法規省での昼下がり。黒焦げの弁当を頬張りながら、座高の高い男が言った。
「え、アイツが?! 被害者が死後魂の残らない吸血鬼で、霊媒で犯人を確定できなかったとは聞いてたが……一体どうして?」
足の短い男が爬虫類のような目をぎょろつかせて驚くと、座高の高い男は話を続けた。
「ああ。なんでも、事件の容疑者にアリバイがあった所為らしい」
足の短い男は、ペースト状の何かを喉に流し込むと苦笑した。
「アリバイ? 瞬間移動や幻影の魔法でそんなのいくらでも覆せるじゃないか。それとも何だ? 幻影の魔法が通じない役人に取調べでも受けてたのか?」
「被害者の死亡推定時刻周辺は、友人らと一緒に居たらしい。だが、時々全員の監視下から外れることもあったし、そもそも、友人らのほとんどは簡単な幻影魔法に引っかかったから、証言の信用性は薄い」
「じゃあ、現場に結界や魔よけの呪いでもしてあったのか?」
「現場には、結界や魔よけも含む、あらゆる魔法の痕跡は無かった」
「おいおい、それじゃどうしてアリバイが成立するんだ?」
さて、何故アリバイが成立したのでしょう?
※問題文の通り、魔法・ファンタジー要素が前提となっています。
※会話風になっていますが、回答は出題者が行う普通のウミガメです。「座高の高い男」と「足の短い男」は真相には関係しませんので、ご了承ください。
※この問題は、ツォンさんの「魔導師探偵・T(世界観と“法規省”)」と「BAR LATEthink(解説でのお楽しみ)」へのダブルオマージュとなっています。ツォンさん、ありがとうございます。
【ウミガメ】
一言コメント欄
この世界には、魔法によって実現できないこともありますか? [編集済]
問題文に書かれている内容は、覆せないものとお考えください。
容疑者は体質的に常に魔力を出していますか?
NO. 現場に居ただけで痕跡の残るような体質ではありません。
容疑者の身体の大きさは重要ですか?
NO.
この世界はDNA検査などの科学捜査は実施していますか?
関係ありません。
異世界への移動は重要ですか?
NO.
魔法により、指紋や足跡などの物理的痕跡を完璧に消し去ることは可能ですか? [編集済]
関係ありません。
クビになった男と容疑者は知り合いですか?
NO.
容疑者は魔法を使えましたか?
YES.
つまり魔法の存在する世界でアリバイを立証すればよいのですか?
YES.
被害者は自殺又は事故死でしたか?
NO.
容疑者のいたところに瞬間移動を妨害する魔法がかけられていましたか?
NO.
霊媒術師は加害者の関係者のため私怨が入り虚実が混じる恐れがありましたか?
NO.
加害者に殺人が不可能な状況であることが証明されましたか?
YES. [良い質問]
魔法によってアリバイが証明されましたか?
NO.
アイツがクビになった事は重要ですか?
ある程度YES. こういう状況だったからこそ、彼はクビになりました。 [良い質問]
友人たちは、容疑者に幻影魔法をかけられたのですか?
NO. かけられるはずがありません。 [良い質問]
足の短い男は、座高が高いですか?(すみません、なんだか気になってしまって・・・)
座高が高い=足が短いと思われがちですが、足が長く座高の高い人も、足が短く座高の低い人もいるのです。え?彼の場合?座高の高い男よりは低いです。
容疑者は人間でしたか? [編集済]
NO! [良い質問]
アリバイとはつまり、容疑者が犯行時刻に、別の場所にいたということが証明できたという意味ですか?
NO! 容疑者が事件現場に行けなかったことを指します。 [良い質問]
アリバイを証明する要因は、被害者にありますか?
NO.
アリバイとはつまり、容疑者が犯行時刻に犯行があった場所に行ってないということが証明できたという意味ですか?
YES! [良い質問]
容疑者が魔法下手でも成り立ちますか?
YES.
犯行時刻に容疑者は友人たちに幻影魔法をかけていたことが間違いないなく、同時に犯行を犯すことが不可能でしたか?
NO.
男は既に死んでいたのでアリバイは完璧でしたか?
YES! [正解]
被害者が吸血鬼である事は重要ですか?
NO.
被害者が吸血鬼だから法的に殺人が起きたのは遥か過去で特定不能なので容疑者のアリバイは成立しますか? [編集済]
NO.
容疑者は魔法生物で「あらゆる魔法の痕跡は無かった」というのが逆にいなかったことのアリバイになりますか?
NO.
被害者の死因は重要ですか?
NO.
被害者の死んだ場所は重要ですか?
NO.
容疑者の能力は重要ですか?
NO.
容疑者は、本当はこの事件の犯人ですか?
NO! [良い質問]
アンデットの魔法は存在しますか?
それでも成立します。
24より犯人は何者かの変装だということが判明しましたか?
NO. 容疑者はただの容疑者です。
霊媒術師が乗っ取られた振りをしていて被害者を殺害しましたか?
NO.
霊媒術師が乗っ取られた振りをしていて被害者を殺害しましたか?
NO.
死亡推定時刻周辺、容疑者は本当に友人たちと一緒にいましたか?
YES. 彼の葬儀をしていました。 [良い質問]
横幅の広い男が、バーカウンターの向こうに声を掛けると、透明なゴブレットを持った男が返事をした。
「おそらくは。こういうことでございましょう?」
マスターは、横幅の広い男の前に空のゴブレットを置いて見せた。
「アブサンでございます」
横幅の広い男は、目の前に置かれたグラスの意味を測りかね、マスターに尋ねた。
「何だこれは。入ってねえ酒をどうやって飲めっていうんだ」
マスターは、薄い唇の端を少し持ち上げて頷いた。
「飲めませんよね。それと同じです。葬儀中の吸血鬼が容疑者だとしたら、殺人なんて出来るはずがありません。だって、魂がない死体なのですから」
マスターがそう言って笑うと、白々と光る牙が姿を見せた。
マスターが呪文を唱えるとごぼり、と音を立てて、ゴブレットの底から緑色の液体が湧きあがってきた。マスターはそのまま、ゴブレットに角砂糖を落とし、印を切る。青色の炎が角砂糖を包み込み、さらに、その炎を緑色の液体が包んで、宙に浮かぶ球となった。
横幅の広い男は、マスターの十八番である水の球を嚥下した。どのグラスで飲むのとも違う変わった触感は、この頃の魔界のトレンドだ。
マスターは、黄色の花がぽつぽつと付いた草をつまむと、バーカウンターに置いて見せた。
「アブサンの原料であるニガヨモギの花言葉は、「不在」です。彼がもうこの世界に居ないことは残念ですが、まずは潔白を示せたことから祝いませんか」
「ああ、そうだな。連中が無能なのはいつものことだが、まさか葬儀中の魂のない死人を容疑者にしてクビになる奴がいるなんて思わなかった。普段ならあいつの格好の肴になってただろうしな」
2人の男はバーカウンターを挟み、彼らの仲間の“不在”を想い、グラスをぶつけ合った。
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