【遅れてきたラテクエ 誘宵 】　－かぐやひめー

彼は吸血鬼。

清らかな乙女に狙いを定め、夜な夜な血を吸う種族。



彼は、ベジタリアンの３姉妹の家庭に狙いをつけていた。

ベジタリアンの血液は、ジューシーで喉越しがいいのだ。



彼女らを襲う日付は、２月２９日と決めていた。

なにかしら「特別な日」というのは、魔力が強まるのだ。

４年に一度のうるう年のこの日、魔力は大きく高まっていた。



そして、夜。

寝静まった３姉妹の寝室に忍び込んだ彼は、末の妹に近づき…



その清らかな乙女の寝息を 嗅ぐや、悲鳴 をあげた。

「ぐおおおおおっ！！こ、この臭いは！？」　乙女の寝息は、ニンニクの香りがした。



「キャっ、何？！変質者！？」 「黒いスーツに黒マント…まさか吸血鬼！？」



彼はムードを出すため、コテコテのドラキュラ伯爵スタイルで忍び込んでいたのだ。

そのせいで、すぐに正体がバレてしまった。



「くそっ！ならばこっちの女だ！」　彼は、まだ寝ぼけている長女に近づいた。しかし…



「…！！　きっつー！」　長女の口臭は、さらにキツかった。



「な、何よ！失礼ねー」　

「姉貴！そいつ吸血鬼だよ！今夜食べたモツ鍋とペペロンチーノの匂いが効いてるんだ！」



「あ、私、お昼もエビのガーリックオイル煮食べたわよー」

「くぅ、たまらん！本来、ベジタリアンの体臭は肉食人種よりも芳しいというのに…」



その間に、台所に行っていた三女が、大量のニンニクを持ってきた。

「えーい！これでもくらえー！」



「ぐわあああ！なんで一般家庭にこんな大量のニンニクが！？」

「今日、２月２９日は”ニ”ン”ニク”の日よ！」

「レストランでもお店でも、ニンニク・ガーリック製品がお買い得なんだから！」



「こ、これはたまらん、退避～～～！」

吸血鬼は、スーパーガーリックアタック（注：スーパーで安売りのニンニクを投げつけるだけ）を受けて逃げ出した。



…その後、姉妹の家の軒先にはニンニクがぶら下げられている。

そして、彼女らはニンニクを毎日欠かさず食べている。

最初は彼氏から嫌がられたが、事情を話したら、彼もニンイクを常食するようになった。

ニンニク臭、みんなで食べれば怖くない！



その頃、吸血鬼はウルウルと涙を流していた。

「うるう年なんて…日本語なんて…ダジャレなんて大っきらいだー！」