が漏れ出ている。



そのカーテン…鯨のひげを強引に開いていく。



間違いない、外だ。



田中は数日振りに外気に触れた。



鯨はすでに死んでいるようだった。



そう、田中は鯨の腹に刺さったマストと、その根元から流れる血の量を見て鯨の死期が近いことに気付いていた。



一か八か、それを待ったのだ。



死んだ鯨の背中に上がり、海を眺めたところ、泳いでいける程度の距離に島が見えた。



そうして、田中は奇跡の人としてテレビ取材を受けることになったのでした。



＊実は鯨に食われた田中。でも田中ごと船を食っていた鯨の腹には、食われた船の破片が刺さっていました。それが原因で鯨は死に奇跡的に田中は生還できたのでした。