山形刑事の妖怪退治八　～ぬりかべの怪～

山形「うむ、県外に両親と妹が住んでいるようだ。比較的冷静に受け止めてくれたが、どちらかというと現実感がなくて受け止めきれていないという感じだったな」

山形「そもそも大型車両があまり通らないあたりで、その可能性は低いと考えられる。轍が何本も重なっているため断言はできないが、たとえあったとしても、電柱などが邪魔できっちりふさぐことはできなかったろうな」

山形「発見者のことだな？　この店は深夜2時まで営業しており、すくなくとも閉店してざっと片づけた頃は、閑散として人通りはなかったようだ。他の店舗の多くも大体2時にしめるようだな」

山形「うむ、雪が降っている最中だったからか途中から消えてはいたが、この路地に残っている足跡は狩野のものだけだった。歩き始めの足跡はもう消えてしまっていたため、そちらは不明だが」

山形「すまんが現場周辺から今のところ情報は出ていない。多くの店が閉店した後の飲み屋街だ。ろくに目撃者がいなかった」

山形「午前四時から前後一時間といったところではないかと推測される」

山形「すまない。調書に間違いがあった。午後十時三十分とあるが、正しくは「午前」十時三十分だ。すまない。この時間帯は人通りはないようだな」

山形「うむ、午前一時ごろから午前五時前といったところだろうか。正確な時刻は不明だが」

山形「うむ、指紋はついていなかった。ただ、時期柄手袋をしていてもおかしくはないから、拭き取ったのか最初からついていなかったのかはわからないが」

山形「うむ。足跡と一緒に血痕が残っていたのだが、立ち止まっていたと思われる地点の血痕は量が多く、また傷口付近ではなく足元に集中していた。そのためここでしばらく立ち止まり、出血が足元にたまったものとみている」

山形「どういうことだろうか？　狩野は死亡した被害者であり、市内在住の大学生だ」

山形「そうだな………多量のアルコールと、それから風邪薬らしい成分も検出された。恐らくどこかの店で飲んだ帰りだったのだろうな」

山形「これと言って特徴のない、果物ナイフだな。どこの店でも扱っていそうなもので、取扱店から絞るのは難しいだろう」

山形「路地に面した出入口はないな。勝手口の類はあるが、使っていない店も多いようだな。遺体があったのと反対側はまた別の通りに接続しているな。途中で分岐もある」

山形「いや、古いものだったから動きががたついてきたようだな。細工がされていたりということはなかった」

山形「ふむ………なにか、か。もう少し具体的に頼めるだろうか？」

山形「第一発見者か？　内海直樹、だな」

山形「ふぅむ、難しい質問だな。大分足元がふらついていたようだし、踏ん張れるような状態であったようには思えないな。壁らしきものの破片なども落ちてはいないようだ」

山形「うむ。財布と煙草、それに風邪薬の箱もポケットから見つかった。倒れこんだ体の下には携帯電話があった」

山形「なるほど、そういうことか。履歴を見てみたところ………着信履歴が一件あった。名前は春野怜。通話時間は一時間近いな。通話開始時間は午前三時半ごろ」

山形「うむ。春野怜。年齢は21才。被害者と同じ大学で、最近付き合い始めたらしい。今後は彼女にコンタクトが取れるようになったぞ」

春野「ヨシとちょっと喧嘩しちゃったのよ。あいつも大分酒が入ってたみたいでべろんべろんで、あたしの話全然聞こうとしないし、面倒くさい奴だとか言い始めるし、頭にきてね」

春野「電話切ったのがもう、午前四時…半頃？　でしょ、確か。さすがに寝たわよ」

春野「あたしもそれが気になって電話したのよ。浮気してないかって」

春野「ヨシとは最近付き合い始めたんだけど、その前は別のコと付き合ってたのよね、あいつ。あたしがレポートで忙しいってのに飲み会行って、しかも前のコも一緒なんだから、釘くらいさすわよ」

山形「被害者が以前付き合っていた女性は諏訪春子。こちらも同じ大学の学生だな。飲み会のメンバーも大学の馴染みのメンバーであるらしい。これは春野も承知の事実だった」

山形「うむ。飲み会をしていた飲み屋を特定した。奥まったところにあるな。現場まで歩きだと、俺の場合十分くらいだな。帰りはいつも通りばらけて、飲み会に参加した女の子ひとりと同じ方向に歩いて行ったようだ」 [編集済]

山形「そうなるようだな。飲み会の後、メンバー内のハンドルキーパーが他のメンバーを送り、被害者はタクシーを拾って帰るのが定例らしい。事件の日は、被害者が普段よりひどく酔っていたため、飲み会に参加した女子――諏訪春子だったようだ――がタクシーを拾うまで送ることにしたらしい。結局途中でわかれて諏訪は他のメンバーと合流している」

山形「ハンドルキーパーの中に、つまり酔っていない人間の中に、風邪薬を飲むところを見た者がいた。複数人に目撃されていることから、間違いないだろう。使用していた薬は市販のもので処方箋もなく医師の確認は取れないが、「本人がそう言っていた」「普段よりいくらか調子が悪そうだった」という証言が出てきた」

山形「諏訪とコンタクトが取れた。今後は諏訪への質問が可能だ」

諏訪「最初はそのつもりだったんだけれど、その、邪魔だから帰れって、言われちゃって……あの人、酔うと怖いから。一人でも大丈夫だっていうから、すぐに別れたわ。それが3時10分くらいで、皆と合流したのは15分くらいかしら。今ならまだ間に合うかも、って少し急いだから、すぐに合流できたわ」

山形「通りの方は、警察が到着したときには内海直樹、飲み屋の店主の足跡だけが見られた。ただしこれははっきり新しいものだ。通りから手を伸ばしても被害者のあたりまでは届かないな。二メートルと少しくらいはある」

山形「飲み会のメンバーは全員傘は持っていなかったようだ。まあ鞄の中まで改めたわけではないので、折り畳み傘くらいあったかもしれんが、被害者は鞄も持っていなかったしな」

山形「ふむ………いや、そういうものはなかったな。通話記録も春野からの一件だけだな」 [編集済]

春野「ええ、そうよ。ハルコ、そう、ヨシの前の彼女ね。ハルコも参加してたから、浮気しないように釘刺したのよ」

山形「うむ、大学の友人とのメールや、通話記録が残っていた。俺はあまり携帯を使わんのでわからんが、まあ一般的な使用量ではないだろうか」

山形「この時間まで空いてる店は他にはないようだな。被害者たちが飲み会をしていた店の3時が一番遅い」

山形「閉店時間である3時に終わるようだ。これはいつも同じようだな」

山形「諏訪はまだ未練があるようだったが、被害者の方ではけんもほろろといった様子だったようだ」

山形「いや、なかったな。なるほど……被害者は酒を多量に飲み、さらに風邪薬を飲んでいた。これには鎮痛作用も含まれていた。しかも現場はかなり寒く、酒で鈍くなった体がマヒしてもおかしくはない。気付かずに一時間も電話し、そして終えた時にはもう瀕死だったということだな」

山形「足跡が残る程度だな。2㎝くらい、か？」

山形「一か所だな。結構深く刺さっている。体重をかけて体当たりするように刺した、のかもしれん」

山形「持ち物の紛失は恐らくなかったようだ。財布の中身も残っていた。第一被害者が現場で倒れた後に接近していれば、必ず足跡が残っていただろう」

山形「残っていたものを調べたが、確かに市販の風邪薬だった。ただし、鎮痛作用があり、注意書きにもアルコール等と同時に服用しないよう書いてあるな」

山形「八人だったようだ。うち車持ちは二人。被害者はいつも自分でタクシーを拾い、残りの五人は普段は車持ちの二人に送ってもらっていたようだ」

山形「春野は当日は来ていなかったから、諏訪と狩野を除いた6人だな。屋良健司、龍田有作、富田光、怒田理恵、伊集院耕生、豊島真男の六名で、車持ちは屋良と伊集院の二人だったようだ」

山形「当日もきっかり3時にしめたようだ。開店時間と閉店時間をきっちり守るポリシーの持ち主らしい」

春野「違うわ。前の飲み会までは、ヨシはハルコと付き合ってたのよ。でもその時にはもう仲が悪くなってきてて、それで私と付き合い始めたのよ。ハルコの方はまだ未練たらたらみたいだし、私は飲み会に行けないから見張ることもできないしで、せめて電話で釘を刺しとこうって思ったのよ」

山形「うむ、俺もあんたの説は信ぴょう性があるように思う。早速調べてみよう」　……………。　山形「うーむ、残念ながら当日来ていたと思われる服からはルミノール反応は検出されなかった。また、メンバーの証言が『若干曖昧になる部分』があったため、信頼できるかどうかは不明だ」

山形「質問２を参照にしてくれ。雪の解け具合や轍の後から、車は止まっていなかったものとみている」

山形「その通りだ。手袋をしていたという証言と、していなかったという証言でわかれている。成程、血液が付着したために途中で外したと考えれば、証言に矛盾は出ないな。合流までにさして時間がなかったことを考えれば、まだ付近にあるかもしれん。調べてみよう。発見できれば立証できるだろう」

山形「被害者以外は全員揃っていたようだ」

山形「全員揃ってはいたが、一応当日の服や所持品を調べさせてもらった。反応は出なかった」