薄い氷

私は幸せな生活を送っている。

大企業で働き、家庭も大切にする良き夫



お受験にも合格し、お手伝いもしっかり出来る愛らしい子供と幸せな生活を送っていた。



主婦業の合間に趣味でやっているブログ。

<幸せな結婚生活>にて自身の日常を綴っている。

時にはキャラ弁をアップしたり、週末の優雅なプチ旅行をアップしたりと気ままにやっていた。



そんなブログも読者が増え、ブログのコメントも多くなってきた。



羨ましいと言ってくれる人。

うちの旦那は～と愚痴る人。

妬みから、荒らしてくる人。



そんな中、ひとつの相談が寄せられた。

「あなたの様な幸せな家庭を持ちたくて

真似をしていたのですが、うまくいきません。どうかアドバイスを頂きたいです。」



その人はAさんといい、ブログ開設からずっとファンで居てくれてた人だ。

いつもコメントをくれる大切な読者。

Aさんの為に私は鍵つきのチャットルームを作り、相談に乗った。



最初はゆっくり相談に乗っていたのだが

段々とAさんはエスカレートしていった。

「朝、旦那の機嫌が悪い。どうしたらいいですか？」

「子供が何度言っても野菜を残します。どうしたらいいですか？」

非常に些細な相談が多すぎるのだ。

そして、私のレスが遅れると

「今何されてるのですか？返信早くください！」

「ブログアップする暇があれば私の相談に乗ってください！」

「後5分経っても返事がなければ、あなたから見放されたと思い離婚しようと思います。」



いつしか私も早く返事をしなくては。

Aさんが困ってしまう。Aさんが頼れるのは私だけ。と感覚が麻痺してしまった。



パソコンに向かう日が増えていく。

返事をしなきゃ。Aさんが待ってる。Aさんが幸せになるために。



寝る時以外はAさんの相談に乗る日々が続いた。



綺麗にしていた自慢の部屋はゴミだらけの部屋になり

綺麗に手入れされていた自慢のガーデンは野良犬の糞尿で沢山になり

自慢の料理は夫が買ってくるコンビニ弁当になり

幸せな結婚生活ブログは更新もされず閑古鳥が鳴いた。

夫からは何度もいい加減にしろと怒られた。



それでもAさんの幸せの為に相談に乗り続けた。



そしてついにAさんは、

「やっと幸せな結婚生活を築くことが出来ました。あなたのおかげです♪」

という発言を最後にルームに来ることはなかった。



私は、ホッとしたと同時に我に返り周りを見渡した。

ゴミだらけの部屋に置かれた離婚届と夫からの別れの手紙。



私は全てを失った。何も残っていない。

ブログも<幸せな結婚生活>もう、アップする事もできない自分の置かれた状況。





私は泣き崩れた。





そんな私を窓越しに見つめる一人の女性。



お隣の主婦「いい気味だわ…いつも自慢話の様に家庭やブログの話しやがって！

あなただけ幸せだなんて許せなかったの。ごめんなさいね♪」