幸せな家族（仮）

似ている。

幼い頃の俺に、よく似ている。



妻の膝で絵本を読んでもらう息子を眺める。

少々やんちゃだが、すくすくと育っている。

その姿だけ見れば、微笑ましく幸せな瞬間なのだけれど……。



俺には、不安を煽るものでしかない。



日に日に息子は、昔の俺に似てきている。

整形する前の、俺に……。





今思えば、整形しなければいけない程ではなかった。

ただ、あの時は、顔さえ良くなれば何でも叶うと思っていた。

就職活動がうまくいかないのも、彼女に振られたのも、友達に馬鹿にされるのも、全部全部、顔のせいだと。

俺の能力が足りないんじゃなくて、こんな顔で産まれてきたせいなんだと。





整形したあとは、就職もできたし、美人な彼女もできた。結婚して、可愛い子どもも産まれた。友達も俺を羨ましがるようになった。

俺は幸せになった。……はずなのに。





子どもが産まれたとき、周りから、妻に似ていると言われた瞬間。

とんでもないことに気づいてしまったんだ。



息子は妻と、そして整形する前の俺に、本当によく似ていた。



小さいうちはまだ良い。顔かたちなんて成長すれば変わる。

しかし……もっと大きくなったら？ はっきりと、昔の俺の特徴が出てきたら？



息子は本当に、妻に似ている。そして……今の俺には、全く一ミリも似ていない。



夫に似ていない息子だなんて、昼ドラのようなネタ、周囲が黙っているはずかない。

どう考えても、父親が別なのだと思われる。きっと妻は、浮気を疑われる。俺のせいで、身に覚えのない噂に苦しめられるのだ。子どもだって、物覚えがついてくれば、傷つくかもしれない。





幸せな家族。俺が欲しかったものだ。手に入れた。顔を変えたから手に入れられたのだと、そう思っていた。



幸せになった、はずだったのに――。



END



男は過去に整形をしていた。子どもが日に日に以前の自分と似てくるため、妻が浮気を疑われ、苦しむこと、そして今の幸せを壊すことが不安でならないのだ。