ゆうしゃとまおう

Ａ．

いつも一人ぼっちの少女が、今日もお気に入りの場所…マンションの屋上、その貯水タンクの上で夕日を眺めていた。

そして母親からもらったクレヨンで絵を描いていた。



父親は離婚調停中で、母親と親権を争っていた。



普段は母親と暮らし、女手一人で育てていた。



ある日、父親が娘を訪ねた。

『パパとまた、一緒に暮らそう』

娘に選ばせ、強制的に親権を奪うためだった。

『ママも一緒？仲直りしたの？』

『…ママは一緒に暮らさないよ。パパと、新しいママと暮らすんだ』



こどもは直感した。

時々母親が誰かと電話でケンカしている理由を。

一人になると母親が、密かに泣いていた理由を。

その原因が、自分を連れ去ろうとする父親にあると、理解した。



そして…。

(パパは、アニメの<まおう>と同じだ。ママをいじめる<まおう>だ。)



(なら、ふういんしよう!二度とでてこれないように!)



「あっ！クレヨンおとしちゃった！」

娘は貯水タンクの緩んだ蓋を開け、わざとクレヨンを落とした。

「パパとって！」

「新しいの買ってあげるから」

「やだ！あれがいいの！」

貯水タンクに父親が上がって来る。

「どこだい？」

「あそこ！」

父親がタンクを覗き込む。

「えい！！！」



．

．

．

．

．



「パパはどうしたの？今日、来てたのよね？」

切なそうな顔の母親が、娘に訪ねた。

娘は自慢げに、その【武勇】を語りだした。

「パパはママをいじめるまおーだから、にどとママをいじめられないように、出てこれないようにふーいんしたの！」

娘は父親を突き落とした貯水タンクを指差した。



母親は、何も言えずに娘を抱きしめて、泣いた。



そして、我が子を死んでも守り抜くことを…、たとえ身代わりになってでも守り抜くことを誓う。



モトネタ：某刑事ドラマ